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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第三章 陰謀のハイネ
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闇の魔術組合

 ハイネの炭鉱街の繁華街に魔術道具屋が数件集まっている一角があった。

精霊宣託を利用したインチキ占いや、妖しい薬草などを商う店がほとんどだった、訳ありの下位魔術師やそれ以下の者達がそこで日々の糧を稼いでいる。

それ以下とは下位魔術師ですら無い詐欺師達でこちらの方が圧倒的に多い、精霊宣託を商売にする者も多いが詐欺師がほとんどを占めていた。


もっとも本物の精霊宣託でも下位の精霊宣託はほとんど使いものにならないらしい、アゼルも下位の精霊宣託師でもあるが利用した事などめったに無かった。

だいたい本物の魔術師ならば何かしら後ろ暗い処があっても裏世界でそれなりに大きな仕事に有りつける。



そんな朝の繁華街を歩く三人の男女がいる。

「マティアスさん、本当に助かりましたぞ、私達だけではハイネにコネがありませんからな」

そうは言うもののピッポの外見は胡散臭い事極まりなかった、有り大抵に言ってこの街にふさわしい詐欺師にしか見えなかった。

だがこう見えてもピッポは心の底から感謝していた。


「余生を木を切る末路から解放されたんだ、それに大きな仕事に有りつけそうだ、このぐらいどうって事は無いさ、あとなコネといってもラーゼとハイネの近くにしかない」

「それで十分ですぞ、テヘペロさんも目の付けどころがよろしいですな、イヒヒ」

「なあに?まあ運が良かっただけだわね、他は使い物になりそうになかったし」


マティアスはピッポを振り返った。


「本当にこんな事で奴らを封じ込められるのかい?俺は魔術の事はわからん」

「それができなかったら、あの小娘を人質にしたぐらいでは二人に手が出せませんぞ?まだ理屈だけですが手応えはあるつもりでして」

「なるほどな」


「私の昔の研究仲間が狂戦士の治療方法を研究しておりましてな、成果が出る前に私は追放されてしまってその結果を知る事は出来ませんでしたが、それを利用できるのではと思いましてな」

「狂戦士と言えばあのエッベか!?」

「その治療方法に必要な素材がここで手に入る可能性が高いのです、テレーゼは死霊術の楽園ですからな、イヒヒ」

三人はいよいよ新市街の魔術街に入りつつあった。


「ねえピッポあいつら何の目的でハイネに来たのかしら?」

「それは商売で、ああ!!奴らは途中から商人に化けたのでしたな、私とした事が重要な事を見落としていましたぞ!!」

「最初はたしか変な術者と女猟師だったわよね、商売の為に来たと言うのも怪しいわね」

「お恥ずかしい、魔剣や奴らの力の探求に目が眩んで見落としていました、コステロ商会に接近しているのも商売目当てとばかり」


「あいつらの目的が分からないけど、コステロファミリーに商売以外の目的で接近している可能性もあるのよね」

「昨日の会議の前に気が付いていれば」

「あたしも魔剣に浮かれていたわね、あんな大きな精霊変性物質の武器を見たのは初めてよ」

「精霊変性物質?」

マティアスが疑問を浮かべかけたが、すぐに何かに気がついた様に変わる。


「おっと行き過ぎるところだったぜ、ここだ!!」


マティアスは一軒のしょぼくれた魔術道具屋の前で立ち止まっていた。

店の造りからして程度の低さを感じさせる、店の前には堂々と占いや精力剤や惚れ薬や毛生え薬の宣伝の看板を出していた。

また店の名前からして『精霊王の息吹』と言う大げさな名前だった。


ピッポは自分の禿げ頭を叩きながら笑った。

「そんな薬が開発できるぐらいならこんな所で店など開いていませんぞ、イヒヒッ」

「キャハハ、ほんとよねー」

「お二人さんついてきてくれ、打ち合わせ通りで」


マティアスが店の扉を開き中に入っていく、ピッポとテヘペロが後に続いて中に入りさっそく店の品定めを始めた、専門家は陳列された商品の内容から魔術道具屋の程度を推し量る事ができる。


テヘペロは商品棚の触媒に目を走らせると全て見せる為の商品だと見破った、ここには本物の術者は来ないと。

触媒の需要と供給関係がおかしく値段も適当だった、特に生物由来の触媒のように繊細な扱いが必要な触媒の管理がなっていなかった。

ピッポとテヘペロはマティアスの後ろで顔を見合わせこれはダメだと言った仕草をする。


その店のカウンターには一人の壮年の男がいたが、マティアスを見ると僅かに表情を動かした。

「あんたか?久しぶりだな今日は何の様だ?」

「仕事が欲しいんだ、紹介を頼まれてな」


マティアスは狭い店内の壁際に寄った、男はマティアスの後ろにいたピッポとテヘペロに注意を向けた。


「また訳あり物件かい?」

「この女は本物の魔術師だ」

「本物なのか?ああ事情は聞かない約束だが、アンタが本物なのか見せてくれ」

「いいけどさ、こんな所で使える術よね」

テヘペロが迷うのも一瞬だった。

「これでどうかしら?『陽炎の隔壁』」

狭い店内が突然炎に飲み込まれた。


「ウワァアアアア!!」

男は大きな声で絶叫しただが熱も苦痛もない。

「そうか陽炎の隔壁か!?あんたは本物だよ、だからこれを消してくれ!!」

その直後に幻影の炎は消え去る。


ハイネにも古くから後ろ暗い仕事を請け負う闇の魔術組合が存在していた、そういった世界は既に旧市街の裏世界が抑えている、密偵などが絶えず潜入しようと狙っていて新入りが簡単に飛び込める世界ではなかった。

だが新市街の闇の魔術組合ならば緩く門戸が広げられていた、その替わりに信用も質も落ちる事になる。

「私は下位魔術師なのよ炎の精霊術が得意なの」

「わかった信じよう」


「でそちらの御方は?」

男はピッポに視線を移した。


「儂は錬金術師ですぞ」

男の顔がまた胡散臭いのが出てきたなと語っている、だがそれはピッポには慣れ親しんだ反応だった。

「彼は精霊召喚術の研究家なの、あとね大きな声では言えないけど死霊術も研究していたのよ」

男の態度が豹変した。


「いろいろ訳ありですな」

「ええとても大変な目にあいましたよ、キヒヒ」

その大変がどれ程のものか男には解っていた、死霊術の楽園とも言われるテレーゼに流れてくる術士は多い、実験も実践もやりたい放題なのだから。

ピッポは懐からメダルを取り出した、それは錬金術師の身分を証明する物だった、とはいえ偽造する輩も多いので有名だが。


彼らはここまで敢えてお互いに名乗らなかった、それがここの流儀とマティアスから聞かされていた。

正式に契約関係が結ばれてから名乗る事になるらしい、もっとも他国に有名であれ悪名であれ名が轟いている様な者には縁のない場所だったが。


「わかったあんたらを案内しよう、使える本物の術士が足りないんだ、死霊術に詳しい奴ならなおさらでね」


男は閉店の看板を出すと三人を店の奥に導く、そこには階段がありそこから階段を地下に降りる。

テヘペロは地下に何かあると思ったが、地下の物置の棚をずらすとその後ろにまた扉が現れたのだ。

その奥は真っ暗な通路になっているそこには灯りはまったくない。


「おい地下通路があったのかよ!!」

これはマティアスすら知らなかった様だ。


「たいした物ではない、地下室同士を繋いだだけだ」

「なるほどねー」

テヘペロが感心したように奥を覗き込む。


ランタンの灯りが通路の奥を照らすと通路は確かに短かった、すぐ奥に扉が見えるのだ。

男は三人を先導して向こう側の扉の前に進み扉を叩いて合図を送る。

やがてのぞき窓が開くと中の灯りが通路に漏れ出す、男は中の誰かと話を始めたが小声な上に隠語が多くて三人には内容が良く理解できなかった。


「大丈夫だ中に入れる」


中に入るとそこはかなり広い部屋で倉庫を改装した様な部屋だった、その部屋には扉が更に二箇所あり右手側に上に昇る階段がある。

そして部屋はランプでもロウソクでもない奇妙な薄暗いオレンジ色の光で照らされていた、マティアスはその幻想的な灯りに見惚れていた。

「マティアスさん、あれは魔法道具の灯りですぞ」

ピッポが(ササ)いた。


その魔法の灯りで照らされた部屋の中に魔術師らしき風体の男が二人と女性の魔術師が一人いた。

ドアの脇には大柄な用心棒らしき男がいる、この男がのぞき窓から応対していたのだろう。


その魔術師の一人は初老の男で書籍が山積みになった大きな机の前に座り書類と格闘していた様だったが、ピッポ達がやって来た入口を眺め来訪者を興味深げに観察していた。


残りの二人は長い会食用のテーブルの上で何かの作業に取り組んでいたようだが、ピッポ達には何をしているのか詳しい事はわからない、その二人も手を休めて入口を注視している。

その中の初老の男がこの場の責任者に見えた。


「儂はここの頭をやっているものだ、お前たちの望みはなんだ?」


マティアスがまず最初に口を開いた。

「俺は仲介者だ、この二人を連れてきた一人は本物の魔術師でもう一人は錬金術師だ」


「ふん、使いものにならない奴は初めからここには来れぬ、お前達には何ができるのだ?」

初老の魔術師が尊大に応じた。


「私は炎の精霊術が専門よいろいろあって仕事を探しているの」

「どいつもこいつも同じことをみな言いよるわい」

その初老の魔術師は冷笑的に返した、テヘペロの表情が不快そうに歪んだ。


次はピッポの番だった。

「私は錬金術師でして、まあ有り大抵に言いますと死霊術の研究の為にテレーゼに来ました、研究ならばここが一番の環境でして、あと儲けられる複合触媒や薬物の生成などもできますぞ」


「ほう、死霊術の研究の為にここに来るやからは多いが錬金術師はめずらしい」

「私は死霊術師が使う使用済みの触媒を研究しておりまして、その触媒の変化から死霊術の本質を追及しておるのです」

「なるほど錬金術師ならではだな、ここならば研究しやすいだろうて、しかし使用済みの触媒などゴミでしかないとは言え、お前の為にわざわざそれを集めてやる程に我らは暇ではないぞ?」


「私は複合触媒や薬物の生成などいろいろお役に立てますぞ?使用済み触媒を私のところまで持って来ていただくだけで結構です、ちょっとしたお礼をいたします」

「今まで捨てていた物が小金になるなら歓迎されるだろう、ところでどんな薬が造れるのだ?」


ピッポは手で自分の首を()ねる真似をした。

「表の世界ならこうなる様な薬物全般ですぞ、イヒヒ」





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