花の国 ③花の国と執事長
話をしながらしっかりと体力を回復させて、装備が乾いた雷帝丸は着替えて準備を始めていた。倉庫に移動し、装備をまとめて本格的に魔王討伐に向けて準備していた。
「なるほどな、ここまでの話をまとめると、大雪は魔王の仕業でどうにかしてほしい。でも国王を含めて勇者がもういないからはぐれの俺が討伐する。国民は隣国に逃げたと。あとは国の成り立ちくらいをおさらいってところか」
雷帝丸はベンゼンから資料を眺めてかなりざっくりと話しの内容をまとめた。地味に器用である雷帝丸は二人に問い直す。装備はもう乾いているためしっかりと着込むことができた。
「そうね。あとはあなたが自宅を守ることが限界くらいの存在であることもわかったわ」
「なんか棘があるんだけどこの姫さん。あ、じぃさん、ここから現魔王城までは北に向かって5日で着くとさっき渡された資料にあったが、そんなに遠いのか?」
「そうじゃな。じゃが今はライド系の魔獣もいないしこの雪では出せないから何日かかるかわからんのじゃ…」
魔獣、それは育て方次第で敵にも味方にもなる生き物。ブルーミアには長距離移動に使うライド系、農業に使うファーム系が育てられているが、現在のブルーミアの城にはそれらがいない。幸いブルーミア近辺には野生の魔獣は雪でいなくなったが、今から手懐けて旅のお供にすることもできない。つまり雷帝丸は自力で大雪の中を進まなければならないのだ。ちなみに雷帝丸がブルーミアに来る前の10年間は野生の魔獣の討伐や狩りは生活の一部だった。
「え、ちょっと待てよ、何も支援ないのかよ? こんな状況なのに? 」
「こんな状況だからよ。あなた一人じゃ何もできないでしょう。期待できないのよ」
「姫様、それはあんまりじゃ。ワシは一応国王のパーティの一員じゃった魔術師なのじゃ。この男にはワシなりに期待のできる男なのじゃ。せめて武器くらいは調整してもよいと思うのじゃが…」
「わかったわ、じぃやがそういうのならこの男に装備の強化をしてあげて」
「装備の強化? 」
「さよう。ワシは今は執事長じゃがこれでも元魔術師。『能力』で錬金術にも長けておって、送り込んだ討伐隊の装備の強化もしていたのじゃ。当然現役時代には国王のパーティの一員として戦っていたり、魔術や錬金術を駆使して後方からの攻撃に装備の強化していたものじゃ」
ベンゼンは懐かしむように話す。すると少し嬉しそうに錬金術の準備をすると言って長めの白髪をまとめながら倉庫の奥へ材料を取りに行った。
「……あんなじぃや久しぶりに見た気がする」
「確かにこんな状況じゃ笑えないよな」
「そうじゃないの。なんだかわからないけど負の感情がほとんど消えた気がしたの」
「負の感情? 」
「人間はみんな程度に差はあるけど特別な能力があるでしょ? 私は『他人が幸せになった瞬間がわかる』能力なの。範囲はとても狭いし限定的な能力なのはわかってるけど、誇りに思う。この能力があればきっと将来国民の幸福度の高い政治をすることができるはずよ。残念ながら幸せになったときしかわからないから少し扱いづらいし、直接何かに影響を及ぼすことはできないけどね」
そう、誰もが必ず一つ持っている特殊な力。それらをすべて呼称して『能力』という。能力はその人あるいは他人の特技や生活、人生を大きく左右することもある。魔王もその力を使って自分の目的のために悪事を働くことがあるが、魔王も人なのである。
「あなたはあったばかりだから幸せなのかはわからない。そんなあなたにはどんな能力があるの…? 」
「俺は……」
ベンゼンさんはただの執事長ではなく国王の勇者時代のパーティメンバーだったようで、ただのおじいさんではありません。魔王を倒した実績のあるめちゃくちゃすごい人です。魔術師と錬金術師を兼任していたようですがその違いは今のところ深くは考えなくて大丈夫です。魔術を主に使う人と材料を元に何かを作る人というくらいですが、どちらも魔力が無いと務まらないので雷帝丸さんにはとても真似できません。