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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第三章 陰謀のハイネ
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光は東方から

 『ロムレス帝国時代の予言を考察する上で考慮すべき点は、精霊宣託によるものとそれ以外の物を見極める必要がある事だ。この時代の精霊宣託は後世の様に精霊宣託における禁則事項の多くが未整備で多くの政治的な社会的な問題を引き起こし、その為・・・』


ふと本を読む手をアゼルは休めた、窓から薄曇りの穏やかな陽射しが差し込む、普段より二時間ほど遅く起き出したベルは部屋のテーブルの上でまた気持ちよさげに寝息を立て、ルディガーはベッドの上で寛いでいる。

アゼルにとってハイネに来てから初めての安らかな一時(ヒトトキ)だった、ベッドに寝転びながら更に先を読み進める。



ロムレス帝国時代の予言で一番知られているのは『精霊王の滅びの予言』と言われるもので、当代の大精霊宣託師が受けたロムレス帝国の滅亡を予告する精霊宣託だ。

約二千年前に建国され四百年に渡り繁栄した大帝国の統治にも翳りが見え始た帝国末期の事だ、東方や北方からの蛮族の侵略に晒され揺らぎ始めていた帝国に衝撃をもたらした大事件である。

その精霊宣託による混乱の反省から禁則事項の元になる規則が生まれた、これは魔術師が学ぶべき必須の知識だ。

多神教で他宗教に寛容だった帝国が精霊信仰や精霊宣託師に対する感情を大きく悪化させた事件としても名高い。

だがこれは遥か昔に成就(ジョウジュ)した予言でエルニア公国と関係があるとは思えない。


もうひとつはロムレス帝国の遥か西方海上に幻の大陸が存在すると言う予言だ、実際にナサティアにはエスタニア大陸以外に大陸があるはずだと言われており、今に至るまでなんども調査が試みられたが成功していない。

その未知の西方海上の大陸から人の先祖はやってきたと言う伝説があるのだ。

その大陸は西方三千海里の場所にありエスタニア大陸と同じ程の広さがあり高度な文明が存在するのだと、だがこの予言は精霊宣託とは無関係と言われている。


精霊宣託を行った者の記録がなく、自然発生した噂や伝説の類と見なされている。

この夢溢れる西方大陸は吟遊詩人や物語の題材に数え切れない程取り上げられ、時に西方大陸の難破船から出た宝物や奇怪な生物などが世間を騒がす事があるがすべて詐欺だった。

そしてこれらがエスタニア大陸の東の端のエルニア公国と直接関係があるとも思えない。


もう一つ広く知られている予言としては『人の世の終わりの予言』と言われるものだ、だがこの予言も精霊宣託とは無関係ではないかと言われる、精霊宣託を行った者の記録がなく、世紀末的な不安の中から生まれた伝説と見なされている。

また扱う対象が人の滅びに関するもので対象が大きすぎる事が精霊宣託と無関係とされる理由だ。

だがこの予言に言及した記録が多いため今だに研究が進められている。

予言では帝国は十ニ回生まれ十ニ回滅びる、その最期の帝国は暗黒の恐怖の帝国でそれが滅びる時に人もまた滅びると言う不気味なものだ。

帝国に数字を付ける慣習が生まれたのはこの予言の影響と言われている、これは一般教養として学ぶべき知識だった。


ふとアゼルはセクサルド帝国が第六帝国と呼ばれていた事を思いだす。

アゼルはこの『人の世の終わりの予言』に注視する事にした、エルニア公国や大公妃の精霊宣託と関係があるのかわからないが、調べて見る価値がありそうだと感じたのだ。

この予言に関する参考文献のリストがこの本に記述されている。


ロムレス帝国時代の予言で大山脈の東側に関わる予言はかなり限定される、当時は大山脈の東側は未開な世界として関心が薄かったのだ。

だが帝国末期になると恐ろしい蛮族の軍団が攻め寄せて来る滅びの元凶として触れる予言が増えていく、結局ロムレス帝国を滅ぼしたのは内部からの崩壊だったが。


それらの東方世界に関わる予言の中でも一番有名なのが『精霊王の聖地発見の予言』であり、文明の光が東方を照らし降ろす時、精霊王の聖地を見出すであろうと言う予言であり、アルムトオーダーの発見についての予言ではないかと書には記されている。

共にこの精霊王の聖地発見の予言に関しては精霊宣託の可能性が指摘されている。


ロムレス帝国はパルティア十二神教圏の帝国であり帝国では精霊信仰は少数派だった、この予言はロムレス帝国では重視されてはいなかったのだ。

だが今日大陸の東側ではこの予言は重く受け止められている、聖霊教では極めて重大な予言として教義の核心にかかわる予言なのだ。



以上の四つの予言がもっとも知られたものだろう、アゼルは学生時代に習った歴史の知識を反芻(ハンスウ)した。


魔術師は精霊術を基礎にした魔術が爆発的に発展したニール神皇国時代以降を中心に学ぶ事が多く、関心もそれに偏る傾向があった。

ニール神皇国はロムレス帝国滅亡後の三百年後に、大陸東方から勃興した国家として初めて巨大帝国を築き上げ第三帝国とも呼ばれる。

ちなみにロムレス帝国は第ニ帝国とも呼ばれる。


ロムレス帝国末期からニール神皇国が建国されるまでの三百年近くは暗黒時代と呼ばれるが、人々が大陸を分断する大山脈を越え東に拡散した時代でもあり、蛮族と呼ばれた現地人と混じり合い文明圏が拡大した時代でもある。

ニール神皇国時代は現在の聖域アルムトオーダーを帝国の東の端としており、現在のセクサルド王国、アルムト帝国からテレーゼ王国を含んだ大陸の東側の広大な地域が未開拓の原野であった。

建国から五十年で全盛期を迎えたが全盛期は僅か五十年たらずで終わる、そして山脈の西側の帝国領を総て失い、山脈から聖域アルムトオーダーまでの領土に縮小してしまう。

だがそれでも大国である事は変わらず独自の文化を育てその後約百五十年に渡り東方世界の中心であり続けた。

その後衰退をたどるが今も聖域アルムトオーダーにニール神皇国として名を残している。


更にアゼルは読み進めるが、ロムレス帝国時代の予言や精霊宣託の数の多さに呆れ果てる事になった。

さすが四百年に渡り存在した大帝国らしく、一般に知られる予言は少ないが諺や名言の元になっている予言も多く、余裕があれば総て調べてみたい誘惑にかられる。


だがエルニアに関わりの有りそうな予言どころか大山脈の東側に関わる予言自体が少ないのだ、予想していたが予想以上に少なかった。

予言のほとんどはロムレス帝国に関するものと、パルティア十二神教に関わる予言が圧倒的に多く、存在しても『精霊王の聖地発見の予言』に関わるものばかりだ。


それでも数少ない予言として注意を引くものが見つかる。


『滅びの始まりを告げる予言』

いつか世界の東の端が見つかるがそれが滅びの刻の始まりと書かれている。

これはエルニアの東にある希望の岬の事だろうか?それとも東方絶海の彼方にある未知の大陸の事なのかはわからなかった、これが初めて見つかったエルニアに関わり合いがありそうな予言だった。


もう一つは遥か未来に東方から光が現れ大陸を初めて一つに束ね、青い月が千と百巡する間に渡り支配し平和と繁栄をもたらすと言う予言だった。

『光は東方から』

それがその予言の題名だった。


青い月は約三月で天を巡る千と百巡と言うことは約280年に渡る期間と言うことになる。

これは時代も具体的な場所も語られない曖昧な予言だが、珍しい大陸統一が語られた予言として記録に残されたと記述されている。

ロムレス帝国時代は大山脈の西側が世界の総てで、エスタニア大陸の全貌すら掴んでいなかったのだ、大陸統一などと言う夢自体成り立たなかった。


この書籍にはこれらの予言に関する参考文献のリストがきめ細かく記述されている。


アゼルはこれらの資料を少しずつ調べようと改めて決意する。



「そろそろ昼が近い、そろそろ出ようかいろいろ確認したい事がある」

ルディがベッドからもっそりと起き上がった、そしてテーブルの上で気持ちよさそうに寝ているベルの頭を軽く手の平で叩いた。


「そうですね防護魔術の準備をしますか」


アゼルは本を畳むとベッドの上に置きそして立ち上がった。






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