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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第三章 陰謀のハイネ
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サンティ傭兵隊とコステロ商会

 伝令が戻って来るとルディ達三人は傭兵隊の隊舎の内に招き入れられた。

「隊長がお会いしたいそうです、私について来てください」

案内の兵が少し丁寧な態度になっていた。


隊舎の廊下を進むと、すぐに隊長の執務室の前まで来てしまった、部屋の前には警備兵が一人いるだけだ。

「客人をお連れしました」

案内の兵が警備兵に伝えるとその男は部屋に入っていく、そしてすぐにドアが開いた。


「中へお入りください、失礼ながら武器を預からせていただきます」

ルディは長剣を素直に警備兵に預けた、ベルもグラディウスと短剣とダガーを取り上げられてしまう。

警備兵は『なんだこいつは?』と不審の目をベルに向けている。


三人は執務室の中に招き入れられた、室内は実用本位で装飾の類は全く無い、部屋の片隅に傭兵隊隊旗を揚げたポールが立て掛けられ飾られているだけだった。


「やはり貴方か先日は世話になった、まあそこに座りなさい、私がエリオット=アルバーニ、ここサンティ傭兵隊の隊長を務めている」

エリオットはアゼル達をまだ覚えていた様だ、三人は少し緊張を緩めた、エリオット=アルバーニは30代後半の中背の痩せ気味の男で薄い金髪で灰色の瞳だ、鋭い目つきの男だが、なかなか整った容姿の持ち主で身のこなしや話し方にどこはかとなく気品が漂う。


応接用のソファーにアゼルとルディが座りエリオットも座る、ベルは小間使いらしく壁を背にして二人の後ろに立った。


「私はアゼル=ティンカー、こちらは私の友人のルディ=ファルクラム、こちらは我々の護衛のベルです」

エリオットはふと考え込む様に三人を見やった。

「先日はとっさの事で偽名を使いまして申しわけありません、あなた方を含めて味方と断じられる状況ではありませんでしたので」

アゼルはエリオットの困惑を読み取り彼の疑念を解く必要を感じたのだ。

「なるほど、あの様な状況ではそう判断するのも当然かもしれませんな」

だが疑念が総て晴れた様にも見えなかった。


そこに少年の侍従兵がお茶とお菓子を持ってきた、ベルがそれをこれまた恨めしげに見つめていた。


「ところでそこのお嬢さんが護衛ですか?」

急に話を振られてベルがギクリとなった、内心の慾望を見抜かれた様な気がしたのだ。


「彼女は非常に腕が立つのですよ、証明する事もできます」

「・・・判りました」


「ところで私に御用とは?」

「私は上位魔術師でして」

エリオットの表情に軽い驚きが浮かんだ、上位魔術師は貴重で珍しい、傭兵隊にも魔術師がいるが下位魔術師が二名だ、これでも小さな傭兵隊としては贅沢な体制だった、彼らは精霊通信から治療術から戦闘まで極めて有用なのだ。


「コステロ商会での仕事を探しております、そこでエリオット殿の紹介がいただければと」

「わかりました、それはやぶさかではありませんよ、貴方には世話になりましたから」

エリオットはそれを信じることにした様だ、貴重な上位魔術師をコステロに紹介できるのならエリオットにも損な話ではなかった。


「コステロ殿は多忙でいきなり面会を求めてもまず会えません、商会に不在の可能性も高い、私の名で紹介状を出しましょう、私の名前ならばコステロ殿の処まで確実に届くでしょう」


「さて、今度はそちらの、ルディ=ファルクラム殿だったか、貴方はいかなる立場なのだ?」

「私はエルニアのリエカの商人でして、取引に関してコステロ殿とお話をしたいと思いまして、魔法道具や素材触媒を商っております」

「なるほど解りました」


ルディが硬貨が入った小さな袋をエリオットに渡した。

「これはささやかなお礼で御座います、お受け取りください」

エリオットは中に小銀貨が五枚入っているのを確認し少し驚いたが、そのままさり気なく懐に収めた。

賄賂(ワイロ)を要求したわけではないが、謝礼を拒絶するほど石頭ではない、そして金はいくら有っても邪魔には成らないのだ、そしてこれ以上貸し借りなしと言う裏の意味もあった。


「今から紹介状を書くので暫く待っていてくれ」

エリオットはコステロ商会のエルヴィス=コステロ会長宛の紹介状を書き始めた。









ルディ達がサンティ傭兵隊を訪れていた頃、黒いローブと三角帽子を被った女性がハイネの魔法街を歩いていた、ローブから出たその顔は20代後半を思わせた、ブルネットの肩まで切りそろえた髪と厚めの色気のある唇、その唇の右側に大きなほくろが目立つ。

その瞳は高い知性を感じさせるが、どこか無気力で気だるい空気を(マト)っていた。


その彼女の三角帽はトンガリの部分がとても長く複雑に折れ曲がっていた、少し前に女魔術師の間で流行った帽子だが彼女は平然とそれを冠っている。

通りすがりの者達にとって、魔法街で魔術師など珍しくはなかった、だが彼女の不思議な魅力に気を惹かれ振り返った、特に男達は。

ルディかベルならばピッポの大道芸のイカサマに加担していた女性と気が付いたかもしれない、その女性はまさしくテヘペロ=パンナコッタその人だった。


「あれね?テオが言っていた『風の精霊』って、ほんとつまらない店ね」

彼女は『風の精霊』の前まで進むと立ち止まり独り言を呟いた、そして店のドアを開ける、ドアについた小さなベルが来客を告げる。

店内は商品が所狭しと並べられ、薬草と謎の生物の干物と香料臭で満たされていた、魔術に縁があるものには慣れ親しんだ景色と空気だった。

テヘペロはそれらを一瞥(イチベツ)すると小さく鼻で笑った。


「こんにちわ~エミル=ヴラフさんはいますかしら?」

カウンターの向こうの薄い水色のカーテンが揺らめいて、店主のエミル=ヴラフが現れた。

「いらっしゃいませ、何か私に御用でしょうか?」


エミルの瞳の中の僅かに驚くような少し熱い興味深げな変化を見抜き、テヘペロは心の内で舌を出した。

テヘペロの黒いローブは前が少し開き気味で、その豊満な体と胸の形がピッチリとした白い上着越しに見えていたから。


「私はテヘペロ=パンナコッタですわ、昨日ハイネに着いたのよ、そしてここの通りを歩いていたら、女の子が大の男を三人も叩きのめしたのを見たのよね、そのあと彼らが貴方の店に入って行くのを見て興味がわいたの」

「ご覧でしたか?」

「魔術師ならばあんな珍しい現象に興味を抱かないはずありませんわよね?」

(テオが見たんだけどね、キャハハ)


「あれは聖霊拳の力と聞きましたよ・・・」

「似ているのは認めますわ、でも何かが違うと思うのよ」


「そうだ、ついでに足りない触媒を買っておこうかしらね」

テヘペロは商品棚を回りながら小さな籠に触媒を入れていく。

その彼女をエミルの目が追っている、テヘペロは僅かに嘲りの笑みを浮かべた。


「違うと?」

「ええ、狂戦士の症状に似ている、私はそう思うわね」

「狂戦士とは思えない、彼女は理性的でしたが・・・」

「でも理性を失わず狂戦士の力を振るえるとしたら凄いことよね?」


テヘペロはカウンターに再び近づき、カウンター越しにエミルを見つめた、エミルの視線はローブの隙間から見える彼女の豊かな胸と少し残念だが魅力的な腹に注がれていた。


「そんな事ができたらとんでも無い大発見になるでしょうな・・・」

「ええ、そうよ、私はそれを突き止めたいのよ、貴方に強力して欲しいの、貴方は聞いたことが事があるかしら?噂だけどこの前のベントレーの戦で狂戦士を兵器にしたと言う噂があるのよ?」

「な、なんだと!?」


テヘペロは真っ直ぐエミルを見つめる、その薄い金色の瞳は魅力的だったが、その奥には乾いたような虚無があった。

エミルは一瞬だけ恐れを感じ警戒したがテヘペロの体から立ち込める良い匂いと彼女の息にそれは掻き消されてしまった。

彼女はカウンター越しにその身をエミルに更に近づけてささやく。


「昨日、ここで何があったか詳しく教えて欲しいのよ」

「ああ・・わかった・・・奥の応接間で話そう」


エミルは店の扉に閉店の看板をぶら下げドアの鍵を閉めた。











魔法道具屋『風の精霊』が臨時休業になった頃、サンティ傭兵隊を後にした三人はハイネの中央広場に面したコステロ商会に向かっていた。

ハイネの南北を貫く大通りは旅人と商隊の馬車で渋滞を起こしていた、戦乱のテレーゼとは思えないほど活気に満ちている。


「コステロが居てくれれば良いのだがな」

町の喧騒を見ながら歩いていたルディがふと呟いた。

「隊長も良く知らないみたいだね」

「多忙で本店にいる事が珍しいらしいようですね」

アゼルが肩の上のエリザを撫でながら答える。


「妙に商隊が多い気がするけど、ベントレーの戦が終わったからかな?」

ベルが商隊の馬車の多さに辟易しながら文句を言った。

「そうかも知れませんね」

アゼルも道を埋め尽くし占拠する馬車の群れを不愉快そうに見ていた。


「あの建物だったな、こうして見ると普通の商館にしか見えん」

ルディが中央広場の向こう側の大きな商館を指さした。


それはテレーゼ最強の犯罪組織の表の顔とは見ただけではまず解らないだろう。

建物は焼き固めた赤い石材のようなブロックで建築されていた、最近西方世界で発明され少しずつ普及し始めている建材だ、石より脆いが同じ大きさの材料を量産できるため、石造建築より効率が良いと言われている、石材が手に入りにくい地域ではむしろ安く造れるらしい。

エントランスには高価な木材が贅沢に使用され、非常に趣味の良い美しい商館だった。


三人はその商館の建物に感心しながら正門入り口の階段を上って行く。

両開きの扉を開くと、豪華だが趣味の良い一階ロビーに警備の者二名と受付に何人か人がいる、彼らもまた堅気の者達にしか見えない。

「お客様何か御用でしょうか?」

受付案内人は来客の用件に合わせて客を割り振るのが仕事だ。


アゼルがエリオット隊長からの紹介状を見せる。

「エルヴィス=コステロ殿にお会いしたい、私はエルニアの魔術師アゼル=ティンカーで、こちらは友人の同じくエルニアのリエカの魔術道具商のルディ=ファルクラムです」

などと自己紹介をしたが、使用人のベルの紹介が省かれたのでべルがまた少し不機嫌になる。

少しむくれた様子のベルを見てルディは苦笑いを浮かべた。


すぐに奥から受け付責任者らしき男が出てきた、その男が紹介状を受け取り確認すると、側にいた少年を呼びつけ指示を与える、少年は早足で二階の階段に向って行く。


「しばらくお待ち下さいアゼル様、会長が多忙なのでご希望に添えるかは不明です、その点はご了承ください」






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