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神々の眷属の理

「コッキーあれだ!」

「帰ってってきたのです」

すでに日が落ちた暗い森のなかでベルとコッキーの声が聞こえる、二人の目の前に朽ちかけた屋敷の影が黒く浮かんでいる、その影はまるで幽霊屋敷だ。

「早く夕ご飯の用意をするのです」

コッキーはそのまま屋敷に飛び込んで行く、それにベルが続いた。



「ただいまなのです!」

ホンザが築いた魔術陣地の中にコッキーの元気な声が響いた、彼女はいつも元気だ。

テーブルの上の山積みの資料と睨み合っていたアゼルとホンザが驚いて彼女をみた。

「ただいま」

少し遅れてベルが魔術陣地に入って来る。

ベルが部屋の中を探すように見回していると後ろからルディが入ってきた。


「戻ったか、遅くなったが何かあったか?」

ベルは嬉しそうな顔をしたがすぐに顔を引き締めた。

「変な奴らと遭遇した」

「変な奴らだと?」

ルディの顔が戦士の顔に変わる。

「前にハイネの南で戦った奴らと似ていた、グディムカル軍だと思う」

「なんだと!?魔界の神々の眷属か?」

ルディは強い衝撃を受けている、なぜ衝撃を受けているのかベルには解らなかった。

「私も大切な話があるのです」

コッキーが切実な顔をしながらルディを見上げる。


そこにホンザが割り込んできた。

「詳しい事は食事の後にしたらどうかのう、全員で共有すべきじゃ」

アゼルもそれに賛同した。

「そうですね、その方がいいでしょう」

ルディも一息つくとそれに賛成する。


コッキーはその間に女子の寝室に入ると部屋着に着替えてリビングに戻ってきた。

「アマンダさんはどこです?」

コッキーの言葉にベルは驚いた。

「ええ、部屋の中で寝ていると思った」

ベルが思わずこぼすとキッチンからアマンダの声が聞こえてくる。

「私はここよ!」

「まさか!料理しているの?」

ベルが慌てて台所に飛び込むとコッキーも当惑しながら後に続いた。






片付けられたテーブルの上にアマンダの野性的な料理が並べられている。

木の皿の上に火を通さない野菜が山と盛られ塩と香辛料が豪快に振りかけられていた。

温かい料理は大きな鍋のスープだけだ、そこから小さなカップにオタマで注ぐ仕組みだった。

みんな黙々と食べている。


「ベル、先程の話をしてくれ」

少し空腹が満たされたルディが話の続きを始めた。

それに壁際の長椅子のベルが応じた、コッキーは説明をベルにまかせたようで野菜を口に押し込んでいる。

「僕たちがコースタード峠に向かう途中で、かなりの数のグディムカル軍の部隊と接触した、奴らは街道を無視して進んでいた」

「その中にソレがいたんだな?」

「前にジンバー商会の商隊を襲った時に吟遊詩人と戦った事があるけど、アイツにとても似た力を感じた」

隣のコッキーも野菜をほうばるのを止めた。


「わたしは四角い大男と戦ったのです、あいつと似ていました」

彼女はその時に巨大な戦鎚を軽々と振り回す異型の巨人と戦った事があった、最後にドロシーが自らを触媒と依代に魔界の女神を降臨させたのだ、その時コッキーは白銀の大蛇に変化し更に大地のホルンに変わり大地母神のメンヤを顕現させたのだ。


その世界のお終わりにのような戦いの最後にアマリアのエメラルドのペンダントが暴走し全てを浄化した、アマリアはそれを幽界の更に上の上位世界の介入かもしれないと分析していた。


「どうなった?」

「ベルさんがどこかに跳ばしてしまいましたよ、何も残っていませんでした」

「どこに行ったか僕も知らない」

ベルが肩をすくめてみせた。

その場に沈黙が覆った、ベルは物質を切り取り消し去る事ができる、だが何が起きているのか誰にも正確に解ってはいなかった。


「そうか、奴らは何をしていたのだ?」

ルディが考え込むのを見てベルが話しを続けた。

「たぶんコースタード峠の砦を破壊したんじゃないかな?あいつら南に向かっていたと思う」

「砦が破壊されていたのですか?」

アゼルが疑問を感じたのかベルの方を見る。

「ラーゼで話を聞いたら、昨日の夜コースタード峠の方で火の手があがったって、見に行ってみたら焼け落ちていたよ」

「ベル、どちらが火を付けたかはわからんが、グディムカルは無傷で砦を占領したかったはずだ」

「そうだよね・・・」


ルディの顔色が悪い、魔界の戦士が消えたはずなのに心がここにはないようだ。

「ルディ、何かまだ心配事があるの?」


「異界の力を持った者が軍に所属している、それが何を意味するかわかるか?」

ベルはやっとルディの懸念を理解できた。

「ああ・・・ルディはそれを気にしていたよね、異界の力を現し世を動かす事に使って良いのか?だったよね」

「そうだベル」


『幽界の神々は、物質界に干渉する為に眷属を利用してきたのじゃよ』

突然聞こえてきたその声はベルとそっくりだった、それはこもった声でルディの胸のアマリアのペンダントから聞こえてくる。

ベルはあからさまに眉を顰めた、その声の主がベルをモデルにしたアマリアのホムンクルスの声だと察したからだ。

ホムンクルスはベルと双子の様によく似ている、アマリアの錬金術の極地の技から生まれた人口生物なのだ。


『我が友も神隠し帰りじゃった、このわしもじゃが』

それを聞いたルディは目を見開いた。

「友とはアルヴィーン大帝の事か?愛娘殿」

「それは仮説としてありましたが、事実でしたか」

アゼルが感慨深げにささやく。


『お前達ならば話してもよかろう、わしも神々の思惑が理解できていたわけではないぞ、年月が経ってから漠然と理解できる、そういうものじゃ』

「ならばアルヴィーン大帝がどのような役割を果たしたのだ?」


『結果的に聖霊教世界の大分裂をふせいだ、あの当時聖霊教が割れそうでな、だがそれどころでは無くなった、そして静かに広がりはじめていた死霊術の跋扈を止めた、今ならばよく分かる』

アマンダが何かに気がついたのか目を見開いたが誰も気づかなかった。

「我々は、いや俺は何をすべきなのだ?」


『ふむ、己の欲する事をしたらどうじゃな、考えても無駄よ』

「そんないい加減なものなの?」

ベルが長椅子から立ち上がって叫んだ。

その場をしばらく沈黙が支配した。


『人々の意識は深いところで大いなる世界と繋がっている、それは無自覚に人の行動や意識に影響をおよぼす、感じる事のできない領域に神々の意思があると言われておるのじゃ』

アマリアは慎重に言葉を選ぶようにゆっくりと言葉を紡いだ。


「アマリア様、それは初めて聞きました!」

アゼルが興奮して身を乗り出す、彼の目の前にアマリアのペンダントが迫る。


「アマリア、僕たちは神々に操られているのか?」

ベルがテーブルに大股で近づいてくる。

『誘導しようとしているのはたしかじゃな、だが自由意志による行動でなければ神々の目的にかなわぬ、強い干渉は人の創造力を損なうという、選ばれた人間に大きな力を与える事で影響力を発揮させるのじゃよ』

アマリアの言葉に誰もが言葉を失った。

するとアマンダがつぶやく。

「そう聖霊教の山岳派の教えに、人々の魂は根で繋がっているとありましたわ」

『聖霊拳は山岳派と近かったの』

沈黙を守っていたホンザが初めて口をひらく。

「魔界の眷属共もそれぞれの意志で動いているそう考えるべきなのですかな、少なくとも自我の上では」


『そうじゃ神々が眷属に一々意思を伝える事はまず無い、あっても忘れてしまうようじゃな』

アマリアの言葉にベルが一歩後ろに下がった。

「忘れてしまう・・・そうだ僕たちも大事な事を忘れているような気がする」

「ベルさんわたしも何か忘れているような気がするのですよ!」

コッキーの言葉にベルは振り返るとコッキーを見つめた。

「二人で幽界に行ったのに肝心なところを忘れているけど思い出せないんだ」


「俺もだ、神隠しで女神にあった気がするが何も思い出せん、はじめは覚えていたがいつのまにか忘れていた」

それはルディの言葉だった、彼らしくない怖れを感じさせた、僅かに声が震えている。





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