それは尋問のような
「あの、私にお話とは?」
ゼリーが最初に椅子に座る続いてオレクとカメロが椅子に座った。
この部屋はハイネ城の西ホールに付属する休憩室を利用していた、テーブルも椅子もテレーゼ風の一級品で統一されている。
彼女は正面のオレクを見てから左側のカメロを見る、ゼリーのカメロを見つめる時間がほんの僅か長かった。
するとオレクはラフな姿勢で椅子から身を乗り出した。
「忙しいところすまねえな、この前合った時にメダルを落としただろ?もう一度詳しく見せてくれないか?」
ゼリーはそれにうなずくと小物入れからメダルを取り出した。
「いつも身につけています、これは形見なので・・・」
それをオレクに差し出した、オレクはそれをつまむと目の前に寄せてまじまじと観察した。
「まちがいないエンフォリオ家の徽章だ」
「あのオレク様のご実家は伯爵家なんですね、侯爵家に遠い親戚の方がいたなんて」
ゼリーは少し恥ずかしげに笑った。
「君はテレーゼの生まれなのか?」
それはカメロの声だ。
ゼリーは少し驚いたが、今度はカメロを正面から見つめる凪いだ穏やかな表情だ。
「はいカゼールで生まれましたが、幼い頃戦乱から逃れて両親と共にハイネに逃れてきたのです」
なかなか壮絶な人生だがそれを淡々と語る、それもテレーゼで無数に生まれた不幸の一つにすぎない。
「カゼールはテレーゼの南西の端か?」
「そうです」
それにオレクが反応した。
「そこはエンフォリオの領地があった街だぜ」
かまわずカメロは続ける。
「ご両親はたしか御領主だったか」
「いいえ、あまり話してくれませんでした、職人をしていたようですが・・・」
「君はこの徽章が侯爵家の物だと知っていたんだな」
ゼリーが軽く目を見張る、だが即座に反応した。
「あの、おふたりにお会いした後で興味を感じてエンフォリオ家について調べました、お城にも紋章に詳しい方がいて、その盾のラインが一本なのが侯爵家で二本なのが伯爵家なんです」
カメロとオレクは顔を軽く見合わせる。
カメロはそのまま続ける。
「俺もエンフォリオ家について少しは調べたよ、高名な精霊宣託師を生み出してきた家だ、君にもその素質があるのか?」
ゼリーは美しい美貌を歪めた。
「精霊宣託師として正しい知識が失われて・・・私の両親は昔は名門だったと言っていましたが、でも私には魔術師の素質がありました」
「だからハイネ魔術師ギルドに所属しているんだな」
一呼吸置いてゼリーが答える。
「そうです、カゼールにいたのではまともな教育なんて受けれなかったと思います」
「君のご両親はもうおなくなりになったのか?」
「・・・はい」
ゼリーはうつむいているので彼女の表情はわからない。
「そうか」
カメロはそう言う事だけだった、そしてカメロとオレクはまた顔を軽く見合わせた。
「いやあ、忙しいところ呼び出してすまねえな、あまり時間を取らせるわけにもいかないんだろ?」
オレクのこの言葉は会議の終わりを意味している。
「はい、シャルロッテ様がお戻りになるころです」
ゼリーが立ち上がり部屋から出ていこうとした時、カメロが彼女の背中に声をかけた。
「君は眼鏡をしていないのか?」
ゼリーはピタリと立ち止まりカメロの方に振り返った、そして侍女服の小物入れから円縁の眼鏡を取り出した、彼女はいくぶん笑いながら答える。
「恥ずかしい話ですが、眼鏡をすると頭が良く見えますよね?これただのガラス板なんです、では失礼いたします」
そう言い残すと城付きの侍女らしい丁寧な仕草で退去を告げる、そしてゼリーは部屋から出て行った。
しばらくしてからオレクが口を開いた。
「何か気になる事はあるかカメロ?」
「大きな矛盾は無いな、何かを隠しているなら頭が切れる」
「俺に近づいてきたのは偶然だと思うか?」
「・・・お前に近づくのが目的だと思いこむのは危険かもしれない」
「ああ、たしかにあの女はデートリンゲン嬢の侍女だ、殿下に近づかれても困る」
カメロ達に限らず王国の臣下達は暗愚な殿下を利用しようと近づいてくる者共を警戒する事に慣れていたのだ。
「警戒だけはしておこう、だが何の確信も無いんだ、俺たちにできる事も知る事も限られている、あの区画に入るのも難しい」
オレクは軽く肩をすくめてみせた。
「ほんと俺たちコネがねえよな」
「貴族の娘に手を出すとおもったらそう言う事か」
その貴族の娘とはセクサドル軍大本営付き武官サリア=サンベルト嬢の事だとオレクは直に気付く。
「何を寝ぼけているカメロ、貴賓区画に入れそうなのが彼女しかいねえんだぞ?」
以外な所で世事に疎いカメロも気づく。
「たしかに彼女だけか・・・ここには本当に人がいない、いやそれでいいのか?」
カメロは顎に手を添えるとため息をついた、そして壁際の飾りテーブルの上の告時機を見る。
「さて時間だ」
そう告げると二人はのろのろと椅子から立ち上がる。