0章 とある者 ①始まりの書とかはないけど導入は必ずある
話をしよう。あれは36万…いや、1万4千年前だったか…まあいい。やっぱり良くない。この世界はそれよりも時間が経過しているのだから。
この物語をどこで見つけたのかは知らないが、活字が蔓延るこのご時世にこの物語を見てくれてありがとう。突然だがこれからある者を紹介したいのでいきなりだが0章から始まることになった。私はこの0章の①のみ語り手としてこの場に来た『神』とでも名乗っておこう。創造神とは少し違う気はするが気にするな。
私は実にテキトーでだらしない。そしてたぶんプロローグが始まったらもう出てこない。この姿で現れるのが本職なのだが物語の都合上仕方がないのだ。さて、これから紹介する男は地球の西暦2020~30年くらいから転生してきた男である。ちょうどテキトーな世界にテキトーな人間が欲しかっただけである。冗談だ。いろいろと条件を揃えたらこの男くらいしかいなかったのだ。物語が始まる前にその男と『神』のやり取りを聞いてほしい。
「……? 俺ってさっきまで何してたんだっけ? ここはどこ? 私は誰? ここはわからない、私は…名前が思い出せないけど名前でいじめられた覚えがうっすらある、髪もうっすらあったはず……。そうだ、名前は”運湖新人”! 名前からいじめられること確定なのに続けて読めば”クソニート”。無職童貞、職歴なしの前科一犯、万年いじめられっ子で布団でシコって寝てばかりの立派な自宅警備員。高校までは常にいじめられっ子で地域からも忌み嫌われた存在だったんだ。大学はかなり離れた県のFラン大学に通い始めたもののアルバイトは全く採用されないままで資金が尽きて親の仕送りも打ち切られていじめもなくならず退学を余儀なくされた! 年齢思い出せないけど30は超えてる。そのおかげで俺は掲示板や数々のオンラインゲーでアークウィザードとして崇め奉られていたんだ。ハンドルネームはサンダーボルト…は中高生の頃使っていたハンドルネームだ、だっさいヤツ。なんであの名前がカッコいいとか思っていたんだろ。で、高校を卒業してからはジャックスパーク、略して『JS』。決め台詞は『JSは最高だぜ! 』……はぁ」
出てきた途端の隙をついてキモオタ特有の超早口で自分語りをするこの男がその転生する男である。しかし肉体を失い魂だけでそれっぽい柔らかい光がふわふわ浮いている。
「頭の中に直接声が…? もしかしてニュータイプか!? 」
お前はまだ気が付かないのか? いや、それほどの男でしかないのであれば仕方がない。
「あ! そうだよ、俺エロゲを買いに行きたかったんだよ! 『ムラムラッ! 白熱ハーレム学園3~異世界から来た俺様無双!~』は今日がフラゲ日なんだよ! 異世界転生した主人公がハーレムを築き上げる異世界転生学園物のエロゲで、親の貯金から金を取ってきて各店舗ごとの特装版予約特典も付けてくれるから5本だけ予約して○―○―ズとか○フ○ップとかあちこち一件一件自分の脚で数年ぶりに出かけざるを得なかったんだよ! こんなことしてる場合じゃねぇ! 全部で消費税込みで9万8965円したんだぞ! 」
よせ、お前は死んだんだ。オタクの街に電車で着いたのは良かったものの、駅の入り口でたまたま通りがかった自販機の飲み物の補填をするトラックに轢かれて身体が車体に押し潰されメキメキバキバキとスクラップ。当然即死だ。
「何その異世界転生あるあるな死に方!? というか俺死んだの!!? じゃぁエロゲは!!? 」
出来るわけがないだろう。30超えて親の金を盗んで同じエロゲを買いに行くと…結構ひどい問題はあるがまぁいい、こっちにも都合があってこの男を選んだんだ。この男しかちょうどいいヤツがいなかったが、そんなお前に聞きたいことがある。そのエロゲのように異世界転生の物語は好きか?
「当然! 世の中クソ喰らえな人生送ってきたんだから一度くらい俺TUEEEEEしたいに決まってんだろ! 何が安全な国、生まれただけでヌルゲーな国日本だ! 金が無くなれば電気ガス水道は止まって家を追い出されて差し押さえをくらってホームレスになってしばらくしたら警察にタコ殴りにされて捕まって親に引き渡されて、それからニートのまんまだったんだ!! 転生物はもちろん数多のアニメやゲームにラノベの世界を何十年も練り歩いてきたし、黒歴史必至な設定集をいくつ作ったことか! 出来るもんならいくらでも異世界転生してやる!! 」
これだからキモオタは好きではない。が仕方ない、ではそんなお前に朗報だ。お前を転生させてやろう。俺TUEEEEEもできるポテンシャルを与えよう。
「マジで!? 異世界に転生してくれるなら当然俺は人間で無個性で何もしなくてもおにゃのこがひょいひょい寄ってきてハーレムも作れるよな!? 俺が遊べなかったエロゲみたいにできるよな!? 」
そ、そうだな、それが実現可能な力は与えてやろう。あとは転生先で好きにしろ。
「やりぃぃ! で、転生者は何か特別な力がもれなく貰えるんだろ!? 俺TUEEEEEできるってんならそんなもの当たり前だよなぁ!! 」
そうだな、お前にはこれから転生する世界について説明する。が厳密には異世界ではなく、はるか未来の地球だ。
「は? じゃぁ転生してもハイテク技術の無い俺じゃ俺TUEEEEできないじゃねーかふざけんなタヒね自称神の中二病のイキリ野郎が! てめぇの頭はハッ〇ーセットかよwwwwwwwwm9(^Д^)プギャーwwwwwwwwwwwwwwwww」
落ち着け童貞、はるか未来の地球は第三次大戦で人類がほとんど滅んだ後の世界でいわゆる中世的な世界観だ。お前のいた時代よりも文明は劣っている。だから厳密には異世界転生ではなくタイムスリップとか輪廻転生と言ったところだろうか?
「そうなの? この世界の未来はが○こちゃんみたいな未来なの? まぁそれはいいとして俺の新しい肉体もくれるし、実質異世界転生ってことでいいだろう? それなら俺でも行けるな、うん、ますます転生物っぽいし。んじゃ、ダメ押しの転生者特典といきますかぁ!! 」
ずいぶん図々しいがこのくらいでなければ困る。第三次大戦では核やお前らでは理解できないような大量殺戮兵器などがポンポン出てきて人間どころか生命が生きられる環境がほとんど無くなってしまった。残ったわずかな土地で生命が生活している。お前のいた時代より文明が衰退したのが未来の地球だ。そんな地球でも生き残った生命は独自の進化を遂げた。特に人間はあらゆる化学物質や放射線、その他有害物質、さらには新種のエネルギーなどの影響で『能力』と『魔力』を手に入れて進化したが、かつての文明が中途半端に伝わっているせいでお前の時代との認識の差や言葉や意味が変わったり混ざったりしている。
「まぁ文化とか言葉とかは時間が経ちすぎているからしょうがないとして『能力』と『魔力』って? 」
ゲームでいえば『能力』は固有スキル、お前の時代でいう特殊能力が一人一つ与えられているから全員が特殊能力者だと思え。それと『魔力』はゲームでいうMPに相当して魔術や錬金術、特殊な武術などに使用する。未来の地球ではそれらを活かしてあらゆる職業に就き、滅びかけの世界で平穏を保ちながら暮らしているのが人間だ。RPGゲームでよく出てくる勇者に魔王、格闘家に魔術師に盗賊などといった職業もあるからお前の時代でいうゲーム感覚で暮らしていけるだろう。
「えー……働いたら負けだと思ってんのに……」
ヴんん、『能力』と『魔力』の話に戻るが、どちらも個人差というか個体差が大きいが、そんなお前に転生者特典としてどんな『能力』でもお前の適正がある限りいくらでも付けてやろう。圧倒的な力を手に入れることができるぞ。元の肉体がスクラップになったから新たな肉体もおまけしてやろう。あ、注意点だが新しい身体になるから低確率でこれまでの魂に刻まれた記憶を失う、というより封印されることになるが問題ないだろう。母親となる者から生まれてくる可能性もあるから天才児として生まれてくる可能性もあるぞ。
「いえーい! さすがだな神様! 肉体は前と同じく人型として、『能力』ってのは転生先ではどんなものがあるんだ? 」
千差万別だが、常時発動するもの、条件が満たされると発動するもの、いわゆるチート系もあって誰も全種類を把握しきれていない。おふざけ…ユニークスキルのような能力だと『道端でコインをたまに拾える』能力だな、一日歩き続けても30ピア。時代が違いすぎるから単純に比較できないが、日本円で30円だ。余談だが各能力には個体別によって微妙に効果が異なるため正式な名称はない。
「チート級からユニークスキルもあるなんてさすが異世界転生! でも金のレートは日本円と同じなんだな、わかりやすくていいけど。ちなみに神様とやらのおすすめはなんだ? 」
転生者の場合、自身や魂との相性だったり新しい身体で使いこなせなかったりしないと意味がないが『能力』をはじめとする初期設定は、転生者の生前の生き様や未練、コンプレックスなどによってどのように転生するかが決定する。お前の人生を見ると……意外と適正が多いな、無職童貞だったせいもあって特に魔術系とゴミス…ユニーク系の適正が多い。しかし一つだけでは大して強くなれないポンコツ止まりの性能だ。転生した後で『能力』の足し引きは基本的にできないし、新しい身体やお前の魂との相性もあるだろうから慎重にな。実践では組み合わせて使うのが理想だろう。
「しれっと酷いこと聞いた気がしたのは気のせいだとして、新しい肉体と『能力』とかののテストプレイできないの? 」
できるが、あと10分くらいしか制限時間が無いぞ。転生者一人当たりの持ち時間は説明込みで15分くらいなんだ。
「早く言えよ! さっさとおすすめ能力教えやがれ!! 」
それではお前に一番合いそうな身体と『能力』だが……。
と、こんなことがあった。その後めんどくさくなった私と転生者は付けられる『能力』全てを雑に付けて、新しい身体を得て未来の地球に転生したわけだが、その後彼がどうなったのかはこのどうしようもない物語を読み続けてからのお楽しみだ。