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二人だけの昏い夢

エルヴィス=コステロはドロシーが飛び去った後、豪華なリビングでソファーに深く腰掛けて最近エスタニアで流行りだした煙草を楽しんでいた。

煙草はコステロ商会がソムニに次ぐ第二の柱とすべく全力を投じている商材だ、未だに試行錯誤の最中で商品の形も定まってはいない。

商品の感想を石板に書き込みながら注文をつけた、それが終わると金の酒盃に口をつけてから深く息をはく。


ふと何かを感じ広いテラスを眺める、テラスとリビングを隔てるのはガラス張りの透明な壁だ、空は雲が垂れ込め星も月も無く暗かった、魔術道具の淡い灯りの中に古風なテレーゼ様式の広い空中庭園が浮かび上がる。

各地から持ち込まれた珍しい観葉植物、並べられた瀟洒(ショウシャ)なテーブルと椅子がその光の中で淡く輝く。


するとガラス張りの壁に影が射した、それは巨大なコウモリの羽の形をしていた。

闇妖精姫がバルコニーの中央にいつのまにか立っていた、だが背後からの魔術道具の光で彼女の美しい身体の形をした影しか見えなかった。

コステロは不敵に笑うとそれをくつろぎながら眺めている。

巨大なコウモリの羽が崩壊し消えると同時に巨大なコウモリの羽の影も消えた、やがて人影がリビングに近づいてくる。

真鍮(シンチュウ)枠のガラス扉が音も無く開くとその人影がリビングに入ってくる。


そして・・・


「ただいま」


その影がささやいた、コステロの眼の前にアラバスター人形の様な美しき闇妖精姫が立っていた。


「よお魔神の眷属とあってきたのか?」

コステロの気やすげな態度の質問にドロシーは小さくうなずく。

「戦ったのか?」

ドロシーはそれにまた小さくうなずいた。


「あいつはわたしを知っていた、私を憎んでいた、決着はつけていない」

「なんだって?お前と何があったんだ?」

コステロは少し驚くとタバコの火を水晶の灰皿に押し付けて消した、そして背を伸ばすとドロシーを見上げる。


「アンナプルナで私と出会ったみたい、私はおばえていない・・・」

「アンナプルナだと!?ああ奴の仲間か、北の導師がからんでいるならありえる話だ」

コステロは小さく歯ぎしりをすると拳をテーブルに叩きつける、分厚い黒檀(コクタン)のテーブルが軋む、コステロの遮光眼鏡越しの瞳は赤黒い光を帯びた。


「新月だったな、それで引き分けたのか?」

ドロシーは顔を横にふったので、コステロは不審げな顔をした。


「エルヴィス、本気で戦ったらアイツラがほんとうにてきになってしまう、だからあなたのきもちをききたくて」

「おまえを護るため、お前がしたいように、やりたいようにできるように俺は組織をつくった、何度も話しただろ?やりたいように殺ればいいんだぜ?」

ドロシーは嬉しそうに微笑んだ。

「うれしい、わたしはたのしいこと、おもしろいこと、きもちのよいことができればよかったの、そしてへいわにのんびりくらしたかった、でもいまはあなたのやりたいことをてつだいたい」


コステロは苦く笑った。暗い部屋に彼の白い歯の色が浮かび上がる。

「お前がその姿になった時、どこまでも二人で進んで行こうと決めた、それが俺の望みだ、それ以外の事はどうでも良くなってしまった、だがなそれだけじゃあ生きていけねえだから組織を作ったんだ、すべて余興だ」



「わたしは今とかわらないせかいでいきたい、まかいの神々がうろつくせかいなどおもしろくない、せんせいも言っていたわ、歴史が終わってしまったら僕は失業だって」

コステロは乾いた笑いを上げた、その笑いから虚無の響きが聞こえてくる。

「先生らいしな、でもよ奴らと敵対するのか?ずいぶんと迷っていただろ?」


「エルヴィスのことがしんぱいで・・・でも今のアナタならもう少しで私とおなじになれる」

コステロは嘲る様な態度を改めた。

「確かに半端な奴らなら叩き潰せるよ、俺の中に強い力を感じる事ができる」

コステロの遮光眼鏡の奥が赤く輝いた。


「よきょうでもいい、ふたりでなにかをしてみたい、エルヴィス」

コステロは楽しそうに微笑む。

「で何をしたいんだドロシー?」


「陽の当たるせかいはこのままの方がすき、そのかわりせかいの夜をわたしたちのものにしましょう」

コステロは鼻で笑った。


「ああ、どうせおまえを護る以外に生きる目的など無かった、すべてアンナプルナの地の底に捨ててきた」

「・・・・」

「どうしたドロシー?」

「あの頃のことをおもいだしただけ・・・」

ドロシーは遠くを観るように真っ直ぐ前を見つめていた、その視線の遥か先にアンナプルナの高峰があるのだろうか。

そしてコステロを見下ろした。


「ふたりでなにかができるならたのしい」

「そうだな、おれはかまわねえぞ?」

初めてコステロは楽しげに笑った。


ドロシーはそのままコステロに覆いかぶさる様に唇をかさねる、その直後に部屋の魔術道具の照明が落ちる、そしてバルコニーを照らす灯りがガラス張りの壁からリビングの中を照らし出していた。








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