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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
0章
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0章 とある者 ②独りぼっちの勇者

「……腹が減った……」

 この少年は雷帝丸。この世界に生まれてから15年が経過した彼は数日前に実家を追い出されてやむなく勇者になった。勇者というよりは若干弱々しい農民出身の駆け出しの勇者で、アホ毛が一本あること以外はいわゆる没個性的な見た目である。勇者ではあるものの、勇者とはこの世界ではごろつきのような者も少なくない。勇者は旧世界(第三次大戦前)ではいわゆるヒーローのようなイメージが濃いが、この世界では異業を達成しようとしている者、または達成した者が勇者である。そんな世界観を持つこの世界だが,

勇者は旧世界の西暦2020年頃では考えにくい勇者も外道な勇者も存在する。奴隷を酷使したり盗賊紛いの活動をしたりする勇者も数多い。この青年はそういう外道な者ではないが、生きることに必死になっている。雷帝丸は国が運営する役所に勇者として登録して仕事を斡旋してもらおうとしたが、まだ経験不足なこともあって登録だけして地元へ帰っているところである。


「俺の『能力』の何がいけないんだよ、武具も無い元農民だからって何なんだ全く。でも必要な物を揃えるお金もない、武器と防具は買えないから地元の戦場跡で調達するとして飯どうしよう……あ! あれは果物!食べられるヤツ! 」

 勇者は平穏な世界を保つために各国で募集している何でも屋に近い存在である。誰でも登録さえしてしまえば役所から仕事を引き受けてもらえる。当然仕事をする上でのルールもあるが、今回は省略させていただく。ただ、誰でも登録できるという制度のせいで前述のような外道も増えている。

 雷帝丸の実家は花の生産をする農家だった。幼少期は花畑を駆けまわり、花の世話をし、両親の手伝いをするごく普通の少年だった。しかし、雷帝丸が果樹園の勉強を始めたところで家族が激怒し家を追い出されることになった。その時までに得た数少ない知識を用いて野生の木の実などで食い繋いでいるが、ひもじい思いをしながら生きる日々が続く。

「んん~! うっめ! うんめ! いいゾ~これ」

 余談だがこの後彼はおなかを壊して苦しむことになった。そんな彼は数か月もすると地元の戦場跡で多くの武器や防具を漁り、それらを持ち帰って森の中でサバイバル生活をしていた。戦場跡とは第三次世界大戦後の復興中に栄え始めた各国が戦争をした場所で、廃棄された武器や防具が山ほどある荒地である。古びた武器や防具を可能な限り修繕して身に纏い、使えそうな物は回収し、それらを用いて森の中で狩りや採取をして生き続けていたそんなある日のこと。雷帝丸は戦場跡でなんとなく手にした剣と盾に魅了され、試しにその場で振り回して使用感を確認していた。


「この剣と盾、左右のバランスがめちゃくちゃ悪いけどなんかしっくりくるな。細くて短めの剣に身体を覆うくらいバカでかい盾。剣は何か短いし、盾は大きすぎて持ち歩きには大変だろうけど……なんかこの二つは大切にしておいた方がいい気がする。よし、持って帰ろう! 」

 たった数か月の間で武器や防具をいくつも失いながら生きてきた雷帝丸だったが、なぜかこの剣と盾はしっかりと持っていないといけない気がしたのだ。道具に執着がなく、その場にあるもので道具や罠なども作ることが多かった雷帝丸にとっては珍しく思った。その剣と盾を大切に自宅へと持ち帰って使いやすいように盾の裏側に剣を収納できるように軽く改造し、盾の裏側に鞘が完成したのでその鞘に剣を納刀した。剣は盾の裏側にすっぽりと入り、表から見ると内側に剣があることは確認できないため仕込み盾のような仕上がりになった。それに合わせて持ち手も増やして盾をいざというときの投擲武器や殴打武器としての機能も盛り込んだ。

「剣と盾ってなんだか旧世界の勇者らしくていいな! 普段は手元にある道具や武器で狩りをするから勇者っぽくないし、俺には魔力も学力も無いから魔術も使えないし、弓とかパチンコなんかの遠距離武器じゃ矢や弾が無くなれば使えなくなるからやっぱ剣と盾みたいな近接武器がいいな。と言いつつも、使えるものは何でも使うけどな」

 その後も多少の変化はありつつも、戦場跡を漁りながらそこで得た武器や防具などと一緒に狩場にある適当な材料を用いて森で狩猟生活、たまに役所へ行き勇者として仕事を引き受ける。それらによる狩りと依頼でサバイバルな日常が繰り返されて、10年の時がただただ流れた。 



「花の国から手紙が来た……」

 緊急招集と書かれた便せんを開けながら一人で呟く雷帝丸。10年の時を経ても変わらない生活をし続け、成長しきった身体は一般的な成人男性の身体になった。アホ毛は変わっていない。しかし生活の質は改善した。少しだけ開拓した森の中に、かなり厳重に作られた柵の内側には小さな畑も全て自分で作っていた。ある程度のことは一人で何でもできるようになっていたのだが、たまに勇者登録をした花の国の役所へ赴いて役所からの依頼などで得た少ない金で買い物や次の依頼の資金源にもなっている。学が無いせいか難易度の低い参考書も好んでいるようだ。今となっては勇者歴10年のベテランであり、その町では『森に住むダサい名前のベテラン勇者』としてちょっとした有名人である。要は変わり者として知る人ぞ知る人になっていた。町にはたまに勇者のパーティーの人員が足りない時に雇われ兵のように参加して仕事を分けてもらっていたので、顔見知りもといビジネスパートナーが少なからずいる。だがそんな顔見知りたちは3か月前に町に赴いたときには全員が別の仕事に出て行ったらしく、顔見知りの勇者を誰一人と見ることはなかった。そんなことがあったのだが、今回はその役所ではなく国の首都の城まで来いとの命令だった。

「うーん……住所見ると役所より遠いというか、首都の城の住所になっているってことは国から直々に呼び出しがかかっているってことだろ? しかも今は金もそんなにないから歩きじゃないと行けない。片道だけで5日はかかる長旅になるぞ」

 少し引っ掛かるところがありつつも緊急招集とあれば急いで国の首都へ向かうしかない。雷帝丸は少し名残惜しむかのように装備や持ち物を整え、手入れをしていない武器たちの中から例の剣と盾を取り出した。剣と盾を手に入れた時よりも身体が成長したため武器と身体の比率が変わり、剣と盾を構えるとそれなりに様になっている。

「でもこのボロボロの装備じゃ勇者には見えないだろうし、パーティーも組めないよなぁ…」

 勇者はパーティーを組んでリーダーとしてパーティーを指揮する権限が与えられているが、その分メンバーを養うような側面が出てくるため、雷帝丸にはそれができずにボロボロのまま10年が過ぎてしまった。例の剣と盾も10年間でたまにしか使用しなかったとはいえボロボロになっているがまだまだ使えると判断している。雷帝丸自身も成長して、大きかった盾はしゃがむと身体が隠れるくらいに身体が大きくなり、違和感のないサイズになった。その盾に剣を納刀した状態で背中に背負い、最低限の道具を用意した。

「いってきます」

 たった一人の勇者はぽつりとつぶやき自宅を後にした。




ここでは本編の補足などを書きます。

この物語での旧世界とは我々が生きている2020年前後やその少し先の話の第三次大戦までを主に指しています。作中では第三次大戦から何万年も経過しているので完全に過去の話です。ただ、その影響で文明が衰退した代わりに人間自体が進化しています。


今回から登場した雷帝丸さんは身長172㎝程度の1本のアホ毛以外は没個性的な人物です。防具は拾った防具を再利用しているエコな人です。悪く言えばケチな人です。盾は約130㎝程度とかなり大きめなためタワーシールドに近く、その裏には刃渡り65㎝程度の短剣を仕込んで鞘の代わりにしています。イメージ的には旧世界でよくいる盾と剣を持った勇者の武器そのまんまです。ゼ〇伝のリ〇クとかド〇クエの勇者とかの盾が超巨大化、剣が縮小化したみたいな。

なお雷帝丸さんにはこの作品でよく出てくる魔力をほとんど持たないため魔術などが使用できない脳筋タイプです。サバイバル生活をしている割には遠距離武器は好まないようです。

能力はちゃんと持っていますが、もう少ししたらちゃんと公開します。魔術はまだ出てこないのでしばらくは小難しいことは抜きにして冒険します。

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