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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第三章 陰謀のハイネ
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闇の魔術組合『死靈のダンス』

 野次馬の人波から脱出した三人は市場を横断し女魔術師達が歩き去ったと言う北の通へ向かった。

「さて、この周辺の宿屋を虱潰(シラミツブ)しにしながら北に向かおう」

「ええ!?全部探すの!?」

ベルが呆れながら抗議した。


「奴らがハイネにコネがないならコッキーをどこかの宿屋に閉じ込めているかもしれん」

「魔術師ならば防護の結界を張れますからね、防護の結界が張っている場合はそれを認識できますよ」

「でもあれはかなり近くに行かないとわからないよ」


「何か怪しい宿屋があったら無理をせずに他の者に報告するように」

「殿下、ならば落ち合う場所や時間を決めて手分けして探しましょうか?」

「そうだな一時間毎に場所を変えながら進めよう、そこで怪しい宿屋があったら報告しようか、アゼルあれを頼む」


アゼルが懐から小さな青い石を三個取り出す、怪訝そうな顔をするベルに得意げに解説を始めた。

「これは魔術道具ですよ、今から一時間後に色が消えます」

その小石をルディと驚き顔のベルに手渡した。


『キッ!?』

エリザが青い小石に興味を示した様だ。


市場の客が三人を胡乱な目で眺めながら通り過ぎていくが、この三人はこの新市街では目立ち過ぎるようだ。


「そうだルディ誰か尾行している奴がいるか解かる?」

「俺にはわからんな」

「居ないのか、いるけど上手く隠れているのか僕にもわからない」

「尾行は複数の人間で行うものです、尾行する者が一名だけなら総てに手が回らないはずです」

ベルがアゼルのその意見に頷いた。


三人は広場から炭鉱街の総ての宿屋を虱潰(シラミツブ)しにして行く脳筋なやり方で捜査を進める事にしたのだ、だが馬鹿にするなかれこの方法は決して侮れない。

特に高い身体能力を誇る二人にとって足で稼ぐ仕事はもっとも得意なやり方だった。


「では始めるか一時間後にあの大きな建物の側で会おう」

ルディは遥か北にある三階建ての一際目立つ建物を指さす。


三人は周辺の宿屋を総当りに(アライ)始めた、コッキーの容姿や女魔術師の特徴から宿泊客を絞り込んで行くのだ。

あまり豊かではない新市街には宿屋の数もそう多くはなかった、新市街の外周を取り囲む大通りと炭鉱街の周辺が特に賑わっていたが、宿屋もその地域に集中していた。


そしてやはりそんな三人を慎重に尾行していた男がいた、それはテオであったが、三人が何をしようとしているか直ぐに気が付く、そして危機を感じた彼もまた動き始める。











闇の魔術組合の地下広間に老魔術師の言葉が響く、それは妙に耳障りな甲高い声だ。

「だいたいお前たちに何ができるのかは判った」



「ねえ、ところでここの組合の名前は何かしら?」

テヘペロの声が響いて場が一瞬静まり返った。


老魔術師が下らないことを聞くなと言った顔で面倒臭げに応じる。

「あ!?そんな事に興味があるのか?組合で通っておるわ、おいリズ正式な名前を知っているか?」


三十代半ば程の女魔術師が急に質問を投げられて驚いた、作業の手を再び休めて顔を上げた。

彼女は細面のやつれ気味で髪を後ろで束ね垂らしている、丸い金属縁のモノクルを左目にかけていた。


「たしか『死霊のダンス』だわ、誰も使わないけど」

「思いだしたぞ!!二度と使うものかと決意して記憶から抹殺しておったわい!!もう随分昔の事だな」

老魔術師はどこか遠い目をしている。


「ほんと酷い名前だわね」

明け透けにテヘペロが評した。


そのリズと呼ばれた女魔術師がテヘペロを敵意のこもった目で睨みつける、自分でもおかしな名前だと思っていても新入りには言われたく無いのだろう。

だがテヘペロは同性から敵意や侮蔑を向けられるのは慣れていたので鼻で笑いやり返した、リズの表情が更に厳しくなる。

もう一人のリズの同僚の男の魔術師はテヘペロの全身を視線で舐め回していた、内心鼻で笑いながらもテヘペロは微妙に姿勢を変える、これは彼女の武器が強調される姿勢なのを良く理解していた。

リズの顔は憎悪を感じさせるまで歪んだ、テヘペロは僅か数秒で不倶戴天の敵をまた一人作ることに成功していた。


老魔術師はそれをせせら笑いながら眺めていたが。

「ところでお前の名前はなんと言う?」


「テヘペロ=パンナコッタと言うの、素敵な魔女よよろしくね」

「うむ、お前も大概じゃな」

「アハハ余計なおせわよ」


「そちらの錬金術師は名をなんと言う?」

「私はピッポ=バナージですぞ、罪を問われ総てを奪われてここまで流れて来ましたのです、イヒヒ」

老魔術師はピッポの態度に僅かな苛立ちを感じた様に見える、彼は神経質な男のようだ、それを察したのかピッポは言葉を続ける。


「奪われた研究を完成させるのが私の人生の夢なのです」

神妙な態度で語るがそれが更に不快感を増長させただけだった。


「そちらは仲介人だったな、店主と懇意なようだが」

店主とはインチキ魔術道具屋の『精霊王の息吹』の店主の男の事だ。

「俺はマティアス=エロー、店主とはラーゼのその筋の仕事で知り会いになった、この二人は仕事で縁があったので頼まれたから紹介したんだ」


「さて儂の名前はベドジフ=メトジェイじゃここの長をやっている、テレーゼで魔術師を排出した一族の出でなこれでも上位魔術師だ」


それに続いて男の魔術師が自己紹介をした。

「俺はオットー=バラークだ魔術師で死霊術に携わっている」

だがオットーはテヘペロに時々意味ありげな視線を向けてくるが、彼女はどこ吹く風と受け流している。

そんなオットーに冷たい視線を投げつけながらリズが三人に向って自己紹介を始める。

「私はリズ、リズ=テイラーよここで死霊術の研究を進めているわ」



「私達はここに詰めるつもりは無いわ、ピッポの触媒や薬が必要なら店主を挟んで話を進めてね」

「そんな事は判っている、ここでは薬の調合や触媒の加工ができるのでここで委託した仕事をしてもらう事になる、錬金術の専門家は貴重だからな」

老魔術師が僅かに苛立ちを込めた声でテヘペロに答えた。


「かなり珍しい素材も揃っているようで、ちょっとした研究所ですな懐かしいですぞ・・・」

テヘペロはピッポのその言葉から珍しく彼の本音を感じる事が出来た。


「私は火精霊の術師だから荒事向きなのよね、それなりに魔術の戦闘経験はあるわよ?」

「この街ならいくらでも新しい荒事が生まれてくるから心配するな」

老魔術師は何処か総てを嘲るようにせせら嗤った。


「あんたは魔術で人を殺した事はあるのか?」

しばらく何かを思い出すかのようにテヘペロは沈黙した。


「ええ、あるわよ色々とね」









ピッポ、テヘペロ、マティアスの三人は再び店主の案内を受け、地下組合から炭鉱町の魔術街に戻ってきていた。

「地下は窮屈でいやよ、火の精霊術が使いにくいのよ自滅しかねないし」

「たしかにそうですな、キッヒヒ」


周囲の店には如何わしい商売と思われる女達が入って行く、占いや予言を買うためにこの魔術街にやってくるのだ、中には良からぬ薬に手を出す者もいると言う。

それをテヘペロが無感動に見送っていた。


そこにマティアスが突然警告を発する。

「あれはテオじゃないか?まさか奴らが近くにいるのか?」

「なんですと!!」


三人がどこか適当な店にでも駆け込もうとしたところでテオが三人に気がついた。

「走ってこっちに来るわ、何かあったわね」


「皆んなやはりここにいたのか!!」

「テオさんどうしましたかな?」


急いでいたのかテオは息を切らせていた。

「奴らが南の市場あたりから、宿屋を虱潰(シラミツブ)しに調べながらこっちに向って来る、あの小娘とテヘペロらしい魔術師を宿屋で探していたぜ」

「なんですと!!」

「どうやってここを嗅ぎつけたのかしら?」

「テヘペロよ昨日誰かに見られていたのではないか?」

テオは昨日の戦いを思い出しながらテヘペロに問いかけた。


「そうね、私達があそこからこちらに向かった事さえわかれば虱潰(シラミツブ)しに調べられるか」

「奴らは諦めて居なかったのですな、普通は我々がハイネにいるとは思わないですぞ?」

「あの剣に特別なこだわりがあるのか?」

マティアスが呟いた。


「とにかく小娘を取りあえず移そうぜ」

「そうですなマティアスさん、奴らと今ぶつかったら勝ち筋はありませんぞ」

「マティアスさんどこか心当たりはありませんかな?」

「宿屋ではないが金を払えば宿を得られる場所がある、だが客筋は悪いぞ安くもない、あそこなら使えるかもしれん」


「とにかく今は一刻も早く動かさないと、とにかく急ぎましょう、私の荷物とかいろいろ置いてあるのよ!!」

珍しくテヘペロが慌てている、それにピッポとテオは密かに驚いていた。








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