雪の森 ⑥祟りの布
あれからかなり時間が経過した。おなかが空いたが食べるものがないため、暖炉で燃える炎を見ながら少女の帰りを待った。だが、この男は反省を活かさなかった。どうしても気になったのである。このツリーハウスにはあの少女一人だけが生活していた。つまり今はプライベート丸出しである。
「……やっぱり気になるじゃん?もしかしたらパーティーメンバーになるかもしれないし?」
あの様子でパーティーメンバーに加入するわけがないが、パーティーメンバーに加入する前提で話が進む。この男、まさに外道。痛む身体を動かして、ぎこちない動きでありながらも目標に向かって第一歩を踏み出す。すると何かを踏んだ。
「ん? なんだこれ? 」
座卓の下から紐が出ている。なにかがあることに気が付いた。雷帝丸は縛る紐あったじゃん、と思いながらそれを拾い上げる。その紐の先には二つの大きなふくらみがあり、ひらひらした装飾が付いた薄桃色の布が出てきた。
「え、これ、あ、アレですよね? 触れたらマズイやつですよね……? 」
薄桃色で大きなふくらみがある布があった。座卓の下を慌てて覗くと二等辺三角形で薄桃色の布もあった。それも拾い上げてみると臀部や股間を包み込むように作られている布だった。どうやらこの二つは二つで一つのようである。
「…………」
雷帝丸は少し思考停止する。ここではどうするのかわからない。何をどうすればいいのか。答えは簡単、見なかったことにしてもとに戻して大人しく待つのが正常である。しかし男というものは未知の物に興味を持ってしまう生命体である。その興味は雷帝丸に正常な判断力を失わせるには十分だった。
「わー……これはなんだろなー…」
雷帝丸はまず三角形の布を確認する。材質、装飾、色使い、構造を確認する。三角形の頂点部分は別のパーツで出来ているが、それを縫い合わせることで両足を通しつつも腰回りで安定するような構造である。裏表間違えないようになのか前と思われる方向にのみ着用時に腹部と思われる付近に派手過ぎず謙虚過ぎないリボンが装飾として付いている。脚を通す穴も前と思われる方向に若干向いている。臀部と思われる方には特にこれと言った装飾は腹部のずり落ちないようにするための伸縮性のある紐が内蔵されている部分に装飾があるくらい。
「えっと…内部? はどうなってんだ? 」
雷帝丸は調査を続ける。裏返してみるが内部にはこれと言った装飾が無い。当然と言えば当然だが、雷帝丸にとっては未知の産物なのである。一つ一つが興味をそそる。使用感は多少あるのだが特に汚れのような物は見当たらない。それを確認してなのか、何を思ったのか、雷帝丸は頭に被ってしまった。
「……なるほど、防具としては防御力はかけているな」
謎な分析を完了したところで頭に布を装備したまま、雷帝丸は次に大きなふくらみが二つある方の布を分析する。まずは縛る紐と勘違いした部分、どうやら肩にかける紐だったようだ。長さを多少変更できる仕組みが仕込まれて他のパーツに縫い付けられている。背部には通気性の良い布と装着時に固定する金具がある。その反対側には大きなふくらみが二つあり、その二つのふくらみを繋ぎ止めるように別のパーツが縫われている。
「こっちはパーツが多いようだな……」
まだ分析を続ける。大きな二つのふくらみは左右対称になっている。底部と思われる部位は固い素材で胸部を安定しやすくする構造、胸部の頂点をはじめとする特定部位を優しく包むための三重構造。この三重行動のおかげで山のような形状を記憶出来ているようだ。装飾も二等辺三角形と揃うような作りになっている。こちらもある程度の使用感はありつつも汚れはこれと言ってない。今さらだが床に放置されていたのに塵や埃のような物は着いていない。それらを確認してなのか、頭に二等辺三角形の布を装備したままふくらみがある方の布をアイマスクの代わりにしてみる。大きすぎてぶかぶかする。何となく匂いを嗅いでみる。嗅いだことの無い独特な匂いがした。
「やべぇ、なんか落ち着く。落ち着きはしないけど。」
冷静なのか興奮しているのかわからない。男は改めてまじまじとその布を拝見すると、タグが付いていることに気が付いた。タグには薄れた文字で何か数字が書かれていた。その数字を確認したところで背後でギィ…と音がして……
「 な に し て る の ? 」
雷帝丸は何度かこんな夢を見たことがある。
「……まただ。知らない街、というより異世界? 旧世界? 」
雷帝丸は生まれつき知らない街に訪れる夢を見る。とてつもない数の人々、石材とは異なる謎の材料でできた巨大な建物、黒いが土ではなくレンガとも違う謎の素材で舗装された地面、その地面を駆ける鋼の車、濁ったような空気、聞きなれない音の反響、全て雷帝丸にとって知らないもののはずなのにここを知っているような気がする。
「この夢ってことは…俺はまた……」
雷帝丸はこの夢の結末を知っている。最後は自分が死ぬ。死ぬまでの工程は多少の違いはあれど結末は同じである。
「あ…」
雷帝丸はいつもの装備がない。どう見ても部屋着のズボンに赤と黒のチェック柄の上着を羽織り、その下にはでかでかと『勇者』と書かれたTシャツを着ている。毎回道端でぼーっとしていると鋼の車に身体を叩きつけられる。叩きつけられた身体はすでに血が噴き出して関節があらぬ方向へ曲がる。転がった身体に車体が乗り、車体の重さで身体が引き裂かれてそのまま頭も心臓も骨も粉々に砕け散る……。
「はっ!? 」
いつもここで目が覚める。
「はぁ…はぁ…げほッげほッ!! 」
咽る雷帝丸。自分が無残な死に方をした夢を見たのだから咽るくらい誰にだってある。
「はぁ…はぁ…なんかここ半年くらいで悪夢を見る頻度が上がっているような…? 毎回ちゃんと中身を覚えてないけれど死にすぎじゃない? 」
そう、雷帝丸は毎回同じような夢なのに内容が覚えられない。厳密には自分には全くなじみの無いはずの夢なのになじみのあるような感覚で、それなのに身に全く覚えの無い街で未知の文明の景色を見ているのだ。起き抜けで夢を忘れてしまうなんてことは極々普通のことでもあるが、生まれつき何度も同じ夢を見ているのだからなんとなくは内容がわかる。
「……まだ夜中だ、もう一回寝よう」
雷帝丸は特に深くは考えずに再び眠りに付く……吊るされたまま。
変態行為、ダメ、絶対。




