風の国 ②実はもうすぐスイカ割りの季節
「おじちゃーん、また明日ねー!」
そう言って無邪気な笑顔で格安宿に帰っていくコハクを見送った雷帝丸。手元には100ピアしかない。なぜそうなったのか。それはわざわざ雷帝丸を追いかけてきたコハクに「ここ、村なのに土地代が高いから宿泊費が2人合わせてあと1500ピア足りないんだって。だからお金ちょうだい!」と言われてしまったからである。格安宿に泊まることが出来なくて追い出された雷帝丸は、せめていい食事をしようとしたときに持っていた金額をほとんど渡すことになってしまったからである。目の前の居酒屋の小型の家畜の串焼きが1本頼めるかどうか。そんな微妙な金額の100ピア。駄菓子なら10個買えるが、今は夜なので駄菓子屋はやっていない。
「……ぐすっ」
雷帝丸はあまりの切なさに言葉も出なくなってしまった。代わりに涙が出てきそうだった。手元に残った100ピアを握りしめて居酒屋へ入っていく。その数分後、雷帝丸はそのまま出てきた。
「串焼き、1本も買えなかった…」
簡単に予想できたがやはり買えなかった。今夜は野宿どころか食料もない。
「一番安かったとりかわですら120ピア。あと20ピア足りない、どうしてこうなったんだ…」
とぼとぼと村の入り口まで歩いてきた雷帝丸は一晩どうするか少し考えてから決断した。
「森に入って何か探そう。コハクは子どもだから安全なところにできるだけ預けておきたいし正式なパーティーメンバーじゃないし、何かあってもシクロが対処してくれるだろう。うん、俺は明日の朝まで安全とは言い難いエリアで探索でもして今のうちに明日の食料とお金を確保しよう。うん」
そう言い聞かせて村を後にした。
朝日がまぶしい。結局食料もお金も碌に確保できなかった。この辺はブルーミアとリュウスイの間の森ではないので先住民はいないはずだが、念のため夜通し起きて探索を続けていた。また全裸にされては今度こそ国の牢屋に叩き込まれる。それはごめんだと朝を迎えるまでずっと活動していた。だが食料もお金も手元にはあまりない。お金も前日のものと合わせて110ピア、つまり一晩で10ピアしか拾えていない。食料も一晩探して見つけたのは毒持ちの芋虫や昆虫、毒キノコ数種だった。飲み水すらもうない。
「……朝早いけど宿で休もう。受付のソファーならさすがに休ませてくれるでしょう。というか休ませてください死んでしまいます」
淡い期待を込めて雷帝丸は村へ戻り、シクロとコハクが泊まっている宿に向かった。
格安宿に戻ると受付にはすでに出発の準備をしている旅人や魔術師のグループがいくつかいた。受付ではグルコがその数グループのチェックアウトの手続きに追われていた。雷帝丸は一人席に座り、仮眠を取ろうとするが知らない男に声をかけられた。
「おい、あんた大丈夫か?」
「ほっといてくれ、ここで待ち合わせになってるから仲間が来るまで寝かせてくれ…」
「そうか…達者でな」
知らない男はメンバーに呼ばれて格安宿を後にした。雷帝丸は声をかけてきた男に見覚えがあるような気がするが、そもそも雷帝丸の知り合いの同業者はほとんど魔王に返り討ちにされて亡くなっているため気のせいだとそのまま上の空になる。ぼーっとしてるとしばらくしてグルコが話しかけてきた。
「雷帝丸さん、おはようございます。昨日は大丈夫でしたか?」
雷帝丸は眠くて目を開けられず、瞼を伏せたまま答えた。
「俺はサンダーボルト、さっちゃんだ。お楽しみじゃなかったんだよこっちは。森で一人で彷徨ってたんだよチキショー」
「昨日はお部屋が用意できずすみませんでした。せめてお風呂にでも入られたらどうですか?娘は毎朝学校に行く前に風呂に入るのでまだ温かいと思いますし。裏口から入れますので疲れをとってください」
「いいのか?じゃあここから出る時間も決めてないし、お言葉に甘えますかね」
グルコの厚意で風呂に入れることになった雷帝丸はいったん外に出て裏口を探す。煙突の煙を頼りに裏口を見つけて入ろうとした。が、
「~~~」
中から声が聞こえた。雷帝丸は当たり前のように疑問を持ってつぶやいた。
「ん?風呂に誰かいるのか?」
「そうね」
「なんだ、これじゃ風呂入れないじゃんか」
「まぁ、あんたが覗き見しようとしていることは分かったわ」
「まさか、俺が覗きをするなんて……うん?俺は誰と話してるんだ?」
雷帝丸が新たに生まれた疑問を放つと雷帝丸は頭上から何かの圧力を感じて思わず見上げる。すると少女が勢いよく空中を真っ逆さまに駆け下りてくる。
「この腐れ勇者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
雷帝丸は少女の脚の一撃を顔面にお見舞いされた。どぉぉぉぉぉぉん…と大きな音と衝撃を放ちながら雷帝丸は顔だけ出して地面に埋まった。
「なんでこうなるの……。」
「あんたがここにいるのが悪い。あたしはか弱い女の子を守るためにこうして風呂の見張りをしていたのよ。」
雷帝丸を一瞬で地面に埋めたのはシクロだった。当然のことをしたまでだといわんばかりの態度である。
「ギャグ漫画でよく見るスイカ割りじゃないんだからさぁ、顔面を踏みつけて体を地面にめり込ませてさぁ、頭だけ地上に出すとか俺じゃなかったら死んでるぞ。自分で言うのも何だけどよく顔とか首の骨折れなかったね俺。というか助けて?」
「あんたみたいな変態にはギャグ漫画みたいなやり方をしないと懲りないし、現に生きているんだからまだよかったと思いなさいよ。というか覗きをさせないために身動き取れないようにしたんだから助けるわけがないじゃない。」
頭だけ地上に出ている雷帝丸は地上にしっかりと足をつけて立っているシクロを見上げる。シクロは汚物を見るような目で頭だけの雷帝丸を見下す。そして左足でついでにゲシッと頭を踏みつける。
「エロい目であたしの身体を見るんじゃないわよ変態」
「うぅ…風呂に入っていいって若女将が言ってたから来たのに…。」
「昨日の晩に会ったばかりの幼い女の子たちの裸なんて変態のあんたに見させるわけにはいかないのよ。」
雷帝丸は悲しくも仲間に踏まれながら監視されることとなってしまった。
雷帝丸さんが今回(?)かなり不遇な目に合っていますがきっと今が辛いだけです。きっと……。
今回から投稿頻度が週一に増えるよ!!やったねたえちゃん!




