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真夜中のデート

戦乱のテレーゼの中で繁栄を誇っていたハイネにふたたび戦火が迫ろうとしていた、テレーゼ各地から出稼ぎに来ていた人夫達と市内で学んでいた学生が街から去り活気を失ってしまった。

一部の住民は親戚や知人の(ツテ)を頼り万が一に備えて家族だけでもとハイネから逃した者も多い、おかげで夜の繁華街は死んだように寂れてしまった、篝火(カガリビ)や魔術道具の光も減って街は暗闇の中に沈んでいる。

そんなハイネの建物の屋根の上を飛び跳ねてゆく二つの影があった、彼らは屋根から屋根と軽々と跳んでゆく。


先頭を進むのは使用人のドレスをひるがえしながら華麗にとぶドロシー、その後ろからコステロが追いかける、彼はまだ魔界の力の使い方に馴染んでいない、どこかまだ動きがぎこちなかった。

ドロシーがドレスをひるがえしクルリと半回転してコステロを待つ、やがて同じ屋根の上に彼も着地する。


「ひさしぶり、こんなの・・・」

彼女はドレスの裾をつまんで軽く持ち上げた。

「なあ、いつも霧になっているんだろ?ドロシー」


「そう、かぜになるのがすき、そのままながれていきたい」

「まってくれよ、お前の着ているものを集めるのは俺はいやだぜ?」

それにドロシーは少し恥ずかしげに微笑んだ。


「しかしおまえは平気だよな、すっぱだかでも」

「よるの世界だから、だれもみているものなんていない」

「でもよ誰かが見ているかもしれないぜ?」

コステロがニヤニヤと笑う。

「それがいいのよ・・・」

ドロシーは妖しく笑うと真紅の血の色をした長い舌で唇をクルリと舐めた。

その瞬間彼女の邪悪な吸血鬼の本性があらわになる。

それを愛おしそうにコステロは見つめている。


「たまにはこうして夜の散歩でもしようぜ?」

「うん」

ドロシーはその(タオヤカ)やかな腕をコステロの腕にからめた、彼を見上げる彼女はどこか少女じみている。

遥か北にオレンジ色に照らしだされたハイネ城の姿がいつもよりくっきりと見える、しばらく二人はハイネの暗い夜景をそのまま見下ろしていた。


「まちがくらい」

ふとドロシーがつぶやいた。

「戦が近いからな」

「グディムカルはまけてしまえ」


それを聞いたコステロが破顔した。

「ああ、ついに言いやがったか、いつか言い出すと思っていたぜ」

「そうなの?エルヴィス」

「お前が北の導師やセザールを嫌っているのを知っているからな」

「めいわく?」


「いいや、ハイネ評議会がグディムカルの皇弟派を支援していたのは知っているだろ、俺は皇太子派の領域にソムニの樹脂を大量に流していたのさ、おかげで奴らに目の敵にされている」

コステロは嘲り笑った、ドロシーは小首をかしげる。

ソムニの樹脂は禁制品で聖霊教会も悪魔の実として厳しく禁止していた、だがテレーゼの治安の悪い南西地方でなかば公然と栽培されている、一部の聖霊教会が栽培に関わっていると噂が耐えない。

「なら反対しないわけね?」


「ああ反対しない、だが聖霊教会を忘れないでくれよ、聖霊教国が異教徒の侵略に脅かされてる、俺たちはそういう形に持って行こうとしているんだ、闇妖精姫が前面にでてきたら逆にこっちが聖戦を布告されちまうぜ」

エルヴィスは苦笑した。


「せいれいきょうかいが敵になったら拳の聖人を送り込んでくる・・・」

「拳の聖人が気になるか?ドロシー」

ドロシーは何も言わずにうなずくだけだ、それにコステロは複雑そうな顔をした。

「スザンナやたいちょうのまごむすめがまたきたらどうしよう」

ドロシーは困ったように柳眉(リュウビ)のはしを下げた。


「拳の聖人は聖霊教会の破魔部隊に属している、聖戦ともなれば軍隊が乗り込んで来るぜ、どのみち聖戦は避けられないがな」

だがコステロはそこで話題を変えてしまった。


「ねえハイネも疑われているでしょ?」

「ああ間違いねえな、俺たちが死霊術を放置していると睨んでいるはずだ、巡見使を送り込んで来るぐらいだ、だがよここの聖霊教会もたいがい腐っているから強く出れないんだぜ、はは」


エルヴィスは朗らかに笑った、だがすぐに真顔になる。

「おまえが(マツリゴト)に興味を示すとはな」


「わたしをなんだとおもっているの?エルヴィス」

「本能と欲望、あとは武術と魔術が好きじゃないか?」


エルヴィスは楽しげだ、すこしむくれたドロシーの額を指で突いた。

「さあ帰ろう、お前はゲストハウスに帰るか?俺のところに戻るか」

コステロはドロシーの顔を覗き込む、それにドロシーはかぶりをふった。

「ポーラに帰るといって出てきた」


「そうかわかった、また散歩しようぜ」

ドロシーは微笑んで軽く手をふると一気に姿を消した、消えたわけではない凄まじい加速で跳んだだけだ、その動きをコステロの超人的な視力は捉えていた。


コステロはやれやれと言いたげに笑うと彼の姿も屋根の上から消える、後は少し湿ったぬるい風が吹き抜けるだけだった。





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