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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
雪の森
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雪の森 ⑦おばあさんとシクロ

 そのツリーハウスには全身ボコボコの男と華奢な体つきの少女が住んでいる。少女の名前を知らない雷帝丸は今日も今日とて身体をロープで縛り上げられ、逆さに吊られている。冬を越す虫のように蓑をまとったような姿である。ロープは伝令に装備を持ってきてもらった時に持ってきてもらったもので、無駄にしっかりしたものを取り寄せている。

「……そろそろ限界なんですが。もう3日目ですよ。ねぇ。いくらなんでもけが人をメリケンサックで殴り掛かって戦闘不能にした後でロープで縛って吊るしてメチャクチャ痛そうなガントレットでサンドバックの代わりにするとか流石にひどくないですかねぇ。しかもこのまま飲まず食わず3日目ですよねぇ! ねぇってば!! 」

 少女は無視して出かける準備をしている。雷帝丸はそんな少女の怒りの炎に油を注いだ。

「ねぇ、ほんとに助けて、重力に負けそうなんだけど。重力で頭が痛いし、よだれとか血液とかの体液が垂れてくるんだけど。垂れるってあんまりよくないよね。そのロマン溢れるHカップのおっp」

 長々と続く文句に終止符が打たれた。少女は変態の顔面に右から回し蹴りを入れる。変態はそれを左に受け流すことができず、蹴られた勢いで身体が吹き飛び、ドーンと大きな音と立てた天井に上半身がめり込む。

「……マジで許さない! 」

涙を浮かべつつ真っ赤になった顔で少女はそう言い残し、食料調達と修行のためツリーハウスから出て行った。


 2時間後、ボコッと音を立てて天井から上半身が抜けた男の顔はとても青い。ロープに天井から吊り下げられているせいで振り子運動のように身体が振り回される。それでも血が通っていないような青白さで、その顔は外でツリーハウスに向かって叩きつけてくる吹雪の色に似ている。

「あー……半分くらいは俺に非があったよ。確かに邪な気持ちがありましたよ。でもさぁ、使用済みなのか使用前なのかわからない下着をあんなとこに置きます? 多分あの子はお父さんにも同じような対応しますよ。自分のだらしなさが故に招いた事故じゃん。なのになんでこんな目にあってんの!? ねぇ!! 」

 宙吊りになって揺られながら懺悔と文句と言うこの男。こうなってしまってはパーティーメンバーに加入どころか魔王討伐の旅にも出られない。最悪の場合リュウスイの牢屋に入れられる。証人も弁護人もいない。終わった。ノラで続けていた勇者生活もここまでだ、と思う宙吊りの勇者雷帝丸だった。しかし、ある人物がこのツリーハウスに訪ねてきた。

「だれかいるかね~? 」

 年老いた女性の声である。どこかで聞き覚えがある。雷帝丸はその女性に対して大声で助けを呼んだ。



「いや~、いてて……助かったぁ」

「何をしたらそうなったんじゃ。いや、だいたい検討が付くのじゃが」

 ツリーハウスに来たのはおばあさんである。そう、全裸の勇者雷帝丸に売り物の毛皮と食料を分けてくれたあのおばあさんだ。雷帝丸を見かねてロープをほどいてくれただけでなく、棚に置いてあった塗り薬を雷帝丸の痣に塗っていた。

「まだ全身が痛い……あ、ばぁさん、そこ痛い」

「今薬を塗ってんじゃが、100か所は折れてたりヒビが入っているはずなんじゃ。お前さんは回復系の能力じゃなかろうて」

「え、そんなに重症? 」

 驚きながらもなんとか無事だった雷帝丸。そういえばとおばあさんが話題を変える。

「その様子だとシクロには相当嫌われてるようじゃのう」

「え? あの子がシクロ? あの狂暴な爆乳の子が? 」

「あぁ、あたしゃの孫じゃよ」

「早く言ってよそういうのさぁ」

「ちなみにシクロは胸がコンプレックスらしいから言うなと忠告するのを忘れとったわ。邪魔で連撃が叩き込めないとか言ってたのう」

「だからそういうの早く言ってよ! 」

「あたしゃも若い時はあれくらいあったのじゃが、行商人じゃったから特に邪魔とは思わんかったのぉ。むしろ爺さんナニを挟むとk」

「わーった! わーかったから! ばぁさんの話はいいから! なんか想像したくないからやめて!? 」

 ホッホッと笑うおばあさん。雷帝丸は雷帝丸で失礼であるが、おばあさんも悪ノリが過ぎる。

「で、頼まれた依頼は達成できてないんじゃが? 」

「うぐッ、痛いところを突かれた……」

「ツリーハウスにいるシクロに国に借金を返すように説得することは失敗じゃったのぉ」


 このおばあさんに最初にあったときに言われた“おつかい”とは“説得”である。しかし雷帝丸は説得するどころかまともに話をすることができなかった。いや、できたのだが、あの少女がおばあさんの言っていたシクロであることはわからなかった上にセクハラをしてしまった。どうすることもできない。

「それ以前になんで国に借金したんだよ。けっこう質素な生活してるぞあの子」

「……じつはあの子の両親は漁師じゃったが、船が事故で沈没して借金まみれになってのぉ。両親はその時は無事じゃったが、その後は借金返済のためにリュウスイの南にいる魔王の討伐に行ったのじゃ。おまえさんの追ってる魔王とは別の魔王じゃな。しかしそのまま行方知らずになり、あの子だけ取り残されたのじゃ。一応あたしゃが面倒を見ているが、それもいつまでできるか不安じゃった。それでもすくすく育ってくれてのぉ」

 シクロはそんな素振りは見せなかった。このおばあさんといいシクロといい肝心なことは隠すことが多いようだ。あれだけ明るかったおばあさんはその見る影もないほど暗い顔をして続けた。

「両親の借金返済のためにあたしゃも奮闘しているところじゃがあいにくこんな商売しかできなくてのぉ。シクロも小さいときから働いたり戦ったりの生活じゃった。じゃが格闘家としての才能はイマイチでルール違反してすぐに退場ばかり。そのせいでファイトマネーは受け取れず、働こうにもすぐに物品や店を壊すからクビになるし、リュウスイで一番の産業の漁業で働くこともしていたんじゃが、乗った船を素手だけで何隻も沈めて借金だらけになってしまったのじゃ。おかげさまであたしゃの稼ぎだけじゃどうにもできなくてのぉ。最初はあちこちの金融機関に借金をしたんじゃが自己破産申請で生活を追われて支払い切れなかったんじゃ」

 つまり、シクロは収入がない。しかし何とかして借金を返すつもりではあるようだ。


「漁業の船を何隻も沈めるってどんだけ強いんだよ……確かにあの子はめちゃくちゃ強い。俺のパーティーにずっといてほしいくらいだ」

「今は国の使いになることを条件に国が運営する銀行に借金をしていたのじゃ。使いといっても兵士のような存在のようじゃがな」

「婆さん、やっぱ孫が心配か? 」

 おばあさんが頷く。二人の孫が辛い目に合っているのに何もしてやれない。そんなやるせなさが背中から溢れていた。

「婆さん、やっぱり俺にシクロを預けてくれないか? 」

「危険じゃろう、魔王討伐なぞ…それにこれ以上家族を魔王のせいで失いたくないんじゃ」

「確かに危険だ。そのリスクは十分ある。だが俺には仲間を犠牲にするようなふざけたことはするつもりはない。俺は…」

すると外からドカン! と大きな音がした。

「ぅお!? なんだ!? 」

「まさか! 」

ツリーハウスも爆音と共に揺れる。爆音が残響しつつ、グラグラとツリーハウスは揺れ続ける。

「おまえさん! シクロが危ない! ついに来おったのじゃ!! 」




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