魔王城① 魔王の暇(いとま)
「……ふぅ。ようやく魔王城の完成だ」
いかにもな低い声で魔王の椅子にゆっくりと腰を下ろす男がいる。ここは花の国の北部。初夏にも関わらず雪や氷に覆われている。だがいくら北部でもそれはおかしな話である。元々この地域は他の地域と比べて比較的開拓されていないのだが、それでも人や生き物はいた。だが今はこの男、魔王一人だけしかいない。魔王。この男が花の国の戦力をほぼ壊滅状態にまで追い込み、花の国に危機を齎す張本人である。周りが雪や氷で覆われた地形のため氷をはじめとするあらゆる素材で魔王城を建築したようだ。
「我が“能力”と我が“魔力”でここまでうまく魔王城を完成できるとは思っていなかったが、我ながら良い出来である。だが、我が魔王城には内装は無いそうです、なんて冗談が嘘ではないくらいに芸術品の一つも無い。どこかから兵士や冒険者風情が未完成の魔王城に土足で踏み入るせいで完成が遅れてしまったからな」
自分で作った城を自画自賛し、兵士たちに完成が遅れたことを責める魔王。なぜそのような責任転嫁をするのか、それは半年前に遡る。
━半年前━
「やってしまった……」
この男は魔王である。魔王はこの時、初めて魔王となってから氷や吹雪を発生させる魔術『ブリザード』を発動した。試し打ちのつもりで放ったのだ。しかし、魔王としての力が強すぎて加減ができずに、結果的に南方面、つまりブルーミアの城方面に猛吹雪を放ってしまったのである。
「……魔王となった我の力は些強力すぎるようだ。時と場合を選び、かつ的を絞らなければ今回のような失敗をしてしまいかねない。室内ならなおさらである」
この吹雪は後に初夏になっても溶けない積雪となり、多くの生き物に生命の危機を与え、天候すら歪めてしまうほどの影響力があることを魔王はこの時は知らなかった。言うまでもないが、この吹雪は花の国に魔王の存在を知られるきっかけになる。この半年後には花の国はほぼ壊滅状態にまで追い込むことになる。その程度にはこの魔王は強かった。
━現在━
「……暇だ」
魔王は一つの仕事を完遂したことで暇を持て余すことになった。部屋に取り付けた窓から魔王の城近辺を見下ろす。魔王の部屋は魔王城の上方の階に設けている。たった一人しかいないため部屋も持て余している。城の内部は意外と殺風景なのである。
「そういえば魔王になってからろくに食事をしていないな。この身体になってからは休息も食事も要らないのだが、たまには旨い物でも食してみたいものだ。だが、この近所には食事処はもちろん商店もインスタント食品も、何なら食料すら無い……いや、ある。食べるのは気が進まない上に不味いのだが……」
見下ろした先に何かを見つけた。人肉である。自らが倒した花の国の兵士や勇者パーティの亡骸が転がり、氷漬けになっている。食べられそうな物と言えばあとは雪や氷と、この程度である。
「もはや天然の冷凍庫だ。いや、食品は気温が低すぎる環境下だと冷凍焼けを起こすため、冷凍庫に入れておかなければならなかったはずだ。……そんなことはどうでもよい。この城は我が能力によって完成した物である。だとしたら人肉を食べずとももっと旨い物を作り出すことができるのではないだろうか?」
魔王は人間を殺して城を築き上げた自分の手を見て呟く。自分の手と外を交互に見て少し考え事をしてから決心する。
「……試してみるか」
魔王は自室を後にして、殺風景な魔王の部屋よりもさらに殺風景な何もない外に移動した。土や雪を掘るために使う大型のスコップを持ち出して掘り返したため土が顔を出している。
「我の魔術では威力調整ができずに神建築を吹き飛ばしてしまうから手作業でやらねばならなかったが……さて、我が能力で何か作れないものか試す時がきた。そうだな……この氷の地に果実でも実らせてみようか。禁断の果実としても有名なリンゴがいいだろう。寒さにも多少耐えるやもしれん」
魔術が強すぎるのも困りものであるようだ。本来なら問題ないのだが魔王は自身の力で兵士たちを大量に殺すことに特化させてしまったためちょっとしたことには魔術は使えないのである。
「さあ、始めよう」
雪の中から顔を出す土に手のひらを翳す。魔術ではなく能力を発動すると土から植物が芽を出す。みるみるうちに芽を出した植物は木になり、リンゴの実が付いていた。
「我が能力がこれほどとはな。いや、この植物が育つことのない環境で、無から種を生成して、その種を数十秒でここまで育てられるということは、良い環境だったら育ちすぎて良い環境ごと破壊しかねない。これでよかったのだ。リンゴの木がこの後どうなるのか観察するためにわざと残しておくか。何なら気が向けば植物をまた育てるのもよいかもしれないな」
自分の能力の考察をして呟く魔王。魔王は力と暇を持て余しているためどんなことでも出来る。そんなときだった。魔王は何かの気配を感じ取る。
「……誰かがいるというわけではない。恐らく危険予知?だとしたらまた冒険者風情が我の城に土足で入り込もうとしているようだ。だがかなり遠くに、たった一人。だが危険は排除したい。我の能力などでより高度な防衛システムを構築せねばなるまい。植物を育てている場合ではないな」
魔王は独り言を呟きながら今後の対策を考える。この魔王、のちに雷帝丸と全面的に対決することになるのだが、それはまだまだ先の話である。
台風の影響で時間ができたため急遽魔王の様子を書き下ろしましたが、結構設定を練っているためおおむねちゃんと書いています。




