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メトジェフの裏切り

メトジェフは肌寒さを感じて目を覚ました、硬い何かの上で寝ていたらしいその不快感が眠りから意識を呼びしたのだ。

意識がしっかりしてくると、倉庫の屋根の上で寝ている自分に気づいた。

「クソ!!こんなところで寝入るとは・・・」

だがそこまで言って何か重要な事を忘れている様な気がしてきた。


「何だ?何か夢を観ていた?何だ思い出せん!!」

自分が眠りに落ちる前に何かがあったはずだ、そんな気がするのだが何も思い出せない。


「いや、こんな事はしておれん、奴らはハイネの中か近くに隠れ潜んでいるはずだ、奴らの居場所を突き止める」

そのそも大事故の現場に戻ってきたのもホンザと奴らの手がかりを見つける為だ、屋根の上に座り込みメトジェフはどんな小さな事でも良いから思い出そうとつとめた。


すると死霊術師のリズとジンバー商会の連絡員のマティアスの二人を思い出す、ウスノロの死霊術師の女とあの無法者は今は行方不明になっている、あの二人は化け物共に一度誘拐された事があった。

そしてマティアスはあの無知蒙昧な無法者『赤髭団』との繋役を務めていた、二人について調べようと思い立ったがすでに『死霊のダンス』が消滅している事に気づいて力が抜ける。

『赤髭団』は奴らの仲間の蛇女と戦い大損害を被った、だが彼らから有益な情報など期待できない。


さらに行方不明のままの中位魔術師のオットーを思い出す、あの若造も未だに行方不明のままだ。

彼の失跡の原因に関して彼らとの関係を囁かれていたのだ。


「たしかマティアスが連れてきた火精霊術師の女がいたな、いい女だったがオットーの目つきが普通では無かったのう、たしか名前は・・・クソだめだ記録はギルドと共に消えてしまったわ!」

思わず両手で石ふき屋根を叩いた。

「俺は上位の死霊術師だぞ、何か手があるはずだ!!そうだ奴らに縁のある品があれば、思い出すんだ!」

そこでメトジェフは必死に何か手がかりを思い出そうとする。


「ジンバー商会がセナ村の屋敷を接収した時に奴らに関係のある物を接収しているはずだ、そこからたぐれないか?

いやまてそれができるならすでにやっているはずだ!クソッ」


そこでメトジェフはほかに必死に何か手がかりを思い出そうとした。

その瞬間の事だった、メトジェフの心臓が跳ね上がる、背後から感じるとてつもない重圧。

空気が重くなりその重圧がメトジェフの魂を押しつぶそうとしている、その力は奈落の恐怖と絶望に満ちていた。

何かとてつもない物が背後に存在している。


「ふむ、それができるなら私がやっている、やつらはエンを断つ為にせいれい教会にほうかするれんちゅう、あとちせいれいじゅつしがいる事をわすれた?まじゅつ陣地にはいられるとついせきじゅつがとどかない」

その声は透明な美しい女性の声だ、だが舌足らずな子供の様な口調と話の内容がかけ離れていた。


メトジェフはこれに似た力をよく知っていた、師であるセザールの放つ気に似ている、だがそれよりも遥かに生々しい闇の命の躍動を感じさせる。

メトジェフの全身から冷や汗が吹き出した、意思の力を振り絞り背後を振り返る、身体が観たくないと拒否するがそれを意思で押し通した。


だがそこにいたのは予想に反していた。


二人の人物が立っていた、一人は高級使用人の制服に身を包んだ壮絶なまでに美しい若い女性、顔色が不自然なまでに白く青みがかかっている、短い黒髪で少しぽっちゃりした唇は血のように赤く、その瞳は真紅に輝いている。

もう一人は派手な豪華なスーツを纏った壮年の男だ、真夜中にかかわらず金縁の遮光眼鏡をかけている、どこか人を馬鹿にしたような笑みが無精髭にかこまれた口に浮かべていた。

その女性の真紅の瞳にメトジェフは魅入られかけてそして気付いた。


「もしや真紅の淑女様!?」


メトジェフもコステロ商会の奥に秘蔵された怪物の噂は聞いている、これはハイネの極一部の者しか知ることができない秘密だ。

豪華な真紅のドレスに身を包んだ絶世の美貌の持ち主で、ある者は闇妖精ではないかと噂していた。

だがメトジェフは彼女の姿を見た事が無かった、それに目の前の女性は真紅のドレスに身を包んではいない、だがこの威圧とその瞳の真紅の輝きから真紅の淑女を連想したのだ。


そして隣にいる男は誰だ?そう思った直後にその男の正体を思いついてしまった。

「あ、貴方はコステロ会長」


「なあ、こいつが先生のお土産か?」

金縁の遮光眼鏡の男はメトジェフを無視して隣の美女に話しかける。


「そうみたい、せっかく休んでいたのに・・・こいつれいとうミイラの弟子」

「でどうしたい?すきにしていいんだぜ」

金縁の遮光眼鏡の男はたのしそうに笑っている、そしてこの男も尋常では無い力に満ちていた。

コステロ会長の正体を考察していると真紅の淑女がつぶやいた。


「かんがえがある」

彼女は考えを纏めるためか僅かに考え込んだ、そしてメトジェフを真っ直ぐに見つめる。

真紅の瞳の中に赤い昏い炎が灯ると陽炎の様に翳ろう、それを見つめていると飲み込まれるように意識が浮遊した。


真紅の淑女が一歩メトジェフに近づいた、メトジェフは思わず身をそらす、だが背後は屋根の下だ。

「わたしはドロシー、わたしに使えなさい」

「あ、しかし・・・」


「あなたは、れいとうミイラからひょうかされていない、それが真実」

恐ろしい美貌がメトジェフに近づいた。

「れいとうミイラ?」

やっと冷凍ミイラがメトジェフの師セザール=バシュレを指していると理解できた。

そしてこの女はセザールをまったく恐れていない、むしろ馬鹿にしていると理解できた、不思議な気持ちがメトジェフの中で生まれた、師を崇拝し恐れない存在が目の前にいるのだから。


「レンキンジュツとしれいじゅつで永遠をてにいれようとしたおとこ、ひやさないとくさってしまう」

恐ろしい美貌の魔物が少女の様に微笑む、いや小さく吹いた。

それにメトジェフは魅了された。

「わたしのためにはたらくの、そうしたらホントウの永遠をあげる」


メトジェフは急に師に対する畏怖も尊敬も薄れて行くのを感じていた、ホンザへの対抗心すら矮小な物でくだらない事の様に感じ始めていた。

師の呪縛から解放され心の重荷が消える、心が解き放たれ解放される高揚を感じていた。

なぜ長い間師に縛られれいたのだ?だが過ぎ去った時は戻らない。


「ああ、そうだ永遠があればすべて取り戻せるぞ、あの日に戻れる」

メトジェフは思わず叫んでいた。


「なに?」

真紅の淑女が小首を傾げた、メトジェフは遂に心に決めた。


「あ、貴女に使えます、真紅の淑女様!」

真紅の淑女は花が恥じらうように微笑んだ、するとどこか子供じみて見える。


「いったわね、先生のせいやくはぜったい、あと私の名をよぶことはきんしする、シンクのしゅくじょとよぶように!」

するとコステロ会長が朗らかに笑った。

「そういう事だぜメトジェフ、お前はこれからドロシーの為に働くんだ」


半分夢をみるようにメトジェフは頷く事しかできなかった、ここで逆らったとしても破滅がまっている、どこか醒めたままのメトジェフの理性はそう結論を出していた。







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