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テヘペロのウインク

豪華な扉が殿下の従者の手で開かれ、テヘペロはテレーゼ様式の淑女の礼で迎え入れる。

先触れが立つような訪問ともなるとお忍びの様にはいかない、テヘペロの耳に殿下の足音が近づいてくる音が聞こえる、やがて視界に殿下のつま先が入った。


「なんて金煌(キンピカ)な靴なのかしら?」


そう密かに想っただが殿下の声がかかるまで顔を上げる事ができない、そのままあらぬ想いに浸っているとやがて。


「デートリンゲン嬢、顔を上げたまえ」


殿下の美声が聞こえる、テヘペロはなんて美声なんだろうと感心しながら顔を上げた、すると目の前に殿下の豪華すぎる美貌があったので思わずのけぞってしまった。

薄い金髪に蒼い宝石の様な瞳に芸術品の様な不自然なまでに端正な美貌の持主で、セクサドルの王族が長年に渡って蓄えた美姫達の血が濃縮されている、テヘペロはその美貌にむしろ僅かな嫌悪と恐れを抱かせた。

テヘペロの視界のぎりぎりに見えるゼリーが笑っている様な気がして頭に血が昇る。


「シャルロッテ、昨晩は急に倒れたが大事なかったようだな」


「殿下にはご迷惑をおかけいたしました、こちらからお詫びを申し上げるところを、御自らご来訪恐縮いたしますわ」

一見丁寧な挨拶だが正しい形からは外れていた、だが殿下にはかえって新鮮だったようで表情を崩す。


「固くならずとも良い、美しき令嬢の元を訪ねるのは男の冥利と言うものだ、ハハッ!」


今朝の殿下は妙に機嫌が良い、それに小さな疑念を感じたがそれは僅かな物だったのですぐ忘れてしまう。

それどころか殿下の視線がテヘペロの全身をなめていた、熱を帯びて刺すように感じられる。

僅かな嫌悪を感じたがそれを心に封じて、さりげなく姿勢を変えた、それが自分の魅力を強調すると知っていたから。

殿下に余計な事をさせない考えさせない、それがテヘペロの顧問としての本当の任務だ、その報酬は膨大な金品とハイネ評議会における地位。

巧くゆけばハイネとテヘペロはセクサドルの王族と繋がりを持てるのだ。

殿下の視線は熱く肌を焼いた、やがてそれが粘りつくように変わり、熱した(ニカワ)を塗りつけられるようだ。


「視線でドレスが燃え上がりそう」


テヘペロは内心でそう嘲った瞬間背筋が凍りつく。

彼女の目が大きく見開かれ、眼の前の殿下の端正な顔が何が起きたと言いたげに変わる。


テヘペロはもう何も見ていなかった、その闇の奥底に深い深い井戸が見える、その井戸の底に錆びた鉄の箱が沈んでいた。

鉄の箱は鎖で幾重にも巻かれ、その箱が揺れ動き軋み振動している、鎖を引きちぎろうと箱が暴れていた、その蓋の隙間から赤々とした光があふれる。

テヘペロは軽くよろめきニ歩後ろに下がる、彼女は恐ろしい何かを見たかのように頭を左右に振った、彼女はなぜかあどけない表情をしている。


「どうしたシャルロッテ?」


殿下は突然豹変したテヘペロの肩に手を伸ばし触れようとする、そこに壁際に控えていたゼリーが出てきて主人を支えた。

ゼリーは見かけによらず力があるのか見事にテヘペロを支える事ができた。

殿下の手は宙をさまよい握り締められた。

その刹那殿下とゼリーは見つめ合った、彼女は僅かに頭を横に振るまるで何かを否定するかのように。

そして新しく配属された高級使用人達と協力してテヘペロをソファーに座らせた。


「デートリンゲン様はまだ体調がよろしく無いようでございます、無礼を承知で今はお引取り願います」

ゼリーは改まると殿下にそう告げた。


「ああ、そうだな」

殿下は物欲しそうにソファーに力なく座るテヘペロの魅惑的な肉体を見下ろしている。

「シャルロッテ、体調が回復したら講義の続きをお願いしたい・・・」

そう言い残すと殿下達はテヘペロの豪華なゲストルームから引き上げ始めた、殿下は最後にゼリーを一瞥しそのまま何事もなかった様に引き上げていった。


ゼリーが小さなため息を漏らすのが聞こえる。


「お師匠様に溺れてもらってはこまります」

そのささやきは小さくて部屋に残った者達の誰も聞き取れなかった。




テヘペロは殿下が去ってからしばらくすると立ち直る、だが少し気分が悪い。

「お師匠様何があったのです?」

ゼリーが差し出す波瑠の器を受け取り冷水を飲み干した。

「ごめん、目眩がして少し気分が悪くなったのよ」

テヘペロはソファーに深く座ると背もたれに委ねる。


ゼリーはテヘペロの耳元に口を寄せた、前かがみになったゼリーの向こう側に新しい二人の城付きの高級使用人の姿が見えた。

「薬のせいでしょうか?お師匠様」

小さくゼリーはささやく、耳に彼女の息が吹きかかりテヘペロは少し慌てた。


「顔が近いわよ?そうね、そうかも」

「ご安心ください、これからは私がもっと注意いたします、殿下だからと配慮したのが間違いでした」

「・・・・そうね、そうして欲しいわ」

するとゼリーは素晴らしい笑顔で応えた。

「最善をつくします!」

ゼリーのうさん臭い笑顔にまた不信を募らせたが穏やかに微笑んでみせる。

「おねがいよ、貴女が頼りなの!」

テヘペロは片目を瞑って重ねてお願いした。


「お師匠様!それやっぱり可愛いです、その舌をちょぴり出すところとか」

「でしょ?男どもは一撃だったわね」

二人はしばらく笑い合っていた。






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