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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
雪の森
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雪の森 番外編 シクロの過去

 雷帝丸は外に出て行った。洞窟の中にはシクロが一人で寝転がっている。いつまでも拗ねているわけにはいかないのはわかっていてもプライドが許さない。自分の知らないところで自分の下着を誤った方法で装備した男なのだから許せないのは当然である。それ以前に誤った方法でも正しい方法でも装備することはよろしくないことであるが、自分のだらしなさが招いた失態で辱めを受けたことも許せなかったのだ。力でねじ伏せることで大抵のことは解決してきた彼女にとって今回の件は力で解決できないため思い通りにならない憤りを存分に味わうのだった。

「……」

 シクロが寝返りをうつとそこには変態も勇者も男もいない。使用済みと使用前のポーションのビンが並んでいる。空になったビンは半数が倒れていて、中途半端に開いた蓋のせいで中からポーションの雫が垂れている。それらをぼーっと見つめているシクロ。

「男なんて……」


 シクロは過去を振り返る。幼少期のこと、シクロの両親が乗る漁船が沈没してそのまま行方不明になった。その当時から強い女になりたいと思い格闘道場で身体を鍛え始めた。その道場でたった3日で師範代よりも強くなってしまった。それは彼女の能力の発現が原因だった。シクロの能力は「身体に危険が迫ると身体能力が増加する」能力で、ピンチになればバカ力が出るというシンプルな能力である。だが能力そのものが強力過ぎていくつもの道場から破門されてしまった。リュウスイの道場は全て破門になってしまったが技術は身に着いた。少ない魔力で空中も水中も自在に移動でき、攪乱させて僅かな隙を突いて一撃で重症を負わせることができる格闘術“リュウスイ拳”である。手足の周りにある水分子を固定して足場や防具、格闘戦用の武器を疑似的に作ることができる。大小関係なく人間の撃退はもちろん、魔獣を葬ることができる格闘術でまれに漁業でも使う者がいる。元々は旧世界で酔っ払いが使う武術だったというが、それが派生したものらしい。

「……はぁ」

シクロは起き上がってため息をつく。疲れなのか呆れなのか自分でもわかっていない。だが彼女は強すぎた。リュウスイ拳を会得したのちに道場の弁償代を稼ぐために両親のように漁船に乗り込み漁に何度も出ていた。だが漁船に乗る女性は数が少なく、そのころにはシクロは二次性徴が始まっていた。女性的な身体つきになるのにそう時間はかからず、屈強な男たちに性的な視線で見られることもセクハラのようなことをされることもかなり多かった。雷帝丸は気が付いていなかったがシクロはいわゆるボンキュッボンでそのボディを堪能するために野郎共に寝込みを襲われそうになったことも珍しくなかった。だが彼女は自身の能力と格闘術で屈強な男たちを船ごと海の藻屑にしてしまうことがしばしばあった。そのせいで余計に借金が増えてしまい、現在は水の国の兵士になることで借金を援助してもらいつつ生活していこうと計画していたところだった。勇者になることも考えていたが、借金を返済することを考えると兵士になる方が得策だと判断した。

「あの男は結局男。あたしの敵……」


 シクロの過去の出来事が原因で男嫌いになってしまった。男であれば雷帝丸でも例外ではない。だが自分を『仲間』と言ってくれた人は初めてだった。男はもちろん女からも言われることはなく、力でねじ伏せることで得られるものではない『仲間』と言ってくれたことに動揺が生まれている。決して許すことはしない、だが今だって彼は自分を守るためにこの場に駆けつけて爆発から身を挺して守ってくれた。雷帝丸が今この洞窟にいないのも彼女を守るためにメタンガストパスを退治しに行っているからであり、自爆覚悟で倒すことを考えていた。シクロには複雑な感情が入り乱れている。自分がどうするべきなのか、雷帝丸から頼まれた

役目を果たすべきなのか、しっぽを巻いてそそくさと逃げるのか、変態として水の国の牢屋に叩き込むのか……。

「……逃げても拠点が爆破されたらどうにもならないわ。腐れ勇者を助けるためじゃない、あの魔獣というか海獣もろとも腐れ勇者をぶっ飛ばすためにあたしは戦うのよ。うん、そう、そうだ、あたしは悪くない、自然な感じに役割を果たせばいいんだ。最終的に自爆して死ぬのはあの勇者だ。あたしはパーティメンバーではない、一時的に協力関係にあるだけ、あるのは男に対する憎しみ、うん、それでいい。あの腐れ勇者を倒す! じゃなかった! あの海獣を倒す!! 」

 自分に言い聞かせて立ち上がり、シクロはポーションを一つグイっと飲み干してビンを投げ捨てる。投げ捨てたビンはパリンとわれてしまい、あっと声を漏らすが見なかったことにした。余ったビンとポーションをポケットに突っ込み、彼女の少し歪んだ復讐が始まった。




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