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アマリア魔術学院の幻覚

メトジェフの頬に明るい光があたりメトジェフは目を覚ました。

窓から差し込む光が顔に当たっている、傷だらけの木の机の上で寝ていた事に気づいた、それにあたりが少し騒がしい。

慌てて頭を上げてまわりを見渡すと半円形の広い部屋の中にいた、正面の巨大な黒板を取り囲む様に半円形に長机と椅子が並んでいる。

その輪の列は外側に行くほど僅かに高くなっていた、そして黒板の前の一際高い位置に正方形の小さな机が設置されていた。


そして所々に若い学生達が小さな集団を作って雑談に興じていた。

彼らの学生達の制服に見覚えがあった、わすれもしないアマリア魔術学院の制服だ、メトジェフは驚いて思わず立ち上がる。

この大きな部屋は学院の講義室だ記憶にある、ここは間違いなく思い出深いアマリア魔術学院の大講義室だった。

慌てて窓の外を見ると遠くにゲーラの城壁と建物の屋根が見える。


これで自分がどこにいるか解ったが、謎はむしろ深まった、アマリア魔術学院は40年以上も昔に打ち捨てられて廃墟になっているはずだ。

だがこの学院の校舎は整備され、多くの学生が今ここに集っている、眼の前に学園の全盛期の姿があった。

これで何が起きているのかさらに理解できなくなる。


これは夢か?メトジェフは心の中でつぶやいた。


「どうした?居眠りしていたのか?」

軽く馬鹿にするような声が聞こえてきた、それは忘れもしない忌まわしい声、振り返ると背後に背の高い学生が立っていた。

その学生の姿に記憶がある、同じ魔術師一族のホンザだ、だが異常に容姿が若く10代後半にしか見えなかった、だが間違いなくあのホンザだ。

メトジェフの混乱は更に酷くなった。


「なんだ?お前は!?」

なんとか声を絞り出した、だがその声はあまりにも若かく自分がその声に驚いてしまう。


「なっ!?」


ホンザは不審げな顔をした。

「何か変だな・・・先生、いやバシュレ教授が学院をお辞めになる事になった、さてはお前もう知っていたのか?」

メトジェフは自分の手の平を見る、まだ肌も若々しく自分の手と信じられなかった。

「おい、まて今年は何年だ?」

思わずホンザにたずねてしまう。


「テレーゼ歴435年だが?変だぞお前」

テレーゼ歴とは古テレーゼ王国の建国年を始まりとし、セクサドル時代100年を挟んでいる、帝国時代はセクサドル歴が使われ、テレーゼの再興とともに再び使用される様になった暦だ。

この年からしばらく後に後継者戦争が始まるはずだ、今はテレーゼ歴477年なので40年以上昔に戻ったと言うのであろうか?


ホンザはますます疑い深くメトジェフの顔を覗き込んでくる、メトジェフは愕然とすると同時に思い出した、お互いに気は合わなかったが、この頃は特に敵対していたわけではなかった。


ホンザは学園の生徒の中ではまずまず成績優秀だったが、学年の一番はいつも自分だった。

だがセザールがなぜかホンザに目をかけている様に感じられ、それを思い出して奥歯を噛みしめた。

だが今はまだ決裂する前の時点だ、記憶が正しければそれは半年後に起きる、我に還り心を落ち着かせ冷静になろうと努めた。


「先生が学院を辞められるのか・・・」

そう言いながらメトジェフは当時の事を思いだそうとする、セザールが退学し自分の研究機関を設立、ホンザと自分は卒業後にセザールの研究の手伝いをしながら学ぶ事になった。

やがてセザールは死霊術に手を出しアマリアから破門されテレーゼから追放された。

ホンザはセザールと袂を別ち、自分はセザールと共に北の世界にのがれそこで死霊術を修めた。


「みろアマリア様だ、いつもハイネにいらっしゃるから、こっちに御姿を見せない」

最初に気づいた生徒が大きな声を上げる、講堂にいた生徒たちがざわめき始めた、生徒たちがみな窓に集まる。


そしてホンザもさっさと窓際に行ってしまった、この男は自分の気のままに振る舞うそれは昔から変わらない、そしてメトジェフにとって重要な何かがこいつにとって大した価値が無いかの様に振る舞うのだ。

それがいつも鼻についたものだ。


メトジェフも高名な精霊魔女アマリアの容姿をすっかり忘れていた、興味を感じて窓際に向かった。

すると豪奢な護衛付き馬車から威厳に満ちた初老の女性の魔術師が降り立つところだ、学院本館の玄関に向かって歩んで行くのが見える。

彼女は玉虫色に光り輝くローブに身を包んでいた、年齢は50歳程に見えるがすでに150年は生きている、知られる限り最強最大の生ける伝説と呼ばれる精霊術の超人だ。

極高位精霊術を行使し魔術道具の製作において空前絶後とその名を世界に轟かせている。

白銀の髪に日に焼けた肌の色、若い頃はたいそう美しかったと言われている、彼女の穏やかな顔は気品と深い知性を感じさせる。

彼女は100年近くほとんど老いていないと言われていた、人々はそれを大精霊の加護と考えていたが。


師のセザールは彼女の高弟だが、こうして見下ろすとアマリアの方が師のセザールより若く見えた。

そのためいつのまにか年齢が逆転していると彼を知る者に言われていた。


メトジェフは今更のように思い出した、この頃から師が時間が無いことに焦り初めていた事を、自分が師を崇拝するあまり、ひたすら師に近づこうとするあまり、当時は師の事も自分の事も良く見えていなかったのだ。


『セザールは死を恐れ、偉大なる精霊魔女に近づく事もできずに消える事に耐えられないのさ』

ホンザがそう吐き捨ててテレーゼから消えたあの日の事を思い出した。


それから間もなく禁忌に触れた者としてテレーゼを追われ、命がけで北の地に逃げる事になる。

その混乱の中でホンザの言葉を忘れていたのだ、なぜかそれを今になって思い出した。


だが自分は40年前に戻ったのか?これは夢か幻覚なのかわからない、指先に感じる傷だらけの机の木肌、窓の外に広がる学院の森、そしてテレーゼの青い空。

総てが現実としか思えなかった。


そうしている間にアマリアは学院の本館の正面ホールに入って行ってしまった。




その時あたりが急に暗くなった、何もない見えない暗黒の中、自分が今立っているのか寝ているのかもわからなかった。


『死霊術にそまった者の方がやはり扱い安いね、だがこれ以上は危険みたいだね』

その闇の奥から声が木霊する。


『でも精霊魔女アマリアの姿を知る事ができたよ、セザール=バシュレの人間だった頃の姿も、君との接触は有意義だったありがとう、さてエルヴィス君達の為にもお土産を残しておくかな』

アンソニー先生は古い友人たちに良いお土産が残せたと純粋に喜んでいた、それが彼の言葉から伝わってくる。

メトジェフの意識はそのまま薄れて行った。




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