風の国 ⑫潜入とアフロ
爆発から数分後、雷帝丸とコハクは新しい杖があるという地下の金庫前にいた。
「しまった、さっきの戦いで剣を回収できなかった…」
雷帝丸は先ほどの戦いで剣を失ってしまった。その代わりに魔術師から手に入れた杖を持っていた。
「ところでさっきの魔術、一体なんだ?魔術師が俺たちに全く気が付かなくなったぞ? 」
先ほどの爆煙が晴れると魔術師たちは雷帝丸とコハクを認識しなくなっていた。そのため校内への侵入がとてもスムーズにできた。
「あぁ、簡単に言うと透明化の魔術だからね」
「透明化!? 」
「うん。コハクはすぐにできるようになったけど、単発で唱えるには魔術師になってからさらに80年かかるくらい大変な魔術だけどね」
「じゃあ普通の魔術師が透明化の魔術をサクッと唱えるころには110歳…? 」
男の夢を叶えるような魔術だが、実用するには現実的ではない魔術のようだ。
「さて、ここが金庫だよ」
「でもさすが大きな金庫だ。部屋が丸ごと金庫になってるんだ、そう簡単に開かないだろう? 」
「多分そうだね…ちょっと調べてみるね…」
コハクは自分の魔術で金庫の鍵を調べてみる。雷帝丸はぼーっと待つしかない。手持無沙汰な雷帝丸は金庫前の周りの壁を見ていた。雷帝丸は薄汚れた壁をぼーっと眺めていると、コハクが分析を終えたのか話かけてきた。
「おじちゃんどうしよう…この金庫にはコハクでもわからない魔術が仕掛けられてて開けられないの」
「それって病院で言ってた魔術か? 」
「うん。かなり古い魔術だから同じ形式だね。魔術師たちは『古代魔術』って呼んでるけど、相当昔の物だね。この昔の物は少しでも魔術の仕組みを崩すと魔術が変な形で暴発するから下手にいじったらダメなの。もちろん力ずくもダメだよ」
雷帝丸とコハクはほかの方法を模索するしかなかった。
「俺には難しいが、とにかく開けられないのかぁ? なんか開ける方法ねーのかよ…あ、この部屋から掘って扉の向こうに行けばよくね? 」
「だめ、金庫の部屋は床も天井も壁も頑丈だから開けられないみたい」
「それなら転移の魔術で! 」
「それができたら金庫の意味ないよ…」
「実は普通の鍵があるとか? 」
「それも無いというかあったら魔術で簡単に開けられるよ…」
雷帝丸とコハクが頭を捻って考えるが大きな部屋の金庫の扉は開かない。杖はすぐそこにあるのに取りに行けない。知恵の輪のような難しい問題を解くようにずっと考え続けている。
「あーーーーーーもーーーーーーーーーーわかんねーーーーーーーーーーーーーーーー!! 『開けゴマ』とかで開かないかなーーーーーー!! 」
「そんなので開いたら苦労しないよ…」
そろそろ雷帝丸は頭脳の限界である。コハクにも疲れと呆れが出てきていて、何かヒントがないかと私物の眼鏡を取り出して校長室の魔術の本を広げ始める。雷帝丸は元々魔術関連は疎く、難しいことを考えるとかえって思考回路が回らなくなる。旧世界で言うところの数学などの小難しいことを考えると楽な方法を考えるが、結局堂々巡りになったり考えることを放棄したりするのと似ている。
「だーもーむーりーでーすー」
「おじちゃんもうちょっと考えてよ…魔術じゃない方法で解決できないかなぁ」
「ちちんぷいぷい扉よ開け~」
「おじちゃん…」
半分ヤケになる雷帝丸と大人顔負けに冷静でいるコハクは年齢が逆ではないかと疑う風景である。このままでは陽が昇ってしまう。時間がないわけではないが、早急に解決すべき問題であることは間違いないため早く次の行動に出たい。
「なんか代わりに杖もあるけど打撃にしか使えないし、これを振り回すのもなぁ……」
コハクが校長室にある本を読み漁っている間に雷帝丸は暇つぶしに杖の素振りをしてみる。剣が手元に無い以上はこれで代用するしかないと練習をしてみる。ブンッ!ブンッ!と風を切る音と紙をめくる音が静かな空間に響いている。そんなことが続いたのは3分程度だった。雷帝丸が事件を起こしてしまう。
「あ! 杖に魔術が発動しやすいような仕組みが組み込まれてるかr…」
「あ」
雷帝丸が素振りをしていたところにコハクが大声をあげた。すると雷帝丸は驚いて杖を手放してしまった。その杖は金庫へと放り投げられて強くぶつけられてしまった。
「…………おじちゃん、なんでコハクとおじちゃんはアフロなの? 」
「……素振りしてたら杖を吹き飛ばしてそのまま金庫を爆破してしまいました……」
金庫に杖が接触したせいで繊細な魔術の仕組みが崩され、暴走した魔術によって爆発を引き起こした。その爆発には威力があり、校舎が半壊していて、爆発した近辺は地面が抉れている。そのほとんど中心に二人はいた。
「わざとじゃないから許して」
「……仕方ない、コハクに免じて許しましょう。肝心の杖も手に入るし」
爆発したのは金庫だが、爆発の衝撃で金庫の鍵が耐えきれなくなり扉の鍵が壊れた。仕掛けられた魔術も崩壊して無くなったため誰が触っても問題ない。
「はぁ……『アピアランス』」
コハクは自分に身だしなみを整える魔術をかけて自分で爆発した金庫の中に入って杖を拾いに行った。
雷帝丸さんにとっての魔術は旧世界の中高生でいうところの数学や物理がわかんねーとぼやいて思考停止し、結局全く分からないまま大人になってしまったような感覚に近いと思います。逆に言うとコハクちゃんは9歳にして既に数学や物理で新たな法則を見つけているレベルの天才的存在です。未来の地球が舞台のはずなのにこの天才児は現実離れしています。それにしてもシクロさんはどこ行っちゃったんですかね……。




