雪の森 ⑨雷帝丸の作戦
「……というわけで、ヤツの名前は『メタンガストパス』だそうだ。タコとスライムの中間にあたる海獣だとよ」
「……あっそ」
雷帝丸は作戦会議を始めた。ここは雷帝丸がおばあさんと初めて会った人工の洞窟である。今になって見てみると採掘所であることに気が付いた。吹き飛ばされた先にこの人工の洞窟もとい採掘所があったためここに避難した。シクロが緊急用に持ってきていた回復薬をシェアして回復を待ちつつ、雷帝丸は安全確認のついでに採掘所を少し探索して、いくつか拾いものをして帰ってきた。雷帝丸はそこで作戦会議を始めたのだが、シクロは横になってずっとそっぽを向いている今に至っている。
「だから俺はお前を襲ったんじゃないんだって! ヤツの皮膚から出てくる可燃性ジェルが雪に落ちて凍って、それを踏んで滑ったんだって! あれは事故なんだってば!! 」
あの赤い何かは『メタンガストパス』という海獣である。タコとスライムの中間的存在であり、おばあさんの話では球状の頭と8本の吸盤付き触手を持つ50センチほどの小型の海獣だが、頭にあるガス発生器官で最大直径10メートルほどの大きさまで膨れ上がる。ガスがある程度溜まると水上を漂うことができ、頭の裏側にある嘴が火打石の代わりとなりガスを着火させて爆発するが、爆発後は何事もなかったかのように元の大きさに戻る。今回は陸上にいるが、どうやら地上では空気中に浮くことで長距離移動ができるようだ。また、全身の皮膚から水のように無職透明な可燃性のジェルが出ていて皮膚を守っている。いざというときに爆発の威力をあげることもできるが、これ以外のことはわからない海獣である。そもそも個体数が少ない上に陸に上がってきたことがない海獣なのだ。
「で、私をここに連れ込んで何する気なの? さんざん私の嫌がることをしてそんなに楽しい? 」
「いや、なんというかそういう事故じゃん。俺も確かに少しそういうのは考えたけどそういうことじゃない」
「『そういうこと』が多すぎて何言ってるのかわかんない」
「~~~! そろそろ機嫌を直してくれよ! 今やべーヤツが近くにいるんだからソイツを倒すぞ! そのための作戦会議だ! シクロにもやってほしいことがあるんだよ! 」
痺れを切らしかけている雷帝丸はシクロを強引に作戦会議に巻き込んだ。シクロは相変わらず横になりながらそっぽを向いている。そんなシクロに雷帝丸はこの採掘所で拾った火打石を渡した。
「ほら、俺がメタンガストパスの気を引くからシクロがその火打石を嘴に投げつけるとか何かをして爆発させてくれよ。意図しない爆発を起こせればうまく倒せる隙を作れるから……」
「……あんたを巻き込んで爆破してやる」
「もとよりそのつもりだ。俺ごと爆破してもらって構わない」
「はぁ!? 正気なの!? 」
「あぁ、頼む」
頷く雷帝丸の表情は真剣そのものだった。図々しく生に固執する勇者はそこにはいなかった。
「そんなことしたらあんた死ぬでしょ!? 」
「だから死なない程度にやってくれ。俺は元々重症なんだ。今だって全身が痛いし。勇者としては失格なのはわかってるけど、パーティーでお荷物になるヤツは囮にするのが定石だ。でも囮は死なせたらダメだ。どんなに使えなくても、どんなに嫌なヤツでも生かさないとダメだ。できればつらい思いをさせることも極力減らさないと。ましてや俺はパーティーのリーダーで勇者だ。勇者が死んだらパーティー解散だよ」
「なんでそんなこと私に……」
勇者としての持論を展開した雷帝丸はスーっと深く呼吸し、少し間を置いて空気を吐き出してシクロに言った。
「『仲間』だからな。俺はシクロを信じる」




