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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
水の国
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水の国 ⑯下劣と卑怯の正々堂々

「なっ!? ……なんで喋れるんだ!? 」

 声が裏返るケラ。確実に聴覚を失わせ、脳にも衝撃を与えて普通なら死んでいてもおかしくない不意打ちを仕掛け、さらに毒を打ち込んで容赦ない攻撃で確実に勝負を決めに来た。だがシクロはそれ以上の頑丈さと回復力、何よりも屈強な精神がケラの心に揺らぎを与える。

 シクロは変色した身体が地面から離すことが出来ないが、既に作戦が失敗しているケラは怯えて弓を構える力はない。

「いたた……うーっさいわね。ちょっと気合入れれば耳と脳くらい治せるけどまだ治ってないから騒ぐな女々しい」

「そ、そんなわけない! 内部からの衝撃だけじゃなく毒も回っているはずだ! 」

「全部痛いわよ。他の人よりちょっと頑丈なだけでしっかりあんたのスポーツマンシップ0の攻撃はしっかりと効いてる。あー、内臓にも毒回ってきて気持ち悪っ。それよりもあんた、これは試合なのよ。殺し合いしようってわけじゃないのに正々堂々とはいかないことしてくれたわね」

「あ、あああああ当たり前だ! 生きるか死ぬかの世界に卑怯も何もあるもんか! 」


 シクロは少年特有の甲高い声を少しでも入れまいと耳を塞いで最小限の音量で受け答えする。シクロはケラの声を聴くと耳と頭が痛むのか毒の侵食が始まった顔を顰めて返す。

「あー痛い痛い。これは殺し合いじゃなく試合なのよ。どうせ殺さないと水の国の役人や兵士に殺されるとか脅されてんでしょ? 卑怯な手は逃げたり隠れたりする時に使いなさいよ」

「い、いや、それは違う……」

「はいはいわかりましたよ。話を聞くつもりもないならさっさと終わらせよ。解毒しないとそろそろ身体ヤバい、目霞んできた。気合で出来ることなんて限度があるし、魔本も使うとただでさえ少ない魔力がジワジワ減るから回復や魔術に似た技は相性が悪いのよ。だから今出来る回復はコレが限界。一撃で仕留めるから覚悟を決めろ! 男ケラ! 」

 致命傷を避けたが動けないシクロ。一切負傷していなくても精神的に追い詰められて手足が動かせないケラ。外見上ではケラが圧倒的に有利でも、少しずつ怒気が籠るシクロの声も相まってケラはこの場が森なら今にも逃げ出しそうな弱腰である。

「む、無理! 」

 案の定というべきかケラはシクロに応えることはできなかった。だが諦めているわけではないようで、ケラはハープに魔力をしっかりと流し込んで弓に展開した。シクロはふっと笑うと起死回生の一手に出た。


「今はそれでいい。あたしを止めなきゃやられるぞ! 8%! 」

 シクロは全身の力を過剰に増幅させて、プラズマのような何かが身体に帯びる。まだ完全に治っていない耳や脳は魔本の力で補強し、毒が回っている身体は自分の能力の糧とする。肉体派ではないケラを下すには十分すぎる攻撃力を備え、変色した身体を起こしてケラに向かって駆ける。

「も、もう走れるの!? で、でも! 」

「くっ、ふらつく……! 」

 シクロは三半規管にも影響があり真っすぐには走れず片膝を着く。それがケラに隙と勇気を与えてしまった。

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ……! 」

 ケラは矢をつがえる。鏃には当たれば即死する猛毒を仕込んでいて掠めるだけでも危険である。先ほど矢を放たなかった時と違う。作戦も何もない、拳を交えた戦いもできない、ましてや逃げても追いつかれてしまうだろう。ケラに残された手段は一本だけある矢をシクロに打ち込むしかない。肺に入っている空気を極限まで抜き、的を絞り、弓を引いて矢を当てることだけに集中する。外した時のことは考えない。その証拠にその目には涙は失せて狩人のような眼光が宿っていた。

「っつおおおおおおおおおおおお! 」

 ケラはシクロから目を離さない。真正面から突撃してくる相手に矢はおろか攻撃を打ち込むなど本来の戦い方では絶対にしない。ほんの少し前までいた逃げ腰の魔獣はいない。生きて帰るために戦う戦士に変わっていた。


「…………!! 」

 矢を放つ。高さと角度が足りないため躱しにくい腹部目掛けて死の矢が回転を加えて真っすぐに飛んで行く。頭を狙いたいところだが矢の特性上狙わなくてもよい。

「ちぃっ!! 」

「まだだ、まだだ! 」

 シクロは躱した。だが毒で身体が追い付かずに体勢を崩して歩みが止まる。しかも躱した矢の軌道が上に逸れてシクロの頭上から矢が落ちて来る。シクロはそれを素早く察知して避けるが、避けても矢は何度でも追いかけて来る。

「“能力”か! 」

「僕はまだ諦めない! 音は僕の味方だ! 」

 ケラは矢が進むときに発する空気の音を利用して矢の軌道を変えている。音は空気の振動で伝わる物であることを利用して矢を加速させつつ強引に向きを変えているのだ。二転三転、矢が空を切る。目が霞んできたシクロには有効であるが、シクロはそれすら上回る。

「しつこい!! 」

「えっ!!? そんな!? 」

「見えなきゃ見なきゃいいのよ。弱点付いてきて悪くはないけどこのくらい楽勝ぅ! 」

 シクロはケラの矢を気配で探知し、掴んでそのまま地面に突き刺した。その動作は両生類が羽虫を捕えるように素早い。矢を失ったケラはまた恐怖に飲まれる。だが今度は自力で這い上がる。ケラは本当に最後の一撃を悪あがきのように、魔獣の雄叫びのように叫ぶ。


「喰らえ! シュートスタイル……」

「『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!! 』」

 ケラの口元から爆音が放たれる。高威力な風の魔術を放ったかのように地面が削れてシクロを襲う。避け切れないシクロは右耳が潰され、拳を握れない右腕にかまいたちのような切り傷を負う。不自然な向きに腕が曲がって右腕の感覚が少し無くなる。

「ぐぅううっ!! 」

 右耳がもう聞こえないかもしれない。腕が切断寸前かもしれない。でも見ている余裕はない。だからどうだというのだ。一発入れれば治療してもらえる。負けると分かっていても覚悟を決めて戦った男にはそれ相応の態度で戦わねばならない。だったら死力を尽くさねば格闘家の風上にも置けない。

 彼女なりの男性に対する考え方の一つである。普段女に飢えているシクロでも実力と度胸のある男には戦士として敬意を表する。この少年はまだ強くなる。もっと強くなれ。そういった敬意を込めた一撃が試合に終止符を打つ。

「SMASHEEEEEEEEEEEEEEER!! 」

 ケラの顔面にこれでもかと力の入った蹴りが空気を切り裂いて叩き込まれる。快音と共に吹き飛ばされるケラは音をうまく出すことができずに壁に叩きつけられる。シクロは蹴りを入れた時にケラの髪の隙間から何かが生えているような気がしたがそれを気にすることはない。

「…く、は…!! 」


 ケラは涙を堪えながらもベンチで応援してくれる仲間が目に入る。だがそれ以上に自分の作戦を真っ向から打ち破り、正々堂々と身体一つで戦い抜いたシクロが恰好よく見えた。自分が『師匠』と慕うフロウムよりも激しく泥臭い。それでいて自分が無くした強欲さと誇り高さを併せ持っているようで再びある人物を思い出しながら意識を失った。

『勝者、兵士見習い……いや、水の国の裏切り者、シクロ……! 』

 悔しそうなアナウンスが会場に響いてヤジが舞う。それでもシクロに軍配が上がった以上、これでフロウム陣営と雷帝丸陣営が並び、決闘の行く末は勇者たちに託された。



シクロさんが辛くも勝利を勝ち取ってくれました。ケラは一撃貰っただけでダウンしましたが、シクロは常人なら何回死んだかわかりません。というかなんであんな痛みに強いんですかね。今回の戦いでシクロさんのカッコいいところを書きたかったのですが、作者がナヨナヨしてるのでちゃんと書けたのかどうか……。

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