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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第三章 陰謀のハイネ
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聖霊教会とハイネ連続誘拐事件

 ルディとアゼルはハイネの警備隊の事情調収に応じるべく兵士達と共に警備隊本部に向かっていた、警備隊本部はハイネ中央通りの南門近くにあった。


そこに治安維持の為に部隊が配備されていたが、その他にもハイネの近郊に警備隊の駐屯地が二箇所ほど設けられていた。

ハイネ警備隊の常備兵力は1000名程で治安維持やハイネとその周辺地域の警備に当たっているが、非常時には40歳までの予備役を動員し最大5000近い軍事力を動員できるらしい、だが動員には一週間以上の時間が必要とされる。


ルディ達を取り囲む市中警備の兵は非常に身軽な軽装だった。


一行は警備隊本部に到着すると引き継ぎが行われ二人はある一室に招かれた。

ここでも警備兵がルディの武器を預かる。


そこは調度も質素で無機的なまでに温かみの無い部屋だった、だが二人は犯罪の容疑者と言うわけでは無い事と、それなりの身分と思われたのか粗雑な扱いは受けなかった。

すぐに将校らしき三十代と思われる男と書記官らしき文官と警備兵二人が現れた。


その将校は一歩前に出ると。

「私がこの事件を担当する事になった、カール=バーダーと言うものです」

「私はエルニアのエリカの魔術道具商ファルクラム商会のルディ=ファルクラムと申します」

「私はファルクラム商会の顧問のアゼル=ティンカーです」

「彼は私の古い友人でも有り上位魔術師なのです」

そこにルディが付け足した。


一瞬カールの表情が僅かに驚いた事をルディは見逃さなかった。

「お手数をかけるがこちらも公務でして了承していただきたい」

カールの態度が僅かに丁寧になる。


「防護魔法があるわけだな・・・」

カールは聞こえない程の小さな声で呟いた。



カールは部屋にあるテーブルと椅子を二人に指し示しそこに座るように促した、二人は大人しくそれに従う。


「あなたがたは剣を持った少女を探していると聞きましたが、その少女に殺人容疑がかかっています、ご存知でしたか?」

「なんだと!?殺人だと!!」

ルディもアゼルもこれに心から衝撃を受けていた、カールはその驚きが演技ではないと判断したようだ。

「ふむ、ご存知ありませんでしたか?」

「信じられません・・・」


「その少女とはどのような関係ですかな?」

「我らはラーゼからリネインの旅で彼女と知り合い随分親しくなりまして、つい気を許してしまい剣を盗まれました」

「少女について詳しくご存知ですかな?」

「リネインの聖霊教会の孤児院の娘で、名前はコッキー=フローテンです」


「ハイネの野菊亭の宿泊客の名簿にある名前と一致します」

書記官が調書を取りながらカールを補足した、ルディは自分達が警備隊と入れ違いになっていた事に気が付いた。


「その娘はリネインの聖霊教会の孤児院の娘なのか?だからジンバー商会と接点があるわけだな、貴重な情報だ」

カールは当然のように孤児特権を利用した後ろ暗い商売の存在を知っていた。



「ところで、貴方は剣の盗難に関して捜査依頼を出しますか?」

これには裏の意味があった、犯人と交渉して取り戻すつもりなのか、法に任せるのかと二人に問うているのだ。

殺人事件そのものは問答無用で捜査対象になるが、殺人の実行犯からすでに盗品を扱う組織に流れている可能性も高い。

貴重品や特殊な物の盗難に関しては裏交渉で穏便に取り戻す事を望む者がいる、更にいわく付きの物ならば表に出したくない事も多いのだ、カールはそういった大人の事情に触れていた。


「剣の盗難に関して捜査依頼を出したいのです、我々はコステロ商会と商談を進めているので」

ルディはまだハイネ警備隊を信用できなかった、剣が捜査中に見つかりそのまま横領される可能性もあるため危険を承知で捜査依頼を出す事にしたのだ。


「なんですと!!コステロ商会ですか・・・あなた方は魔術道具商でしたな」

カールの表情からは彼の本心は伺えなかった。


ルディは敢えてコステロ商会の名前を出した、コステロに商売の話を切り出していたので話が通りやすいはずだ、もっともコッキーを操っている者達がコステロ商会やハイネ警備隊と関係があるかどうかまでは今の時点では知り用がない。


「あれは簡単に換金できる物ではありません、私はテレーゼの外に持ち出されるのを怖れています」

そこで初めてアゼルが口を開いた。


「まずコッキー=フローテンについていろいろお聞きしたいことがあります、その後でその盗まれた剣の特徴などお聞かせ願いたい、剣は可能なかぎり捜査しましょう」

「お願いします、さてすべてお話しいたしましょう」


だがルディは本当に重要な情報を警備隊に教えるつもりなど全く無かったのだ。










ベルの視界に木造の簡素な造りの聖霊教会が飛び込んできた、ベルは意を決して聖霊教会の門をくぐる。

木製の門をくぐるとすぐ正面が礼拝所だ、ここの聖霊教会は質素でとても小さかった、礼拝所の門に飾られている退魔の聖人像も簡略化された木製の像だが比較的最近造られたように新しい。


ベルが礼拝所に入るとそこで一人の若い修道女が祭壇を清めていた。

彼女は礼拝堂に誰かが入ってくる気配に気が付いたのか入り口を振り向いた。


「まあ、みなれない娘ね」


若い修道女は優しく微笑んだ、薄いブラウンの髪に平凡な容姿だったが、彼女の周りを温かい柔らかい空気が取り巻いているように感じた。


「こんにちわ、友達を探しているんです修道女様」

「まあお友達ですか?」

「リネインの聖霊教会の孤児院にいた娘なんです、コッキー=フローテンと言います」

「ここに来ているかもしれないと思ったのね?」

「そうなんです」


若い修道女は暫く考え込んでいたが

「そういう娘は知らないわ、私は午後の番なんだけどそんな娘は来なかった、午前の番の方に聞いてみますね」

その女性は礼拝堂の奥の部屋に入っていった。


ベルは礼拝堂の中を見渡す、柱や壁は質素な造りだが建てられてからそれほど経ってはいないようだ。

礼拝殿の最奥の精霊王のレリーフも木彫だった、木彫りながら素朴で力強くそれなりに優れた職人の手で彫られたものだろう。


礼拝堂の奥の部屋の扉が開き、先程のブラウンの髪の修道女と、彼女より更に若い長い黒髪のほっそりとしたなかなか清楚で美しい修道女が出てきた、その少女はベルとほぼ同年代に見える。


「こちらが午前の番だった、ファンニ=アルーン、私がサビーナ=オランドです」

「ぼ、私はベル=グラディエーターです、エルニアからご主人さまと共にハイネに来ました、コッキーとはリネインで知り合ってこの町まで来たのですが・・」

ベルは友達を心配するかのように俯いた、それは演技だが偽りのない本心でもあった。

「まさか、その娘が行方不明になったの!?」

サビーナとファンニが顔を見合わせた。


「そうなんです朝から姿が見えなくなって」


「たいへんだわね、申しわけないけど今日は知った人しかここに来ていないのよ」

サビーナとファンニが申し訳なさげな表情でベルを見る。


「怖いわね最近誘拐事件が多くて、子供達が何人も行方不明になっているの、ここも孤児院があるから心配だわね」

サビーナが不安げにささやいた。


「新市街・・えーハイネの城壁の外の事だけど、新市街で特に誘拐が多く起きているらしいわ」

今度はファンニが不安げに呟いた。


ベルは魔法街でコッキーが誘拐されかけた事を思い出した、ジンバー商会が誘拐事件に関わっている可能性にまで思い至った。

そしてコッキーの担ぎ屋業の元締めであり、その上ジンバー商会の者がコッキーらしき女の子に斬り殺されたと言う。


ベルは一人の考えに(フケ)ってたが重要な何かを思い出したように二人の修道女に向き直る。


「そうだ、聖霊教会の裏の煙はなんでしょう?」

サビーナとファンニはまた顔を見合わせた、サビーナがとても言いにくそうに口を開く。

「聖霊教会から少し離れた所に墓地があるのよ、でもね最近お墓を荒らす人達がいてね、ご遺体を盗む者達がいるのよ」


ベルはゲーラで見た死霊術で利用された屍体を焼く火葬の煙を思い出した。

「修道女様、ご遺体を盗んでどうするのでしょうか?」


再びサビーナとファンニはお互い顔を見合わせ、何かおぞましげに口を歪めながらサビーナが口を開いた。

「貴方は死霊術を知っているかしら?」

「ええ名前だけは」

「なら話は早いですわね、ご遺体とおなくなりなった方々の魂を利用する邪悪な術よ、最近ご遺体は火葬にするように命令がでているけどね、なかなかできるものではないわ、特に貧しい人たちにとってはね」

「あの煙は火葬の煙だったのですね・・・」

二人の修道女は無言で頷いた。


二人の修道女が時々鏡に写した様に同じ仕草をするので、ベルは場違いながら笑い出しそうになっていた。


「でも不思議な事があるのよ、真夜中にお墓が荒らされるのだけど、誰も気が付かないのよ・・・」

サビーナが小さな声で呟いた。

「修道女様それは魔術でしょうか?」

「ええ私達もそうかもしれないと思いますが、調べたくてもここにはそんな優れた魔術師の方がおりませんの」

こんどはファンニが小さな声でささやいた。


サビーナとファンニは無念な表情で僅かにうつむく、ベルは魔術師の貴重さから二人は魔術師ではないのだろうと思った。


そして気が(ハヤル)るベルはコッキーの手がかりを掴みたく一刻も早く動きたかった。


「修道女様方お手数をおかけしました、他を探してみます」

「お友達が無事見つかることをお祈りますわ」

二人の修道女はベルとその友達の為に幸運の祈りを捧げた、そしてベルは教会を去ろうとする。

だが彼女は足を止めて振り返る。


「あ!!申し訳有りません、まだお尋ねしたい事がありました」

「「何かしら?」」


「ここから北西に黒い煙がたくさん昇っていましたが、あれはなんでしよう?」

サビーナが少し苦笑しながら答えた。

「あれは本当にすごいわね、あれは製鉄所よ、あそこで露天掘りの石炭が採れるの、ハイネの北のマインから鉄鉱石を持ってきてそれを鉄にしているのよ」


「いろいろありがとうございました」

そしてもう一つ忘れていた事があったのだ、ベルは精霊王の祭壇に近づくと隣りにある浄財箱にコインを入れて祭壇に礼拝した。

そして二人の修道女にぴょこんと一礼し聖霊教会を後にする。


「「気をつけてねー」」

サビーナとファンニの声が重なり合いながら駆け出し始めたベルの後から追いかける。







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