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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
風の国
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風の国 ⑦勇者と元勇者の誓い

制作秘話:雷帝丸さんはホストクラブの店員になる予定でしたが、ホストクラブに行ったことが無い作者はその実態を書くことが出来ず人生経験不足に悩まされました。そのため路線変更したため不自然に新キャラが登場したのですが、果たしてどんな人物なのでしょうか……。

マンホールを潜るといくつかの術式が書かれた紙が所せましと貼られているトンネルに当たった。いくつもの分岐点があり、どのトンネルにも術式が書かれた紙が貼られている。雷帝丸はもちろんその術式が読めないためどのようなものかはわからない。

「あのコカゲネズミは何なんだ?」

「使い魔みたいなものだ。ただ、厳密にはオキシの外にいる生き物に魔術をかけてむりやり使役しているらしいがな」

 先ほどのコカゲネズミについて雷帝丸が聞くと男はそう返してきた。そんな話をしていると男は迷いなく進み、一番奥であろう場所にたどり着いた。

「ここだ」

 案内されたそこには重苦しい引き戸があり、男がその引き戸を開けた。中に入るとその男以外に何人もの男がいた。全員同じような恰好で髭を蓄えボロボロになっている。

「なんだこれ…何があったんだよ!?みんな元勇者か!?」

「あぁ。10年くらい前までは『流星(ミーティア)()魔術師(ソーサラー)』と呼ばれた元魔術師もいたんだ。ソイツは俺の相棒で、ここの周りの対魔術用の仕掛けを増やしてくれたんだ。それからここの連中の生存率が格段に上がったんだ」

「そういうことじゃねぇ!一体この街でなにg」

「みんな!ここに勇者が来た!使い魔には見つかったが魔女には見つかってない!呪いはかかってないから今のうちに外に逃がすぞ!」

 男は話を遮ってそこにいた全員に指示を出す。急な客人に全員が落ち着きをなくしている。ここによそ者が来ることはかなり珍しいこともあるが、勇者がここに来たことに衝撃を受けたのだった。

「おい、みんな何してんだ?」

「この絨毯の裏に隠し通路がある。この隠し通路はオキシの中心街に出られるように書き換えてやるから道なりに進んでくれ。すると地上では裏路地のマンホールから出られるから小ぎれいな恰好なら問題なく地上の住人と溶け込めるはずだ。と言っても今は夜だからそれほど人は多くないがな」

 男は急いで紙とペンを持ち出して何かを書き始める。そしてここにいる者たちは雷帝丸のために部屋を片付けている。雷帝丸は自分が何をしたのかよくわかっていない。だがこのボロボロの元勇者にとって命を晒す賭けをさせてしまったのかと猛省する。

「そんな……ドジ踏んだ俺のためにすまない」

「いいってことよ!俺たちにとってはまだ呪いにかかっていない勇者のあんたを逃がすことが最優先だ!早いとここの街から出ていけ!」

「……?お前らここから出られるんじゃないのか?」

「だめだ。灰になる呪いの安全圏から外に出ちまう。その範囲ギリギリ内側まで掘り進めて、後は既存の下水道に繋がっている仕組みだ。どの道俺らじゃ外には出られないが、一本道だからお前でも逃げられるだろう」

 出会ったばかりの男に命をかけようとしている男たちがいること、男たちが長い間このような生活をしていること、これだけで雷帝丸は気持ちに変化が生じていた。それは元勇者への同情である。雷帝丸は花の国の魔王討伐依頼を受ける前までの10年間はほとんど戦場跡や森などでサバイバルな自給自足生活を送ってきた。そのため解放感のある生活をしていた雷帝丸にとっては、もし自分がこのような生活をしていたのであればとっくに死んでいたかもしれないと思った。自分が苦労している間に、それ以上の苦労を重ねている勇者がいたことに心を痛めているのだった。

「そういやお前の名前を聞いてなかったな。俺はサンダーボルト、勇者さっちゃんと呼んでくれ」

 雷帝丸はここまで案内してくれた男の名前を聞いていなかったので聞くことにした。自分を命がけで助けてくれた恩人の名を忘れないために、今出来ることはそれくらいしかなかった。

「聞かない名だな…俺の名は『ラクト・ヤタノコマイヌ』だ。昔は『武具(アタック)()勇者(メイル)』の通り名で、モーニングスターや大量の暗器で暴れてたんだ。10年前に地上に腹に子どもを宿した嫁がいたんだが、今は何をしているか…」

「名字持ちの上に通り名持ち!?しかも嫁までいるなんて……魔術師の家系か?」

 紙に何かを書き続けるラクトは作業を続けながら身の上話をする。

「あぁ、魔術か剣術のどちらか、あるいは両方の才能のあるヤツが生まれる家系だったんだが、俺はどちらの才能もなくて家を追い出されたんだ」

 魔術師にはいくつかの有名な家系があり、名字を持っていることがある。名字を名乗れるということは優秀な魔術師の家系の出身者であることの証明となる。また、通り名を持つものはこれまでに異業を成し遂げ、功績を残した者が国から通り名を授けられることでどの職業であっても箔が付くのである。

「魔術師の家系も大変なんだな…決めた!ラクト、俺はお前ら全員を必ず助ける!時間がかかると思うがこの恩は返しに来る!」

 雷帝丸は仲間でもないこの元勇者たちのことがとても気になり、助けたいと願っていた。

「な、なんでだ!せっかく逃げられるのに、俺たちの努力を無駄にするつもりか!」

「お前たちの努力を無駄にしないために戻ってくるんだ!俺はこれでも花の国から魔王を倒すように直々に命令された身で今は仲間集めをしてるんだ。俺はそれなりに強いと自負してるし、お前ら元勇者を見捨てられない!その魔女を倒してお前らにかかってる魔術だか呪いだかを解いて、今度はお前らを逃がす!というか勇者なのにただただ尻尾巻いて逃げるのは長年勇者やってる者として癪に障るんだ!それにお前らを見捨てるほど俺は薄情じゃねぇ!!」

 雷帝丸は自身でも無茶なことを言っていると思っている。その証拠に汗が一滴額から流れ落ちる。だが自分なりに元同業者を、先輩を助けたいと思っているのだ。自分だけの大掛かりな仕事を貰い、仲間を持って少し調子に乗っているということもあり自覚も足りていない。だがそれでも、先輩にあたる人達が長い期間辛い目に合い続けていることを黙って見過ごして逃げることはできなかったのだ。そんな衝動が雷帝丸を突き動かし、無茶な約束をしているのだった。

「そうか…期待しないで待ってるよ」

 ラクトはペンを机に置き、書き上がった紙をいつの間にか出てきていた隠し通路の入り口に叩きつける。叩きつけた紙は緑色に発光し、魔術が分からない雷帝丸でも魔術だとわかった。だがこのような光は以前にも見たことがある。光が落ち着くとラクトは雷帝丸に向かって命じた。

「い、今のって錬金術…?」

「行け、勇者サンダーボルト!今は逃げてくれ!俺たちの希望を繋ぐために!」

「お、おう!この恩は絶対に返す!!」

 雷帝丸はありがとうと頷き、絨毯の下から出てきた隠し通路に入っていった。



今回名字と通り名という制度が出てきましたが、雷帝丸さんたちの世界では名字は名家出身の証、通り名は個人に与えられる勲章のような物だと思ってください。そしてその両方を持ち合わせる元勇者で同業者としては先輩にあたるラクト・ヤタノコマイヌさんは現役ならとんでもないエリートということになります。今回のお話でもエリートの片鱗が垣間見えましたが、彼に一体何があったのでしょうか。そしてその場のノリで結んだ約束は果たされるのでしょうか。余談ですが、この世界では我々が生きる現代から数万年が経過しているため言い伝えなどが我々の世代(旧世界)とはだいぶ異なります。ヤタノコマイヌなんてどっかでヤタガラスとコマイヌが混ざってしまったのでしょう。

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