風の国 ①小さな村と友達
今回から新章です。魔術だとか魔力だとかよくあるなろうっぽい光景を眺めることになると思いますが、ベテラン勇者と最凶格闘家と天才魔術師の活躍をご期待ください。
成人男性が一人、少女が一人、お子様が一人。そんな3人組は逃げ出したツリーハウスからそれなりに南に進んでいる。魔王のいる北とは真逆だが、お子様を送り届けなければならない。それが成人としての責務でもある。そんな中3人は揉めながらも少しずつ進んでいた。そんな中での出来事である。朝から何も食べていなかった3人はようやっと風の国の首都オキシから少し外れた村『セシ』を見つけることができ、一晩その宿に泊まることになった。
「ところで、着いたはいいけどお金は?」
シクロが尋ねると雷帝丸は誇らしげに言った。
「ふふん、一応これでも俺の能力はコインを拾うことだぜ?昨日の夜から今日の夕方までにいくら集めたと思ってるんだい?」
「おじちゃんいればお金に困らないの!?すごい!いくらあるの!?」
「俺史上でもかなりの大金を拾ったぜ…!なんと!」
「なんと!?」
「4100ピアもある!」
雷帝丸にとってはかなりの額である。しかしそれだけでは30ピアが限界だった。だが雷帝丸が拾ってきたのはコインだけではなかった。売ればお金になる鉱石をいくつか持ち出していたのだ。たびたび出てくるがメタンガストパスとの戦いで逃げたりおばあさんに助けてもらったりしたあの採掘所でたまたま採掘されていなかった鉱石を見つけていた。メタンガストパスとの戦いで逃げた時の探索で見つけたものだがその時の戦闘では使い物にはならず、多少器用な雷帝丸でも加工技術がないのでリュウスイに入った後で売るつもりだった。しかしリュウスイには行けなかったためこの鉱石だけ回収してセシでこっそり売ることになり、手元にはそれなりの大金を握ることになった。
「おじちゃんって歩いてるだけでお金をもらえるなんてすごすぎでしょ!?億万長者になれそう!」
コハクは目を輝かせながら雷帝丸を見つめる。幼女特有の純粋でキラキラした瞳はとても美しい。雷帝丸には子どもはいないが、娘がいたらこんな風に尊敬の眼差しを送られたい。そう感じる雷帝丸であった。
「かなり格安な宿になるけど、これなら3人とも寝泊りできるかもしれない!」
「へ、変態の割にはやるじゃない」
一方シクロは素直に褒めてくれない。雷帝丸はぐぬぬと少しへこたれるが、少しだけ残っている元気を振り絞り3人で格安宿へ向かった。格安宿は地域や国などにもよるが、基本的には大人1500ピア、子ども1000ピアの素泊まりの宿である。
「宿あったよ!ここじゃないかな?って、ここって…!」
「さっすがコハクちゃん!いつでもかわいいわぁ」
すぐさまコハクが格安宿を見つけた。かなり順調である。あとはこの格安宿にお世話になれれば万々歳である。
「じゃあ泊まれるか聞いてこようぜ。すみませーん」
「はーい、いらっしゃいませー」
3人が宿に入ると中から若女将が出てきた。その後ろにはコハクと同い年くらいの女の子がいる。その女の子を見てコハクはテンションが上がった。
「あ!アミー!久しぶり~!」
「コハクちゃん!?帰ってきたの!?」
「あら、コハクちゃん、いらっしゃい」
キャッキャッとはしゃぐ幼女2人、それを見守る若女将、小さな子ども特有のテンションの上がり方に付いていけない2人。はしゃぐコハクに雷帝丸が聞いた。
「え?ちょっと待って、コハクの知り合い?」
「うん!通ってる学校の友達なの。アミーのママとは授業参観であったことがあるよ」
「アミーといいます。コハクちゃんのお友達です」
「その母でここの女将をしてますグルコです」
親子だからか雰囲気がやはり似ている。二人とも肩に付かないくらいの長さのおさげをしていてそばかすがある。コハクの友達であるアミーは雷帝丸とシクロに丁寧な挨拶をしてきた。母親が格安宿の女将なので礼儀正しくしつけられているようだ。母親のグルコはとても若く見え、20代後半くらいだろう。
「でもアミーがここに住んでたなんて知らなかったよ~」
「オキシの学校からここまで箒を使っても地味に遠いからね。いくらクラスで仲が良くても、放課後はなかなか遊べなかったし…」
「あ、ねぇ、アミーのママ。格安宿って聞いて来たんだけど、今日泊まってもいい?コハクとおねぇちゃんとおじちゃんで」
幼女はこういう時にズバッと本題に入る。多少失礼だがありがたい。若女将は優しく答えた。
「えぇ、いいわよ。でも部屋があと1つしかなくてね…」
すると間髪入れずにシクロが応じた。
「あ、平気ですよ。この変態は外で寝るので」
「へぁあっ!!?」
知り合いとなればさらに格安で泊まれるかも!と思っていた雷帝丸であったが、別の問題が発覚してしまった。しかも変な声まで上げてしまった。
「へ、変態?」
さっそくグルコは雷帝丸に対して眉を寄せる。危険人物に見られてしまった。
「だー!誤解です!お前も変なこと言うなよ!?」
「事実じゃん」
「んもー!わかったよぉ!どーせ俺は部屋で寝れないオチなんだから野宿しますよぉ!!」
雷帝丸は半泣きになりながら2500ピアをシクロに宿泊料のつもりでヤケクソになりながら投げつけた。シクロはちゃっかり受け取り、残りの1600ピアは雷帝丸がせめてもの慰めにと少し贅沢な食事をしようと手元に残した。
「へ、変態とはいえ少しかわいそうかも…」
「そう思ったら負けですよ。男なんてけがらわしいんですから」
雷帝丸はとぼとぼ宿を出て行った。哀愁漂う勇者雷帝丸。今回の魔王討伐に関しても国から直々に命令が出ているからこうして旅をしているのに、とほほ…と悲しみを背負うのであった。少し歩いたところで居酒屋を見つけたので入ろうとすると、後ろから誰かが追いかけてきた。
「おじちゃーん!まってー!」
「こ、コハク!?やっぱり迎えに来てくれたんだな!」
うれしさのあまり再び泣き出しそうになる雷帝丸だった。
「ここ居酒屋だよ?」
「俺の宿泊費になるはずだったお金でちょっといいごはんを食べようと思ってな…で、やっぱり泊まってもいいって?」
にやにやしながら聞いたとき、コハクは笑顔で答えた。
「お金ちょうだい」
「……は?」
雷帝丸の表情は一瞬で曇った。




