風の国 ㉒一進一退の魔術対決
「ウ“ぉ”え“え”っぇ“ぇ”え“え”え“え”っ!!……はぁ…はぁ…ぺっ!…あぶなかった。囮を使わなかったら串刺しだったよ…」
コハクはいつの間にか地上に降りて吐瀉物をまき散らしていた。コハクは生きていた。なぜ生きていたのか。それは『シャドウアルター』で分身を作成し、その分身を突撃させたのである。しかし、コハクの囮の完成度が予想以上に上がっていたことでリアリティのある囮が完成し、五感を通じて情報を回収できた。その代わり五感を介して串刺しになった感覚を少し受けてしまい、その場に嘔吐してしまった。
「うえぇ、口の中がすっぱい、うがいしたい……なんて言ってる場合じゃないよ。強化の魔術が解けちゃったからおじちゃんも心配だし、早めにアミーに戦いをやめさせないとアミーが、みんなが危ない。どうしようか……」
コハクは自分よりも親友のアミー、シクロ、雷帝丸の心配をしている。自分に余裕があるコハクは串刺しになった囮がいる間は雷帝丸とシクロに何かできないかを考えていた。とても9歳になる直前の幼女とは思えない胆力と思考回路である。コハクはいったん雷帝丸たちがいないか確認することにして地上に降りた。
「魔術を使ったらアミーに魔力の発生でばれるかもしれないから使えないけど、おじちゃんたちも見当たらない……。魔術を使えば見つけられるのになぁ」
コハクは相手が魔術師であることを考慮してあえて魔術を使わないで雷帝丸たちを探そうとしたが、見つけることはできなかった。こっそりと自分の吐いた跡から移動して見なかったことにした。そして、見つからない雷帝丸とシクロの心配をするが、結局何もできなかった。
「こういう時に使っても他の人から簡単にバレない魔術があればいいんだけど、そんなのはないんだよねぇ。魔力を使う時点でバレちゃうから使った後で消える『ディストラクション』も使えないし。それにしてもあの宝石、多分きらきら星と同じような魔石だよね? 石の中で魔力を反射して威力を上げたり、悪魔を集めやすくするための魔石だけど、簡単に作れるものじゃないはず。しかも投げつけて爆弾代わりって相当追い込まれてるようにも見えなかったし、なんなんだろ? 」
コハクが気になったのはアミーが投げつけた魔石と呼ばれる宝石のことでである。投げつけた後で爆発したが、本来はそのような使い方はしない。それ以前に宝石を爆発させて手元から失えば魔術の威力を下げることになるので悪手である。
「もしかして魔術以外の何かが入った宝石だったのかな? でもアレが錬金術だとは思えないし、古い魔術で何かしてるのかな? コハクはわかるはずなのに分からないってことはコハクでも知らないくらい昔の、魔術とは別って考えてもいいような魔術を使っていることになるし、うーん……」
研究者の一面も持つコハクは自分の知らない魔術を利用しているアミーのことを疑問を持ち、興味が湧く。頭で考えて口で呟くが何も変わらないことはコハクもわかっているがそれがやめられないのが研究者。誰も見ていないところでも天才の片鱗はむき出しである。
「うーん、考えてもしょうがない。アミーを止めておじちゃんを助けに行こう! 」
結局雷帝丸たちも見つからず、魔術を使えば自分の位置が分かってしまうため、アミーに奇襲をかけて戦闘を終わらせようと考えた。囮がまだ消えていないのでアミーがどこにいるのかはわかっている。そのためワンコールで出来る大技で囮ごと不意打ち気味に攻撃すればいいと作戦を練った。
「よし、行くよきらきら星…『コンパクトソニック』! 」
きらきら星に魔力を流し、きらきら星に装飾された宝石が煌めき、簡易的に大技を発生させた。衝撃波がきらきら星から発生し、投擲した槍のように一直線に囮を目掛けて飛んでいく。囮はその衝撃に耐えきれず、木端微塵に消し飛んだ。しかし、コハクは重大な失敗をしていたのである。
「!!? 囮しかいない!? 」
「くらえ!! 」
アミーが背後から急降下してコハクに突進してきた。左手には先ほどの宝石を握っていて、それを突き出している。反応が遅れたコハクはアミーの左手の宝石を利用したゼロ距離射撃のような攻撃を受けて爆撃に巻き込まれた。
「きゃぁぁぁ!! 」
「っ!! 」
自爆覚悟で勢いづいたアミーは一気にコハクに畳みかける。奇襲に成功したのはアミーの方だった。トドメを刺した相手がコハクの囮であることに気が付いたアミーは仕向けられた囮をコハクへの囮として利用したのだった。コハクは吹き飛ばされたが、アミーは左手の負傷の痛みに耐えながら次の魔術を唱えて追撃の準備をしていた。
(コハクの囮を使われた!? )
「『コール、フリップ、ラピット、ブースト、ブラスター』」
アミーは自分の背後にある校舎の瓦礫を利用して大小様々な瓦礫を吹雪のように真横に降らせた。瓦礫は校舎のすぐそばにあるため少し遠くにあるが、その距離で助走のように加速させることで速さと威力が上がる。
「『フライ』! 」
「『コール、オート、ホーミング、イクスキュージョン、フリップ、ラピット、ブースト、ブラスター』」
「『サンドストーム』! 」
「っ! 『バリア』」
コハクはほうき星の『フライ』で瓦礫の吹雪を回避した。筋力の少ない魔術師は地上を駆けまわるよりも魔術で宙に浮いている方が相手の攻撃を回避しやすい。少しだけ浮けば地上戦でも空中戦同様の回避能力を得られる。だがアミーは諦めず飛ばした瓦礫を利用して同じ魔術に加えて爆発と自動追尾の効果を付与した。それに対抗するためにコハクは攻防一体の『サンドストーム』をきらきら星で唱えて追尾する瓦礫の吹雪に対抗して撃ち落として爆破したが、『バリア』で防御しながら突き進むアミーには砂塵や爆風は届かなかった。
「『フライ』」
砂塵や爆風が晴れる前にアミーは空を飛び、コハクを追いかけた。校舎を背にしたコハクにはもう逃げ場がない。攻め時と見込んでアミーが追撃しようと魔術を唱えようとすると、すでにコハクが魔術を唱えていた。
「『…ネクストエンハンス』! 『バインド』! 」
「『フレイム』」
「かかった! 」
「!!? 」
アミーはコハクの『バインド』の鎖を打ち破ろうとすると、別の角度から倍以上の本数がある鎖に縛られてしまった。さらに自分の唱えた炎の攻撃『フレイム』の効果を引き継いだ鎖にすり替わっていた。
「が、がぁぁぁ!! 」
コハクはアミーが追いかけて来るのを予想して、事前に自分に魔術をかけて仕込んでいたのだった。えっへんとドヤ顔を披露する。
「どう、驚いたでしょ?『次に使用する魔術に反撃すると、通常の倍以上の鎖が飛び出し、反撃に使用した魔術を吸収して拘束する』って魔術に組み替えたんだからっ!」
コハクは数秒で自分で作った砂嵐に紛れて「『コール! トラップ、アブソーブ、バインド、シャドウアルター、ネクストエンハンス』」と唱えていた。次の魔術に影響を及ぼす『ネクストエンハンス』はコハクがこの戦闘中にきらきら星を介して見つけたものだ。攻撃すると自動で反撃する『トラップ』を組み込むことで次のワンコールの『バインド』に『アブソーブ、バインド、シャドウアルター』の効果を与えていた。コハクはここでもアミーの先を行く。だがコハクはまだ自分に襲い掛かるピンチに気が付いていなかったのだった。
コハクちゃんはアミーちゃんの友人であるため本気を出していませんが、よく吐きます。




