水の国 ⑰仲間の期待に応えたい
第二試合が終了し、両者がベンチに運ばれてきた。治療班による手当が始まっていて、目立たないが顔にたんこぶのような腫物が出来たケラは涙ながらに仲間に謝罪する。
「し、ししょ…ごめ…なさ……」
命乞いのような怯え方をするケラに対し試合直前のフロウムは抱きしめて傷に触れないように頭を撫でる。だがフロウムの手首に装備として付けている腕輪のせいでうまくケラを撫でられず、それを見かねてコレシスが代わりに頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫。シクロさんの相手は俺たちじゃ一番可能性があったのはケラだったんだ。本来の戦いもできず相性も悪かった中でよくやってくれたっス。治療班がベンチに来ているからしっかり休むっスよ」
「えぇ。よく頑張ったわ。フロウムちゃん、その装備で良いの? 」
「あぁ。今回は魔術も使えるし、先輩が今までと同じなら短期決戦に持ち込んだ方がいいから余計な武器は持ち込まないっス。先輩は能力も魔力も持たないでほとんど身体一つで長いこと勇者をやってきたベテラン。決して強くはないけれど舐めてかかると全滅まで持っていかれるっス。一緒に戦っていたときは身体とその場に落ちてた石で魔獣の群れをボスごと全滅させたこともあったっスからね。とはいえ、今の俺はあの時とは比べ物にならないくらい強いっス。防御を崩して確実な一撃で沈めてやるっスよ」
ケラとは対照的に切り傷刺し傷が多いシクロ。魔本の力での回復が間に合わず傷だらけで血がにじんで滴る身体が運ばれてきて、治療を終えたコハクが取り乱す。
「おねぇちゃん大丈夫!? こんなにボロボロで……本当に大丈夫なの!? 」
意識はあるが鼓膜を破られただけでなく平衡感覚を失っているため立ち上がることも難い。魔本による再生能力で応急処置をしたが魔力が少ないシクロがそれを保つには限界がある。シクロを運搬した治療班もいち早く治療をしようと準備に取り掛かっていた。
「耳がやられていて音が聞こえないんだ。声をかけるのはちゃんと耳が治ってからにしよう。でもほんとによくやってくれたぜ! いきなり耳をぶっこわされても戦ってくれたからこれで首の皮一枚つながったんだ! 」
雷帝丸はシクロが聞いていないことをいいことに攻撃されないからと賛美を送る。シクロは雷帝丸の言葉に反応できなかったためやはり聴覚に異常がある。視界にも影響が出ているせいで辺りの様子が分からないが、試合中に出た声とは比べ物にならないくらい小さな声で雷帝丸を呼ぶ。
「ぁ…ゆ…しゃ…」
「あ? なんだって? 」
雷帝丸はシクロの口元を見ていてたまたま声が聞き取れたので顔を口元に近づける。いつものシクロなら雷帝丸の顔を粉々にしているところだがそんな余裕がないのか、聞き取れるギリギリの声で端的に言葉を伝える。
「かち……さ…よ……! 」
「「勝ちなさいよ! 」か…ははは…こんな時でも無駄にプレッシャーかけてきやがる。とは言ったが無駄にできるかよこんなチャンス……! 」
雷帝丸は若干呆れながらも応援を受け取る。勝利したとはいえケラよりもシクロの方が重症であるため治療班が急いで治療に取り掛かる。まずは耳から始まるが出血が止まらない。コハクは治療が専門ではないが、コハクも心配になって治療に参加する。ただし耳ではなくビートビーの毒の方である。
「おじちゃん! コハクも応援してるよ! 」
「ありがたいが今はシクロを頼む。俺はいつも通りに行ってくるから、留守番よろしくな」
「う、うん……」
雷帝丸は治療を始めたコハクの頭を軽く撫でる。少し照れ臭そうにするコハクだが、子ども扱いされている気もして複雑な気分になる。そんな気分を跳ね除けて治療を続ける。
(さて、あいつの得意な魔術や攻撃は炎だ。ホントはもっと縄とかワイヤーとか別の武器を持ち込みたかったが、燃やされることを考えたら余計に武器を持ち込むのはかえって俺が燃やされる原因になりかねない。ここは剣と盾だけにしよう。だが剣は2本ある)
雷帝丸は用意していたいつもの盾を持ちだして出ていく。右手にしっかりと盾を持ち、余分にある剣を持ってベンチからしっかりとした足取りで試合に臨む……かに見えたが何かを踏み、それを拾うと一度引き返してくる。
「どうしたの? 」
「風の国では急だったからすっかり忘れてたんだがな、俺には人間と向き合って戦うときに絶対にやっておくことがあるんだ」
「何それ? 」
「俺の能力でたった今拾った穴あきのコインだ。コイツをちょっとした紐に通して……できた」
雷帝丸は剣と盾を立て掛けて、落ちている包帯の切れ端を裂いて紐を作ると何かを作った。コハクはそれに見覚えがあったようで少し冷ややかな目で見る。
「おじちゃん、まさかとは思うけどそれって“魔法”? 」
「“魔法”? 違うな。“催眠術”さ」
「いや“魔法”じゃん。旧世界でよく使われた魔力を持たない人が使う魔術っぽいなにかだよ」
「いやー、コレをやるといい感じに戦えるんだ。コレをやらなかったからあの時股間を……」
「お〇ん〇んがどうかしたの? 」
「女の子が直接言っちゃいけません。後が怖いです」
雷帝丸の股間の件を知らないコハクが純粋な気持ちで聞いてくるが雷帝丸はコハクとシクロから目を逸らして“催眠術”を始める。紐を摘まんで離すとコインが振り子運動を始め、そのコインを半開きの目で見つめて何かに憑り付いたかのように呟く。
「俺はだんだん強くな~る強くな~る俺はだんだん強くな~る強くな~る……」
「それ絶対効果ないよ」
二人の勇者は闘技場のフィールドに入ってくる。試合のルール上武器は予め用意してもよいので試合が始まる前に武器を構える。雷帝丸は前日にベンゼンからアドレーン経由で受け取った剣を左手に、盾を右手に持って使用感を確かめる。この剣と盾はベンゼンが訪問した際に持ってきてくれたいつものレプリカである。
「まさかあの二人の圧倒的な火力をねじ伏せるヤツを揃えているとは思わなかったぜ」
一方でフロウムは雷帝丸が知っているグローブではなく、少し重量がありそうな物に新調していたようだ。手首の辺りで少し大きな腕輪が付いていて、それがグローブと一体化しているせいでそう見えるのだろうかと考えるが、同じような重量感のあるブーツも履いている。
「そうっスね。お互いにいいメンバーに恵まれたってところっスか」
「装備を見るに格闘戦を中心にした戦い方になったってわけか? 」
「それは見てのお楽しみっスよ。ところで先輩って俺の能力は知ってたんでしたっけ? 」
「さっき思い出した。お前の能力は『油を弾く』能力だったな。焼き鏝に油をかけて火を付けてぶん殴ってるのを覚えているぜ。自分は油を弾いているから燃えないってのは変わっているがいい能力だ。どれだけ成長したのか見るのも少し楽しみなんだよ」
雷帝丸は緊張を解くためか無駄話をする。両者の戦闘態勢が整い、主審に準備ができたと伝えると会場が静かになっていく。試合の始まりだ。
『これより第三試合、水の国より煌陽の勇者対花の国より勇者雷帝丸の試合を開始します!ルールはこれまでと同じ、この試合に勝利した者がこの決闘の勝者となります! 』
「すいませーん! サンダーボルトのさっちゃんですー! 」
勇者雷帝丸はどんな時でも名前の訂正は忘れない。だがついに始まるのだと、下手をすると殺してしまうかもしれないという恐怖、民衆が納得いく試合ができるのかという疑問、上層部の目を誤魔化して全員が生き延びることができるのかという不安。これは勇者二人の真剣勝負でもあり、周りが良しとする結果を残さなければならない戦いである。そんなことを考えていると、アナウンスの声が響く。
『最終試合……開始ぃ!! 』
ゴングと共に二人は真正面に駆けだした。この試合が良い形で終われば全員が生き残り、このいざこざを収めたい。それを願って拳を握り、剣を構える。
「いくぞ! 」
文字数が少ないこともありますが引き延ばしているわけではありません。バトルシーン3回戦分書いてたら少し長くなってしまったのです……




