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時空をたぐる者達

「みてくだサい、腕が生えてきたノです」

コッキーはまだ少しふらつくベルを支えながら黒い戦士を指さす。

少し先の森が先程の戦いで蹂躙され下草と痩せ木が踏みにじられ空き地になっている、その真ん中で咆哮する巨人が腕を空に向けた、すると失われた腕が眼の前で再生する。


「しんじられない・・・コッキー作戦を考えよう」

「アレをやりますか?ベルさん」

「異世界ニ吹き飛ばされても再生できるか確かめテやる」

それを聞いたコッキーは大きな口の端を上げると不敵に笑う。

「それがイイです、ラッパであいつを止めます、ベルさんは耳を塞いでいてください」

「じゃあ僕がヤツの相手をするから、ヤツの動きをとめたら僕がヤル」

「わかったのでス」

そうしている間にベルは先程のダメージから立ち直っていた。



ふたりは巨人の戦士のいるほうに向かって進む。

黒い戦士も完全に立ち直り再生した方の腕の指を握りしめたり開きながら確かめている。

我にかえった黒装束の集団の指揮官らしき男が大声でさけぶ。


「魔術の使用に注意、銀色の敵は魔銀でできている、魔術を反射するので危険だ」


「そうだったの?」

ベルは隣にいる変異の進んだ仲間の顔を見下ろす、コッキーは恐ろしい魔物になりかけていたが、それは恐怖の美ともいえる美しさだった。

コッキーは頭を軽く振った。

「知りませんでしタ、魔術なんて当たった事なイのですヨ」

その間にも二人は戦士に近づいて行く、敵の黒装束の集団は大きく展開し二人を遠巻きに包囲すべく動いた、そして黒き戦士も大剣をかまえ戦いに備える。


「じゃあいくよ」

ベルは前を向いたままコッキーに声をかける、コッキーは首から下げた古風なホルンを取りはずし手にとった。

「まかせてくださイ」


コッキーの言葉が終わる瞬間、精霊力の爆発が生じ嵐が巻き起こる、コッキーの隣にいたベルの姿が消えた、消えたのでは無い、神速の加速で黒い戦士との間を詰めたるだがベルの予想通り敵はまったく動じず巨大な剣でベルの魔剣を易々と受け止めた。

ベルの精霊変性物質の剣と黒い戦士の大剣が激突、白い光の玉が無数に生まれ周囲をまるで生き物の様に舞う。


だが黒い戦士は剣に重さがないかのように瞬時に振りかぶるとベルに斜めに叩き込んだ、その圧倒的な剣圧を感じたベルは精霊力を更に解放させた、瞬時の判断で大剣をまともに受けずに身体を捻り、大剣を受けながら滑らせる。

それでもベルの剣は軋み悲鳴を上げた。

「くそっ!!」


敵の戦士は休みなく巨大な剣を小枝の様に振り回し、休みなくベルに叩き込んだ。

それをギリギリでいなしながらベルは耐えた、教え込まれた剣技と聖霊拳の知識と体術を駆使して耐えつずける。

まともに受けたらアマリアからもらった剣が破壊される、それが直感的にわかっていた。

その動きは無駄が無く曲芸の域に達していた、それでも剣が軋み剣の限界が近づく。


だが黒い戦士はまったくの正常心を保ちながら冷徹な攻撃を加えてくる。

ベルは反撃のきっかけを掴むことができなかった。

実は戦いが始まってから僅かな時間しか経っていなかった、周囲の人間には何が起きているのか理解する事すらできない、ただ何か凄まじい異常な事態が起きている事しかわからなかった。


やがて黒い戦士の背後に異様な力が生まれる、脈動する精霊力の波動を感じベルは全身に悪寒を感じた、何か危険な事が起きようとしていた。

研ぎ澄まされた異界の怪物の本能がそれを感じた。


それは黒い戦士も同じだ、それが僅かな動揺と迷いを生んだ。

ベルは大剣をいなし振り下ろされた大剣の刃の上に飛び乗った、黒い戦士の眼が大きく見開かれた。

ベルは黒き戦士の喉を狙い剣を突き出しながら刃を一気に駆け昇った。

黒い戦士は左の拳でベルの剣の腹を叩きつけた、ベルは金属のガントレットに似た防具に包まれた戦士の拳が剣の腹をたたくのを見る。

そしてベルの剣はあっさりとベルの手を離れ飛んで消えた、黒い戦士の目は驚きに見開かれる、相手の意図が読めなかったからだ。


ベルは戦士の左腕を掴むと逆立ちするように立ち上がった、そのまま黒い戦士の頭を越えて背後に回り込む、黒い戦士は瞬時に反応すると右手の拳でベルが突き出した隠し武器のダガーをブロックし跳ね飛ばした。

衝撃で精霊力が白い光に変わり飛び散る。


今度は戦士の右の手首をベルが掴む、そして聖霊拳の技を駆使し腕をひねると戦士の態勢を崩しにかかった、それに反応した戦士は岩山の様に耐えた。

今度はベルの目が驚きに見開かれた。


「軽い!!」

黒き戦士はせせら笑う、次の瞬間黒い戦士の顔から嘲笑が消えた。


背後から恐るべき聖霊力の荒れ狂う嵐が異界の音楽の衝撃波と化し襲いかかってきたからだ。

ベルは腕を離すと戦士の胴に絡みついた、聖霊拳の組技を駆使しうごきを止めにかかる。

四肢を絡ませて剛力で戦士の動きを止めた、ベルはコッキーの衝撃波を黒い戦士の身体を盾にして防ごうとしていた。

その瞬間だった戦士の足が拘束を強引にお仕切りベルを蹴り上げて強引に引きはがした、その力はベルの想定を遥かに上回る。

そこにコッキーのホルンが放つ衝撃波が遅いかかる、ベルにしつこくからまれたせいで完全に回避する事ができなかった。

その音を聞いただけで女魔術師テヘペロが前後不覚に陥った事があった、その力は魔術が作り出した結界を破壊する事すらできる。

黒い戦士はその力をまともに喰らい硬直した、周囲に散開していた黒装束の戦士たちが次々に倒れる。


黒い戦士はよろめき片膝をついた、そして彼の全身から密度の高い瘴気が吹き出し荒れ狂い始める。

彼は闇に包まれその瞳は真紅に輝き暗黒の闇の底で輝いた。


ベルは姿勢を低く構え得ると精霊力を総て解放した、身体中の骨と肉が軋み彼女の瞳は煌々と黄金に輝き始めた。


コッキーは古びたホルンを奏でながら動き始める、その間も黒い戦士に幽界の音楽を捧げ続ける。

その直後にベルがその力を爆発させた、彼女の姿が消え彼女のいた場所からまっすぐ黒き戦士が作り出した暗黒に向かって巨大な力が奔った。


その瞬間巨大な力がぶつかりあい爆発が生まれ混沌とした光と闇が荒れ狂う。

その嵐が消えた時、森に幅3メートル程の滑らかな溝が森に刻まれていた、その長さは数十メートルあった、近くにいた黒い戦士の部下達はその爆発に巻き込まれ、不幸な者は消滅させられた。

そして黒い戦士の姿も消えていた。


「ベルさんどコですかー」

コッキーは慌ててベルを探す。


「ここにいる!あいつは?」

ベルの叫び声が遠くから聞こえてくる、地面に穿たれた巨大な溝の反対側の底から黒い滑らかな毛並みに包まれたベルが立ち上がった。


「あいつは消えましたヨ」

ベルが木漏れ日を浴びながら白銀に輝くコッキーの元に駆け戻ってくる、周囲に黒装束の者達が倒れているが黒き戦士の姿はなかった。


「勝ったのです?」

ベルは耳を立てると周囲に気を配った。

「うんヤツの気配が消えている・・・あっ軍隊が東から近づいて来る、戻ろう」

「わかりました戻るのデス」

「そうだ武器を回収しなくちゃ」

二人は急いで武器を拾い集めると、素晴らしい速度で南西の方角に向かって走り去った。






二人は少し離れた場所の茂みに飛び込むと変異を解く、精霊力が光の粒子となって飛び散った。


「さあ、早く服を着よう」

「裸で走りまわるのは恥ずかしいのですよベルさん」

「服がボロボロになる、それとも裸でお屋敷までもどりたい?」

「わかったのですよ!」

最後にコッキは怒った様に吐き捨てた、二人は急いで隠してあった背嚢から肌着と服を取り出していそいで身につける。


ベルは適当に身繕いをすると背嚢を背負った、腰の帯剣ベルにグラディウスを佩き、背中に精霊変性物質の剣を背負う。

「これからどうしますベルさん?」

ベルはコッキーの質問に即答した。

「昨日感じた異変を調べる、たしかラーゼとコースタードの間に砦があるんだっけ?」

「ありますけど行ったことないですよ」

「それでもいいよ、じゃあ行こう」

二人は先程の戦場と接近してくる部隊を大きく迂回するとさらに北を目指した。




化け物達の戦場に動く者の姿はなかった、コッキーのホルンの力で全員が戦闘不能になっていたのだ。

黒装束の戦士達は地に伏している。


陽炎のように揺らぎが生まれ森の樹々が水面に写った影のようにゆらめく。


「奴らの手のうちがわかった、がヤベエなありゃ」

苦笑する黒き戦士の声がどこともなく聞こえてくる。

その陽炎の中から太い片腕が飛び出した、そして続いてもう片方の腕が飛び出した。

まるで穴から這い出るように黒き戦士の魁偉な頭が飛び出した、そして周囲を観察すると軽く笑う。

「トドメを刺していかなかったか、甘いな子供だからか・・・まあいい」


そしてその陽炎の中から男の全身が現れると地面に降り立つ。

そして少し近くに倒れている男の背中の黒い背嚢を確認すると苦笑いを浮かべた。


「あれに気づかなかったか、さてと手下共を起こさなきゃな」

面倒くさそうに手近な戦士の脇腹に軽く蹴りを入れた。





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