雪の森 ⑤差し入れ
昼になるとツリーハウスに伝令が来た。少女は雷帝丸の話をすると、伝令から大きな木箱を預かった。驚いた様子で受け取っていたその代物は見るからに重そうだったのだが、少女は軽々と肩に担ぎあげてツリーハウスの上の階に持ってきた。
「まさか本当にあなたが雷帝丸だったとは……」
少女は未だに信じられないと言わんばかりの苦い表情をしている。信じられない八つ当たりなのか、少し乱暴に木箱を床に置く。
「だろ? ちなみに俺はさっちゃんだ。で、その箱は何だよ?ずいぶん大きいけど」
「水の国の都市リュウスイからあなたに、厳密にはブルーミアからあなたにってところかしら?あたしは食料を調達してくるからおとなしくしてて。あと乙女の私生活を覗くような真似をしたら今度は全身痣だらけじゃ済まないから」
「物騒なこと言うなよ!? というかおとなしくしてないと全身が痛いんだけど……」
ぷい、とそっぽを向いて出て行った少女を見送り、雷帝丸は痣だらけの身体を動かして痛みに耐えながら木箱を開けた。
「えぇ!? どうやってこれを持ってきたんだ!? めっちゃ重いでしょ!? 」
そこには雷帝丸が盗まれた装備一式が用意されていた。飛び跳ねるくらいうれしかったが、身体を下手に動かせない。装備と一緒に雷帝丸殿へと書かれた便せんが入っていたのを見つけてゆっくりと開けた。
『 拝啓、雷帝丸殿。
もうすぐ本格的な夏だというのに雪が積もり、今年の春の種まきができず、この国の財政難や生花をはじめとする特産品産業の廃業、この国の跡取りなどの問題に悩まされる毎日であります。
さて、急遽この装備を渡したのはリュウスイに到着している頃の時間帯に雷帝丸殿が来ているかを連絡したところ、装備を失ったブルーミアの勇者がいると聞いたため急いで装備を錬金術で用意した次第であります。姫様からはやはり頼るべきではなかったと文句を言われましたが、私は雷帝丸殿に期待しています。どうかこの装備を纏い、再び勇者として再スタートを切ってください。
ブルーミア城執事長 ベンゼン 敬具 』
手紙の主はベンゼンだった。おばあさんがリュウスイの城に赴き報告したのだろうか。なにはともあれ、雷帝丸の手元には失った装備が返ってきたことになる。厳密にはレプリカを手に入れたということになるが、雷帝丸はベンゼンに感謝してもしきれなかった。今の彼には図々しさはない。純粋に感謝していた。
「キンッキンに冷えてやがる…! ありがてぇ!! 」
装備は冷え切っていたが、その冷たさはハードワークを終えた後の黄金の酒と同様の有難さがあった。装備を失った雷帝丸は何もできない。雷帝丸に限った話ではない。人間は道具を使って生きる。道具がなければ何もできない人間など山ほどいる。それは勇者でも国王でも一般市民でも同じである。雷帝丸は冷え切った装備を確認するため木箱の中のものを取り出した。
「コートに防具、盾と剣もセットになってる…カンペキじゃん! あのじぃさんホントすげぇや」
そういえば、前の装備はどうやって手に入れたんだっけ? とふと思うが、しっかりと覚えていない。勇者になりたての頃に花の国の戦場跡に赴き手に入れた武器や防具の一つだったため別に愛着はなかった。たまたまあの盾と剣がしっくりきたから途中から使い始めただけだったと思い出した。駆け出しの頃は槍、双剣、鞭、アンクレット、ランス、ハンマーなど使えそうな近接武器を集めていろいろ試した。弓やパチンコ、ブーメランなど遠距離武器は手に入りにく貴重だったが、攻撃するたびに石や金属などを飛ばす便利な道具だった。しかし攻撃するたびに弾などの飛ばすものが必要になり、補填がいつできるかわからなかったため近距離武器を好んだ。魔術師が使うような武器も一応集めたが雷帝丸には一切使えなかった。
防具も同じころに集めた物で金属パーツは戦場で、革は魔獣との闘いや依頼の報酬で得た戦利品である。コートも戦場跡で見つけたが愛着があるわけではなかった。結局コートを含む防具はあらゆる端材を合わせて作ったものだが、自分で作ったからといって壊れることもごく普通にあったため愛着は特になかった。結局大型の盾と少々短い剣、それにいつもの防具に収まったのである。しかもあの盾と剣はセットではなく雷帝丸が使いやすいと思って拾ってきたものを改造して使っている上に、ここぞというときくらいしか使っていなかったため使用頻度も実は低かった。だか今回の魔王討伐に剣と盾も持ち出したということは、彼にとってのここぞというときなのだろう。
「ひとまずありがたいことに武器も手に入ったし、身体が治ったら試しに戦ったりしなきゃな」
そう言いながら木箱の中を探るとインナーを数着見つけたため、それを着て少女の帰りを待つことにした。
※雷帝丸さんはやっと全裸脱出です。




