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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
風の国
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風の国 番外編 ある二人組の絆

今回は雷帝丸さんを助けてくれた元エリートであるラクトさんのお話です。過去に何があったのか少しだけ分かります。

 ―10年前―


「動くな! 風の国から依頼を受けた『武具(アタック)()勇者(メイル)』だ! 」

 扉を長い鎖に人の頭よりも大きな棘付き鉄球と柄をつけた武器、フレイルモーニングスターで木端微塵に突き破り、研究施設に入って来たのは『武具(アタック)()勇者(メイル)』ことラクト・ヤタノコマイヌ。モーニングスターの形状を独学で学んだ錬金術で棍棒、投擲ハンマー、グローブなどに変化させることができ、どの距離でも戦うことを得意とした筋骨隆々な男である。手袋の甲に予め錬金術の術式を用意し、錬金術の材料兼サブウェポンとしてヌンチャクや三節棍などの鎖を用いた暗器を多数所持しているが、剣術も魔術も一流と言っていいくらいの実力者であった。『多くの道具を所持できる能力』も相まって多数の武器を所持して鎧の代わりにしていることから『武具(アタック)()勇者(メイル)』と通り名が付いた。そんなラクトだが、才能があったにも関わらず実力不足としてヤタノコマイヌ家から魔術も剣術も才能無しと判断されて家を追い出された過去を持つ人物である。


「同じく『流星(ミーティア)()魔術師(ソーサラー)』だ。ここが勇者を誘拐している研究施設だな? お前たちを拘束する」

 ラクトの後ろにアスコルとは対照的な丸眼鏡の優男がいる。腰に一振りの反りが付いた剣を携え、杖などの補助アイテムを持たないこの男は『流星(ミーティア)()魔術師(ソーサラー)』ことアスコルである。アスコルはラクト以上に剣術と魔術に長けた剣も使う魔術師である。『自分が発する魔術が必ず成功する能力』を駆使した魔術師であるため物理的な力はないが、細長く片側だけに刃がある美しい剣のほかに魔術で光の剣を大量に生成して戦うこともあり、斬撃と魔術の速さと美しさを称賛されて『流星(ミーティア)()魔術師(ソーサラー)』と通り名が付いた。

 アスコルは元々捨て子だったが拾われたヤタノコマイヌ家では捨て子ながらも才能を認められて、ヤタノコマイヌ家にとって歴代最強ともとれる実力者だった。そんな彼は唯一の親友であるラクトが家から追い出された時に一緒に出て行ってしまった。そんな二人の最後となる戦いの話を少し見るとわかりやすい。


「ぐあぁっ! 」

「先輩!! 」

「俺はいい! 早く主任に連絡しろ! 」

「は、はい!! 」

 ラクトとアスコルは魔術師たちに攻撃や拘束して捕らわれた勇者たちの居場所を聞くが、誰も口を開かない。中には魔術で自爆や自害することで自ら口封じをする者もいた。

「うわっ!? うかつに近づけないな。下手すれば自爆で俺たちまで巻き込もうとしてやがる! 金属を加熱してきて俺を蒸し焼きにするつもりかよ!? 武器の予備がどんどんなくなる! 」

「大丈夫だよラクト、俺が魔術を一時的に封印させるから、そのあとでラクトが攻撃して捕えて。マーカーも付けておくから頼んだよ。『コール』! 」

「おし、力仕事は任せろ! 5秒後に前に出る! 」

 魔術師は大人数いるが、研究所の魔術師が束になっても二人の方が圧倒的に格上である。アスコル提案の作戦は成功して魔術師から情報を得ることができた。牢屋は最下層にあり、脱出できないようにある階層からは魔力が簡単に使用できない結界が張られているせいで簡単に魔術が発動できないようにしているという。しかし、この二人が格上過ぎであるがゆえに自爆することで情報漏洩を防ごうとしていることを後で反省する二人であった。



「魔術というか魔力が使えないんじゃ俺たち不利じゃねぇか? 魔力が使えないってことは錬金術も使えないってことになるから俺はモーニングスターの形状変化くらいしか影響はないが、アスコルは大丈夫か? 」

「何を今さら。俺は剣でも戦えるんだよ。それにこの剣はサムライソード! 旧世界の黄金の島国が期間限定で生産した魔剣、しかもサムライソードの中でも最強クラスの美しさに切れ味に堅牢さ、そして魔力の伝達で属性を付けられる伝説の魔剣『こてっちゃん』だよ。たとえ俺が弱くてもこてっちゃんが助けてくれるさ。それともラクトが錬金術を使えるように術式の破壊を優先する? ほら、ここに結界用の魔術の張り紙があるし」

 地下に進んでいくラクトとアスコルは周囲を警戒しながら結界を破壊することで魔術もある程度使用できるようにしつつ、何でもない雑談を交わしている。ヤタノコマイヌ家を出る前から二人は仲が良く、昔からずっとこのようなやり取りを繰り返してきた。だからこそ二人の絆は固いのかもしれない。

「いや、確かに俺より剣も魔術もすごいけどお前の剣と魔術の師匠は俺だからな? 同い年でも師匠は俺だし。しかもこてっちゃんはヤタノコマイヌ家の家宝だったのにお前が盗んでくるから大騒ぎになってただろ? 」

「だってラクトひとりじゃ生きられないし、俺も一人じゃ生きられないじゃないか」

「二人で一人ってか? 」

「あながち間違いじゃないよ。生まれた時は違えど同い年で一緒に成長して逃げ出して苦楽を共にしてきた仲じゃないか。ラクトが前衛やってくれるから俺だって魔術を安心して使えるわけだし、ラクトが危ないときは俺も前に出て戦える。俺の『自分が発する魔術が必ず成功する能力』で俺が魔術を使えないことなんて全然ないけど、より安全に戦えるならいいじゃないか。いつもやってきたことでしょ? 」


 慎重に歩を進める二人だが、敵に対する緊張感は適度に保ちつつもリラックスしている。その証拠にアスコルの丸眼鏡の奥の瞳は笑っている。毎回大規模な戦いのときにはお互いの絆を今一度結束させるためにも二人が自然と始めたことで、今回もその例に漏れない。

「バカ(ぢから)がある魔術師は三流だとでも? 」

「まさか、ラクトだって才能もあって努力もしたんだからめちゃくちゃ強いんじゃないか。魔術師各界は純粋な魔術の力だけがすべてで肉体を強化することとかは邪道だって考えているけど実践ではそういう考えはむしろ邪魔になるし、俺にとってはラクトは一流魔術師なの。死ぬときは一緒だよ」

「けっ、そういうことにしておくよ。でも今回もいつも通り帰るぞ。仮拠点として3か月くらい泊まった格安宿のグルコの責任取らないといけないし」

 アスコルの子どもっぽいところが若干苦手でラクトにとって相性が悪い。だがアスコルはそんなことお構いなしにずけずけとラクトの心の中にいい意味で侵入してくるため、いつも感謝しているとは照れくさくて言えないアスコルなのであった。

「そうだよ。二人で一人って言ってるのに先に子ども作っちゃってさぁ。しかもお世話になってる人に」

「あ、あれはしょうがなかっただろ!? グルコが俺の寝込みを襲ってきたから返り討ちにしたらまさか子どもができるなんて思わないじゃん!! アスコルだって同じ状況なら同じことするって!! 」

「俺はそこまで性欲強くないもん。ところでラクト。気が早いけど、もう子どもの名前は決めた? 」

「性欲の問題じゃねーよ。で、子どもの名前?あー…男ならアーゼ、女ならアミー。成り行きで出来た子どもだけど、なんだかんだで自分の子どもの顔を見るのが楽しみだなぁ」

「親バカになるの早くない? でも俺も子どもが出来たらいっぱい遊んであげたいね」

「人のこと言えねぇじゃねえか」


 こんな何でもない身内ネタ満載の会話から約10分後には幼女の姿をした魔女と遭遇することになる。だが二人はなす術も無く緊急脱出することになってしまった。だがこの施設の主任はこの短時間でラクトとアスコルに呪いをしかけていた。

「逃げるぞラクト! この女、ヤバい!! 」

「逃げられると思う? 魔術が使えないように設計されたこの地下研究所で瞬間移動でもしようというの? 」

「賛成!! 」

 ラクトはまだ救出出来ていない勇者がいる中で撤退することを悔しがりながらも、自分たちが生き残らなければ助かる命が助からなくなると判断して逃げることにした。アスコルにもその意図は伝わっていた。アスコルは魔術を唱えずに魔法陣を二人の正面に展開し、その魔法陣を正面から潜り抜けた二人はその場から姿を消していた。

「魔術妨害に耐性があって、かつ詠唱無しで魔術が使える魔術師か……。それでも“祈祷術”の方は無効かできまい」



「はぁ…はぁ…危なかった…」

 アスコルの魔術で研究所から逃げ出した二人は先に逃がした勇者たちと合流し、一度では救助できずに置き去りにしてしまった勇者をもう一度迎えに行く作戦を立てようとしていた。

「アスコルが念には念をってあの結界を破壊してなかったらあの魔女の餌食だった…はぁ…はぁ……。俺も魔術を唱えられたおかげで抵抗できたし。目が見えてないように思えたが、何者なんだあの幼女の魔女は…? 」

「でも捕らわれた勇者は半分くらい逃がせた。今度は俺たちが見つからないように潜入して…!? 」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!? 」

 アスコルとラクトが話をしていると救出した勇者の一人が地下街の外へ出た途端に、勇者は太陽に焼かれたかのように身体が燃えて灰になってしまった。

「な!? なにが起きた!!? おい!!! 」

「待て!! みんなこの地下街から出るな!! 呪いをかけられているかもしれない!! 」

「呪いだと!? 」



「『…アナライズ、ブースト、ブラスター』。……間違いない、これは古い魔術だ。俺でもわからない術式がいくつか用いられている。それもあの地下街にいた勇者みんなにかけられている」

 アスコルは救出した勇者を診て回るが、例外なく魔女に呪いをかけられていた。

「アスコル、俺もなのか? 」

「……あぁ。ラクトにも、俺にも、例外なくみんなにこの呪いがかけられている。いつかけられたんだ? これじゃ勇者全員が脱出できたとしてもこの地下街から出たら、さっきの勇者みたいに身体が発火して灰になる。そういう呪いを一人一人に丁寧にかけられている」

「呪いとか古い魔術ってヤタノコマイヌ家の書庫にあった古い本とかに書かれている貴重で難解なヤツだろ? この地下街はそんな物がホイホイと出てくるようなところなのか? 」

「あり得る話だよ。ガキの姿をした魔女がいただろ? あのやべーやつ。あいつは何か普通の魔術師とは違う何かをしている…俺たちの理解の範疇を超える何かを」

 呪いとは古代魔術の一種で現代の詠唱して発動する魔術ではない魔術であり、現代では資料の少なさから謎に包まれた技術である。しかし、呪いや古い魔術は発動に時間がかかる上に、使用できる者も少なすぎた。そのため多くの者が使用できる魔術の方が実用的あるとされて廃れたという時代背景がある。


「ガキでもとんでもなく強いのがいるのが魔術師の世界では普通なのはよく知っているが、あの魔女はそういう次元じゃなかったな。魔術の達人、というか老人? 仙人? に会ったようなそんな感覚だった」

「やっぱりお前もそう思うかぁ。なんだかんだで一流の魔術師だもんなラクトは」

「剣も魔術も使えるお前が一番おかしいからなアスコル。それは置いといて、どうする? このままじゃ俺たち見つかっちまう」

「あぁ。外に出られない以上は隠れながら籠城作戦というか潜伏作戦というかそういうので行くしかないね。敵の本拠地で籠城作戦ってのもおかしいけど。まぁとにかく俺が結界を張る準備をするからあとで紙ちょうだい。結界用の張り紙を作って魔術で探知されないような場所を作りたい。その間に出てきた勇者たちの指揮をして地下街の下水道から穴を掘って籠城できるような場所を作って。そこに結界を張って籠城しよう。籠城する場所の入り口さがしてくるね」

「あぁ。立派な拠点考えてくれよぉアスコル! おーい、勇者たち! 研究所から脱出できたばかりで悪いが、みんなで生き残るために働いてくれ! 」



 その後、簡易的ではあるものの地下に拠点を作成し、脱出した勇者とラクトとアスコルが籠城生活をすることになった。このことがきっかけで勇者たちは二人に絶大な信頼を置くようになり、二人に協力的だった。約1か月後、ラクトとアスコルは残った勇者の脱出のために再潜入し、その際に見つけた研究室の資料を読み漁ることにも成功していた。

「おい見てみろよアスコル、なんなんだよこの資料…!! 」

「……人間を元に人間を作る技術…? こんなものを研究するために勇者を誘拐してたってこと? というかこれ自体そもそもできるの? 」

「人間そのものを生贄に作られる人間がホムンクルス? 血液や髪、細胞で作る人間がクローン? 」

「この資料を読む限りはね。ホムンクルスの方が性能が良いけど作るのが大変すぎて、クローンの方が性能が低い代わりに大量に作れるみたい。どっちも元の人間の記憶とかを引き継げないし作れた例はないみたいだけど、性能は元の人間の遺伝子や細胞にも関係する…? つまり優秀な勇者を基に秘密裏に悪の軍団とか作ろうとしていたってこと? この辺は何のことかわからないな」

「なんつーもん作っているんだ……? おい、別の資料からはあと10年から15年程度で旧世界を滅ぼした程度の戦争が始まるって書いてある。しかも旧世界の技術をふんだんに使った国とやりあうって書いてあるぞ」

「未来でも見えてんのかよここの魔女は。旧世代の技術てんこ盛りな国なんて聞いたこともない。だが未来の見える魔術があるのか? 」

「『能力』で未来が見えるなんてことはありうるかもしれないけど、『能力』でもそんなものがあったら絶対に大成功者になってるし。どのみち魔術でも能力でも未来が見えるなんてことは俺も聞いたことがないし、ヤタノコマイヌ家の書庫にもそんな記述は見たことがない。それにしても未来かぁ。自分の子どもの顔とか見てみたいな」

「腹を大きくさせた女房を置き去りにした俺がいるのにその発言? 」

「あはは、失言だったね」

 二人の緊張感と脱力感の混ざる空気は命のやり取りをしている場面でも二人の心理的な負担を減らしてくれていた。だがそれが今、仇となる。


「へぇ、武具(アタック)()勇者(メイル)には子どもがいるのね」

 魔女に見つかってしまった。その魔女は幼女の姿をし、前回戦った時はシンプルかつ強力な魔術を使用していた。本来なら二人にとってすぐにでも倒せる相手だった。

「でやぁああああっ!!」

 アスコルは反射的に腰にぶら下げた剣を抜刀して魔女に切りかかる。だが、二人は前回と同じ手で敗北することになる。出会ってから約10秒、二人は何をされたのか分からず、資料室の床に伏していた。

「……!? 」

「さぁ、ようやくネズミ退治も終わりね」

 この時点で命の終わりを悟ったのはアスコルだった。自分に何をされたのかわからなかった。だが抜刀したばかりの剣が折れて、大量に出血してしまったのだ。そして、急に大量に出血したため正常な判断力を失い、感情で動いてしまう。

「…逃げて!! ラクト!! 」

「っ!!? ばか! よせ! アスコル! アスコルゥゥゥ!!! 」



 アスコルは常日頃からラクトに隠していたことがあった。死ぬときは一緒と言いつつも、どうしてもラクトが死にそうなときは自分の命を捨ててでも必ずアスコルを守るということだった。魔法陣を強制的に潜り抜けさせられたラクトは瀕死でありながらも一人だけ拠点に戻ることに成功し、脱出した勇者に治療を施されて一命をとりとめた。その代わりアスコルはそのまま帰ってこなかった。

「ばかやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 俺たちは!! 二人で!! 一人だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」


 ラクトの叫びは誰にも届かなかった。この10年後、あの勇者がこの場を訪れることになろうとは誰も知らなかった。



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