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誰が薬を盛ったのか?

テヘペロは真っ暗な闇の中で一人で頭を抱えてうずくまっていた、地鳴りのような嵐のような、洪水の様な轟音に包まれ、それは響きわたり思わず両腕で頭を抱える、だがその両の腕は妙にか細く感じられた。


「また同じ夢」


(ハカナゲ)な少女のささやくような声が聞こえる。


「シャルロッテ・・・・シャルロッテ、私の可愛いシャルロッテ」


轟音(ゴウオン)の底から小さなささやき声が聞こえてくる、その男の声は粘り付くような妄執を感じさせる、声はかき消される事なく何故か鮮明に聞こえた、その声を聞いた瞬間に少女の全身に嫌悪と憎悪の感情の嵐が吹き荒れた。


「もう消えて!」

繊細な少女の叫びが闇を切り裂く、全身がその声の主を拒絶していた。

小さな体に抑え込んでいた激情が吹き上がる、彼女の全身を紅の光の粒子が旋回し始める。

その直後に闇がオレンジの光に変わる、赤々と燃え上がる炎に総てが包まれた、周囲の総てが燃え上がった。

その光は豪奢(ゴウシャ)な邸宅の一室を照らし出す、炎が絵画や調度品や豪華なカーテンをなめながら駆け昇る。


だがそれに恐怖は感じなかった、その炎は決して少女を傷つける事はないと知っていたから、炎の精霊はいつも彼女の味方なのだから。

炎は総てを浄化し罪を滅ぼす、その炎の中でテヘペロいやシャルロッテは微笑みながら炎獄(エンゴク)を恍惚としながら見つめている。

炎がついに瀟洒(ショウシャ)なドレスに燃え移った、だが熱さも苦痛も感じない、(ケガレ)を祓う炎に包まれながら全身に喜びを感じていた。

壁が燃え崩れ落ちる、誰かが遠くで叫んでいる、炎の中で絶世の美少女が炎のドレスをなびかせながら踊りはじめたそして高らかに嘲笑った。




テヘペロは思わず瞼を開いた、心の臓が激しく脈打ち息が上がっている。だがそこは薄暗い部屋の中だ、壁際の小さな魔術道具の淡い光が天井を照らしている、見事な天井画を薄っすらと浮かび上がらせていた。

まったく音が無い世界で己の心臓の鼓動だけが伝わってくる。

外を見たがカーテンの外が少し明るくなっているが詳しい様子はわからなかった。


そしてなぜ自分が寝ているのか分からなかった、そして昨晩の記憶を探る。

そうだ殿下がお渡りになり、酒を飲んでから急に意識を失った事を思い出した、そしてガラスの破片が散らばる豪華な敷物の上で目を醒ました。

あの後また眠りについたはずなのに・・・


「お酒に薬でも入っていたのかしら?あの殿下ならやりそうだけど・・・あまり考えられないけど評議会が余計な事をした・・・」


独り言が口から飛び出した、それが重苦しい静寂(セイイジャク)を破る。

そして体中が汗で濡れ肌着が肌にへばりつき不快な事に今更ながら気がつく。


「きっとまた同じ夢だ」


何か嫌な夢を見ていた事を思い出したが、なぜか夢がなんだったか思い出そうとするだけで頭がまた痛くなる。


「そうだ、こんな所で何をやっているのよ私!!はやく逃げないと」

理由がわからないがそんな衝動にかられベッドから飛び降りる、すると軽く目眩を感じた、その時の事だ部屋の中が魔術道具の優しいオレンジの光で照らしだされる。


「シャルロッテ様お目覚めですか?」


聞き慣れた声がきこえる、それはゼリーの張りのある美しい声。


「ジェリー?」

ハイネ城のお仕着せの使用人服を纏ったゼリーが入り口に立っていた、彼女の手の中の魔術道具の光でその姿は眩しくてよく見えない。

「はい私でございますゼリーです、何かございましたか?」


「そう、そうね、そうだ昨晩の爆発の原因はわかった?」

「お師匠様、新市街で爆発が起きたようですが、まだ新しい事は何もわかっておりません、まだ朝がはやいです」

ゼリーが窓に近づいて厚手のカーテンを開いた、すると青みを増した空が見えた、まもなく日が登ろうとしていた。

テヘペロは思い切ってゼリーに尋ねる事にした、酒に薬を入れる事ができるとしたらこの妖しい弟子も容疑者だ。


「ねえ、私はお酒に強いほうじゃない、でも一杯で気を失うほど弱く無いのよ」

ゼリーは納得するかのようにうなずくとそれに答えた。

「酒保のお酒はすべて侍女長様に没収されてしまいました」

ゼリーは壁にある埋込式のカウンターに視線を流す、今は扉が閉じられているが、それを開くと洒落た酒保が現れる様式になっていた。

「さすがに怪しんだか」


「はい、侍女長様は殿下の遊びと疑っておいででした・・床で伸びていたお師匠様はとても素敵でした!」

テヘペロはゼリーを睨みつけるとゼリーは首をすくめたが、悪びれた様子は伺えない。


「うわぁ~酔い潰して、卑怯だわぁ」

そう言いながらゼリーが殿下の意を汲んで薬を入れた可能性を疑う。


「ねえ、ゼリーは殿下の事どうおもう?」

「エッ?殿下ですか、絵の中から抜け出た様に素敵な方ですが、身分が違いすぎて」

「わかっているけど、貴女がどう感じたのか参考になると思って、顧問団としてお仕えしなきゃならないし」

「そうでございますね」

しばらく考え込んでいたがテヘペロを真っ直ぐ見た。


「言いにくいのですが、野心や欲は無く賭け事と女性と酒と料理があれば満足な御方のように感じました」

ゼリーは小さく舌を出すと引っ込めた。

それを意外と可愛いと思ってしまったが、それが自分の癖だと気づいてから不快さに変わる。

「それが欲の塊と言うのよ!?」


「申し訳ありません、王族として軍事や政を司る身分の殿方としての欲です」

テヘペロはその意見が辛辣すぎて吹き出してしまう。

「あーそう言う意味ね、その方が願ったりだわぁ」


「あのお師匠の顧問としてのお仕事がなくなるじゃないですか?」


テヘペロは少し慌てて頭脳を回転させた。

「違うのよ、顧問の仕事が暇になるならお城の生活が楽しめるじゃない?」

「そうですわかります、ここなら貴族の生活を楽しめますよね」

ゼリーは意味深な笑みを浮かべている。

「私も働くより、美味しい料理を楽しみたいのよっ!」

ゼリーの視線がテヘペロの全身を舐める様に見たので少し怒りを感じた。

肌に汗ではりつく肌着が急に気になったはやく脱ぎ捨てたい。

「汗で気持ち悪いから着替えるわ!」




そこで会話は打ち切られ、ゼリーは有能な使用人の顔に変わると無駄なく主人の意向に応えるべく働き始めた。

テヘペロは改めて彼女の能力を見せつけられる事になる。

ゼリーに手伝ってもらいながら汗で濡れた肌着を脱ぎ捨てる、そしてゆったりとした部屋着に着替えた。

そしてソファにゆったりと腰を降ろした、そこにゼリーが気をきかせて玻璃の酒盃を冷えた水で満たすすとテヘペロに差し出す。


「ありがとう、そうだジェリーでもそれ貴女の観察なの?殿下と話なんてしていないでしょ?」

ゼリーは困惑したがすぐに落ち着くと慎重に言葉を選ぶ様に話し始めた。


「ええ、噂で先入観なのかもしれませんが、お師匠様が倒れた時ですね、お師匠様を見る殿下の雰囲気が言いにくいですが変で・・・そのそれで噂が正しいと納得したんですよ」

「そうなんだ、わかっていたけどね、やっぱ殿下がお酒に薬を入れたのかしらね?」

急にゼリーが慌てだした。

「めったな事は言わないでくださいよ?さっきの話は秘密にしてくださいシャルロッテ様」

ゼリーは顔の前で両手を組み合わせて目を瞑って体をしならせた、仕草が可愛らしかったがあざとい。

「わかっているわよ、でも殿下は要注意ね、私を真面目にくどくなら真面目に相手をしようと思っていたのに」


「ええっ?お師匠様ってもしかして玉の輿ねらいだったんですか?」

こんどはテヘペロが慌てだす。

「何言っているのよ?魔術師顧問に決まっているわよ、でも男と女なんだからそこらへんの機微は無視できないわ」


「まあそうですよね、わかります」

そのゼリーの言い草はどこか思わせぶりで揶揄するようだ。

気まずい沈黙が一瞬生まれた。


それが使者の訪問で打ち破られた、その使者をゼリーが受ける。

すぐ入り口から戻って来たゼリーはテヘペロの前に進み出た、手に伝言板を持っている。


「シャルロッテ様、侍女長様からの伝言板でございます、開くことができるのはシャルロッテ様だけです、また昨晩の件ですが調査がまとまったら侍女長様が直接報告するそうです」

「わかったわ」



テヘペロは石板を受け取ると木の蓋の封を解いてから開く、そこに酒に特殊な薬が入っていたと書かれていた、予期していた事だがうんざりさせられた、そしてゼリーを遠ざけて欲しいと書かれている、そして殿下には逆らわないように念を押された。

テヘペロは布で石板の文字を消してから蓋を閉じる、そしてため息をついてから伝言板をゼリーに手渡した。

ゼリーは賢明な事に何が書かれていたかたずねようとはしなかった、だが彼女の瞳はそれを裏切っている。


「おしえてあげないわよ?」

「そんなーお師匠様~」

ゼリーは甘い拗ねる様な声を立てると、テヘペロの眉が震えた。

「だめっ!!」

「さては私を遠ざける様にかかれていますね?」

「あらわかるの?」

テヘペロはゼリーはデリカシーが欠けていると思っていたが、自分が侍女長にどう思われているか理解していたようだ。

「侍女長の態度を見てればわかります」

すこしムスットして唇を少し尖らせた。

そこにまた新たな使者が部屋にやってくる。


今度はゼリーは使者を中に通した、それはセクサドル王国の使者で殿下の言伝を伝えに来たようだ。

さすがのテヘペロも慌てて使者を立って迎えた。

「30分後に殿下がここにお見えになられます、昨晩お倒れになられたシャルロッテ様のお見舞いに参られます」

そう短く告げると使者は一礼して引き上げる、殿下の訪問の先触れの使者だった。


「ええっ?こんな時間にお見えなの?」


二人は顔を見合わせた、だが王族が来るのだから大慌てで準備を始める、そしてテヘペロはあの殿下にも先触れを出すぐらいの常識はあるのねと妙な所で感心していた。




顧問団の略式正装で身を固めたテヘペロの姿は少々豊満すぎるが堂々とした貴族女性の威厳と美しさを示していた、ゼリーはそんなテヘペロの全身を細かく念入りに調べると最後に満足そうに手を叩いて笑い声を上げた。


「間に合いましたねお師匠様、素敵デス!」


やがて殿下の訪問を告げる先触れの声が告げる、遠くから複数近づいてくる足音が聞こえる。

「殿下にお気をつけてください、お師匠様」

最後にそう囁くとゼリーは壁際に下がった。





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