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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第三章 陰謀のハイネ
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新市街

 ルディ達は警備隊の事情徴収に応じる為に兵士達と警備隊本部に向かっていった、ベルはそれを見守ってから西門に向かう、再び大通りでコッキーの足取りを追いながら聞き取り調査を始めた。


中央広場から100メートルも西に向かった辺だろうか、大通りの路肩から良い匂いをさせている屋台があった。

ベルはランプの灯りに引き寄せられる羽虫の様にそれに引っ張られていく、その屋台にはベルには見慣れない料理が売られていた、四角いパンの間に細切れにした芋や玉ねぎや挽き肉などに火を通した様な物を挟み込んだ料理だった。


「おじさんなにそれ?」

ベルは屋台の20代と思われる若い店主にたずねる。

「おじさんだって!?」

俺はまだ若いだろ?そんな抗議を込めた目でベルを睨み返してきたが、ベルはそれにどこ吹く風な態度だった。


「これはテレーゼの伝統料理だぞ知らんのか?まあ立ったまま食えるから、あまりお上品な料理じゃないがな」

店主が少しむくれた態度だったのでベルも何か気が付いた様だ。


「ねえ、それちょうだい」

ベルは辛子のような物が塗られている一品を指差した。

「ああ、それは2ビンだまいどあり~」


ベルはそれにさっそく齧り付いた、だが様子がおかしい。

「辛い!!鼻が!!鼻が!!!鼻にきた~~!!!」

ベルは鼻を摘んでうろたえ騒ぐ。


店主はそんなベルを小馬鹿にした様に笑った。

「うはは、それには辛子が塗ってあるんだぞ?うははは!!」


ジト目で店主を睨んだベルだったが大切な用件がある事を思い出す。

「ねえ、今日大きな剣を担いだ青いワンピースの女の娘を見なかった?」

「お前もかよ?俺は見ていないがな、今日は何度もそれを聞かれたぞ」

「何度も聞かれたの?」


「ああ、この通りを暫く行った所で殺人事件が起きたんだよ」

店主は大通りの西の方角を指差した。

「殺人だって!?」

「お前は知らないのか?」

「何が起きたの?」


「詳しい話は知らん、女の娘に二人程切られたと聞いただけだ」

「・・・・・」

「どうした!?」

「ありがとう、僕は行かないと・・・・・」

ベルは屋台を後にして急ぎ足で大通りを西に向かう。


ベルはどうやらコッキーはまだ捕まってはいないと判断した、だが少しずつ焦りが募る、魔剣が盗まれただけならば内々で解決できたかもしれない、だが殺人事件に絡み警備隊が動き始めたとなるとそうはいかないからだ。


ベルはさらに情報を集めながら、殺人があった場所を絞り込んで行く。

そこは西門に程近い中央通りから南に向かう路地で、周囲には倉庫や工房が目立つ地域だった。

その路地に面した小さな宿屋の前で働く小間使いの少女がいた、ベルは彼女に声をかけた、その少女はベルより2~3歳は年下に見えた。


「ねえ、君」


少女は呼びかけられて戸惑った様子でベルを見て僅かに驚いた様だ、ベルは小間使いの格好をしていたが、まるで貴族か大商人の家に仕える使用人に見えたからだ。

その黒いドレスはベルがラーゼで自分で選んだものだったが、クラスタ家や他の貴族の使用人の服装を参考にしたものだ、そして気さくな態度に見えて雰囲気もどこはかとなく育ちの良さを隠せていない。


「はい、なんでしょうか?」

「ねえ、青いワンピースを来て大きな剣を担いだ女の子を見なかった?」

「またですか!?」

少女は顔を歪めて逃げようとする、ベルは慌てて彼女の肩を掴んだ。

「お願い逃げないで、友達を助けたいんだ!!」

少女はベルを振り返った、そしてベルの真剣な瞳をみると少し落ち着いた。


「僕はベル=グラディエータ、大きな剣を担いだ女の子を探しているんだ」

「私はマフダよ、私見ちゃったの、あの嫌なジンバー商会の人たちが、その娘に二つにされちゃったのよ・・・」

思い出したくも無いと言った様に顔を横に振る。

「ジンバー商会だって?」

「理由はわからないけど、その娘に触れたら・・・その子はまっすぐ進んでその先で右に曲がったのよ」

「ありがとうマフダ」


ベルは少女に別れを告げると争いがあった路地に向かう、手前の十字路に差し掛かると足を止めて周囲を観察する。

すると左側の道の突き当りに倉庫の扉が見える、ベルは倉庫に近づき調べると扉の近くにジンバー商会の看板が掛かっていた。


「ここだったのか・・・」


そして十字路まで戻るとコッキーが進んだ道を再びたどる、すぐにベルの鋭い臭覚は僅かな血の臭いを嗅ぎ分けた。

ここが殺人現場だと確信すると周囲を更に調べた、そして倉庫の壁の一部に消し残された血の痕を見つけた。


更に先の十字路まで進みコッキーが向かったらしい西に曲がる、やがて目撃者の証言から宿屋『鉄槌亭』の前にたどりついた、軒先に大きな木製の作り物のハンマーがぶら下げられている。

ベルは宿の中に入って話を聞こうと思ったが思い留まった、殺人が絡んでいるので面倒な事になりそうな予感がしたからだ。

『鉄槌亭』の前に雑貨屋があったのでその店番の老女に話を聞くことにした。


「こんにちはー」

ベルは店の入口を潜った、店内は台所道具から大工道具まで多彩な商品が並んでいた、茶やタバコらしき物まである、だがどれも安物ばかりが並んでいた。

その中にロープを巻いた物があったのでそれを手に取る、そして小さなナイフを一本買い足す事にした。

「おばあさん、これは6メートルのロープでいいのかな?あとこれをください」


「ああ、そうだよ、全部で23ビンになるね」

ベルは代金を払い商品を受け取る。


「ねえ、おばあさん、そこの通りで殺人事件があったんだって?」

店番の老女はベルの風体をしげしげと観察した。

「どこかの良いところの使用人かね?あまり面倒な事に顔を突っ込まないほうがいいね」

「友達が話を聞きたがっていて、おねがい!!」

手を合わせてお願いするベルの姿が少し可愛らしかったので老婦人は呆れたように笑った。


「しょうがないね、でかい剣を担いだ女の子がそこの宿屋に入ったのさ、すぐに小さな男と出てきたのさ」

「小さな男ってどんな人だった?」

「ああ、中年の小男で魔術師みたいな服を着ていたね、二人はそのまま西に向かったよ、どうやら西南の門から外にでたらしいけど、わたしも詳しいことは知らないけどね」

「ありがとう」

ベルは西南の門に向かおうと店から出ようとした。


「おまち、娘が宿に入った後から若くて大きな男が宿に入ってね、大きな荷物を担いで何処かに行ったらしいよ、そいつも仲間かと疑われているようだったね、私はそいつは気にしなかったので覚えてないけどね」


コッキーは中年の男と行動を共にしているらしい事、そしてもう一人協力者が居る可能性がある事が判った、そのまま西南門に向かった。

その二人連れはかなり目立っていた様で彼らを覚えて居るものが数人いた、そして彼らの多くは警備隊を始め何度も同じことを聞かれたと証言していた。


ハイネの西側の城壁の南よりにある城門は大通りの西門の半分ほどの狭い門だった、幅が馬車一台通れる程しか無かった。

ベルは少し眩しげに門の外のハイネの新市街を見やる、太陽が傾き西陽が門から旧市街に深く差し込み始めていたのだ。


「あまり時間が無い」


新市街に出てからも同様に聞き込みを進めていく、だが城門から真っ直ぐ300メートル程進んだ辺りから二人の目撃証言が得られなくなったのだ、ベルは周囲を見ると店や宿屋があるわけでもなく、狭い地域に粗末な民家が密集している、もしその中のどれかに二人がいたとしても虱潰(シラミツブ)しにするのは無理だと悟った。


「何か特徴のある建物とか無いかな?」

ベルは狭い路地裏に入り込むと、二階建ての木造の建物を見つけそれに素早く登る、精霊力を得ているベルの身体能力は常人を遥かに越えていた。


その屋根の上からベルは街を見下ろした、見通しは下にいるより遥かにましだった。


目を引いたのは北西の方角の町外れに黒い煙が幾筋も立ち上っていた事だ、その周辺には木の矢倉がいくつか立ち並んでいた、だがベルにはそこに何があるのか見当が付かなかった。

そして西の方角にそう遠くない場所に木造の粗末な聖霊教会の尖塔が見える、その近くからも一筋の黒い煙が上っている。

そして遥か南西の彼方に白い煙が幾筋も上っていた、それらはゲーラで目撃した屍体焼きの煙を連想させた。

またハイネの南側に見覚えのある大きな建造物を見つけた、それは今朝訪問したサンティ傭兵隊の駐屯地の兵舎だろう。


「まず聖霊教会にいってみよう」


コッキーがそこにいると思っているわけではないが、コッキーがリネインの聖霊教会の孤児院で育てられた事を思い出したのだ、何か手がかりが得られるかも知れないと行ってみる事にした。


建物の屋根から降りて聖霊教会がある方角に進む、この時ベルは何者かに見られているように感じていた、ハイネの旧市街にいた時は人通りが多すぎて気が付かなかったのだろうか?それとも新市街に入ってからだろうか?その判断はつかなかった。

だがベルは気が付かないふりをしてそのまま進んでいく。


入り組んだ住宅街の裏道を進み市街の外れに出たところで、聖霊教会のお馴染みの尖塔が目の前に飛び込んできた、それは木造の簡素な造りの尖塔だった。


ベルは意を決して聖霊教会の門をくぐる。




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