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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第三章 陰謀のハイネ
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ハイネの製鉄所と魔術装置

 三人は悪名高き新人募集部隊(ハカアラシ)の犯行現場を始めて目撃していた。


「くそ、これから二人埋葬しなきゃならねのにクソが!!」

墓地管理人の男がいまいましそうに吐き捨てた。


「誰かが亡くなったのか?」

その男は声をかけたルディを振り返り怒りを押さえた声で応える。

「犯罪奴隷が昨晩二人死んだらしい」

「そうか・・・」

ルディは哀れな奴隷を心の中で悼んだ。


「今から墓掘り人夫が何人か来て墓を掘るんだよ」

「ねえ、せっかく埋めてもまた荒らされない?」

長い黒髪の美しい少女が急に話しかけてきたので墓地の管理人は戸惑った、このあたりでは黒い髪は珍しいのだ。


「さあな、なぜか夜に見張りを立てても気づいた時には荒らされているんだよ、おかげで悪霊や悪魔の仕業と言う奴が増えてな、だが見れば判るが道具を使って掘り返していやがる」

「たしかに、(クワ)の様な物で掘り返した跡があるな」

掘り返された墓穴を調べていたルディがその管理人の分析に賛同した。


「な?そうだろ?俺みてえに無学な奴でも魔術師が絡んでいる事ぐらい見当がつく」

「魔術師のせいで気づかない内に掘り返されていると言うわけか?」

「そういうこったな」


アゼルはその間も一人で魔術の痕跡を探し続けていた。


その時墓地の入口がざわめき数人の墓掘り人夫達がやってくる。

ベルはハイネの評議会から出されていると言う火葬令に付いて墓地の管理人に聞いて見ることにした。

「ねえ火葬にしないの?」


「けっ!理屈はわからんでも無いが燃料代がな、結局埋めるしかねえんだよ」


そこに墓掘り人夫達が管理人の側までやって来た、人夫達は見慣れぬ三人にあからさまに好奇の目を注いでいたが、荒らされた墓を見た人夫達がお互いに何事かささやきあっている。

そしていたずら心からベルに手を出した男がベルに軽く手を打たれて悲鳴を上げた。

「イテテ、このアマ!」


「てめえら何やってる!!」

墓地管理人が一喝してからルディ達に向き直った。

「さあ、あんたらも仕事の邪魔だ、そろそろ何処かにいってくれ悪いな」

「俺達の方こそ仕事の邪魔をした色々とありがとう」



三人は墓地を後にして林の中の道を露天掘り炭鉱に向って戻っていった。

「殿下、現場を見る事は大切ですね」

アゼルは歩きながら拾い集めた数種類の使用済み触媒を調べていた。


「何かわかるか?」

「無属性の隠蔽魔術に似た触媒の構成ですね、だがそれとも違います、始めて見るものです」

「それで?」

そのベルの突っ込みにアゼルは少し眉を潜める。


「私の推理ですが、性質上後を残さない触媒もあるので断言できませんが、死霊術の隠蔽魔術の可能性がありますね」

「魔術とはそういう物なのか?」

「属性が違っても基本的な術式や触媒の構成には共通項があるからです」

「なるほどな」


「ねえ、あの新しい墓を今晩あたりに見張れば墓荒らしが来るかも?」

ベルが会話に割り込んできた。

「俺もそれは考えていた」

「それに僕達を尾行している奴も釣り出せる」

「二兎を追うのはおすすめしませんねベルサーレ嬢」

「どちらかと言うとそいつの尾行を優先したいかな?コッキーの居場所を突き止めたいし」


三人は露天掘り炭鉱の近くまで戻ってきていた、そこから北東の方角にいくつもの煙が立ち昇っている。

「二兎を追うと言っても、もともと死霊術の闇を晴らすことがアマリアへ至る道と女神はおっしゃっていたのだ」

「殿下、それが私達の本来の目的でしたね」

「ルディ!!コッキーを見捨てる気なの!?」

そのベルの口調は怒りを帯びていた。


「見捨てるつもりはない、だが魔剣やコッキーの手がかりが無い、尾行であっても向こうから接触して来てくれる事だけが頼りなのだ」

ルディは一見すると淡々として冷静だった、だがその心中は外からは伺い知れなかった。


「あいつらの正体や目的が良くわからないんだ、あいつら何考えているんだろう?」

ベルがイラツキを隠さずに吐き捨てた。


「そうですね魔剣を手に入れたのに、ハイネをうろついている理由は何でしょう?」

「ハイネで魔剣を処分するつもりとか?」

「このテレーゼで良い価格で処分できますかね?」

三人は敵の意図が読めず虚しく憶測を重ねる事しかできなかった。



「今思えばコッキーが時々変になるのを見逃していた」

ベルが言うコッキーの異変とは彼女が毎晩の様に悪夢にうなされていた事を指しているのだろう。

「後から考えると気が付くような僅かな異常だぞ、あの時点で何かできたとは思えん、コッキーと出会って数日しかたっていない」

「そうだけど・・・幽界に行ってきて仲間だと思っていた、でもコッキーの事で知らない事の方が多かったんだね」



「彼らは、いや敵は私達が知らない方法で人を操る方法を知っているようです」

アゼルが誰ともなく呟く。


その間にも三人は徐々に製鉄所に近づいていた、製鉄所全体は木の柵で取り囲まれ、その中に高さ数メートルほどの小さな溶鉱炉が幾つも並び煙を盛大に吐き出していた。

溶鉱炉の付近では巨大なフイゴを動かすため、人夫達が回転する棒の横木を掴んでその周りを果てしなく周っていた、その力を伝達された機構がフイゴを動かしている。


「エルニアにも製鉄所があるけど、水車でフイゴを動かしていたよ・・・」

ベルは少し呆れ気味に僅かな同情をにじませた。


その敷地の端に立てられた見慣れぬ巨大な装置が視界に入ってくる。

「なんだあれは?」

誰ともなく言葉が洩れる。


それは奇妙な石組みの細長い大きな建造物だ、高さ三メートル幅十五メートルはあるだろうか、奥行きはここからではわからない。

その建物の平らな屋根に小さな煙突が等間隔に幾つか並び立ちそこから炎が吹き出している。


「溶鉱炉には見えませんが、なぜか精霊力を感じますね、以前聞いたことがありますハイネに石炭を加工する魔術を利用した装置が有ると」

「アゼルよあれが魔術道具なのか?」

「まさかここまで大きな物だとは・・・」


その時、近くを通りがかった中年の婦人がルディとアゼルを惚れ惚れと見上げながら教えてくれた。

「兄さん達、あれは石炭を蒸しているらしいよ」

「石炭を蒸すだと?」

「良くわからないけど、木炭の代わりになる良い燃料になるそうだよ」

「誰がそんな事を考えたのだ?」


「精霊魔女のアマリア様って言い伝えられているわよ?貴方たち知らなかったのかい?森の木を切らずに済むようにってさ」

「なるほど!!」

アゼルが大きな声で叫んだ、木炭を燃料にしているかぎり膨大な森林資源が必要になるからだ、石炭が製鉄に使えるならその方が都合が良い。


「あれ全体が魔術道具ではありませんね、ですが装置に魔術がいろいろな形で使われていると思います、ここからでも土精霊により炉が補強されているのを感じる事ができますよ」


「あのような巨大な魔術装置が有るとはな」

ルディはその大きな建造物を見ながら感嘆した。


「しかしどうやって効果を維持しているのか不思議です、余裕があったら研究したいものですね」

「でも凄いのはあれだけだよね、他はエルニアにもあるでしょ」

エルニア贔屓のベルは製鉄所を眺めながら身も蓋もなくそう評した。




三人は製鉄所の脇を通り過ぎ炭鉱街に戻る道を進んで行く、先頭にルディとアゼルが進み後ろからべルが続いていく。


「ベル追跡者がいるかわかるか?」

ベルは冷たい目で後ろを振り返ったルディを睨んだ。


「俺もお前のように探知力を高めていく、だが今はお前だけが頼りだ」

お前だけが頼りだの一言が嬉しかったのかベルの表情があからさまに柔かくなった。


「今のところは居ないと思う、でも僕の探知力にも限界があるんだ」

「そうか、奴らは俺たちを本当に見失っているのか?」

ルディは後ろを眺めながら呟いた、徐々に日が傾き日没も近い空を背景に製鉄所の煙が黒ぐろと立ち昇っていた。


「私は魔術街で本を買って帰りたいと思います、覚えておいでですか?ロムレス帝国時代の古き予言を知るが良いと言う女神の言葉を」

ルディはゲーラに降臨したテレーゼの土地女神の最後の言葉を思い出していた。

「覚えているぞ、ロムレス帝国の古き予言に関する本を調べるのか?」

「本は総て手放してしまいましたからね、いろいろあって買う暇がなかったのですよ」


三人は炭鉱町の雑踏の中をかいくぐりながらハイネの旧市街の西門を目指していた。

「ルディはアゼルと一緒に行って、僕は一度外れてから二人を見張る、尾行している奴がいたらそいつを見つけてやる、それでどう?」


「わかったそれで行こう」






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