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死靈術と闇妖精姫の謎

ハイネの南の廃村に見捨てられた大きな朽ち欠けた屋敷があった、その屋敷は灯り一つ無い森の中に幽鬼の様に佇んでいる、だが現し世の実態から僅かにズレた世界に老魔術師ホンザが魔術陣地を築き上げていた。


そのズレた世界の屋敷に住人達が騒がしく流れ込んで来る。


「ただいまなのです」

ベルの背後からコッキーが誰も迎える者がいないはずの屋敷に挨拶する、ベルはコッキーの孤児院時代からの癖だと聞いた事があった、孤児院には誰かがかならずいたらしい。

コッキーの後に続く者達はさっそく戦利品を朽ち欠けた机の上にぶちまけた。


「私は何か食べる物を用意するのです」

コッキーは資料の解析が苦手なのでさっさとキッチンに行ってしまった。

資料の山を眺めたルディが口を開いた。


「魔術関係の資料はアゼルとホンザ殿にまかせる、俺とベルとアマンダはそれ以外だ」

「わかりました殿下」

アゼルはさっそく資料に手を伸ばした。

「わかった」

「それが良いですねルディガー様」

ベルとアマンダも資料に触れ、担当では無いと判断した資料をアゼル達の前に積んだ。

だがホンザはなかなか動かなかった。


「兄弟子のメトジェフとまた会ったよ、そしてセザールが術を使うところを見た、あれは極上位魔術だ」

そのホンザの一人事の様な言葉にみな手を止める。

ベルが頭を少し傾げた後で言葉を紡いだ。

「セザールと前に地下と塔で戦った事があったよね、でもあいつ大きな術を使った事がなかった」


「リズさんが言ってましたよね、メトジェフって人が死霊のダンスのマスターなんですよね?」

キッチンからコッキーの声が聞こえてくる、居間の会話が彼女に聞こえているのだ。

「そうじゃよコッキー」

ホンザがコッキーに応じてやる。

今度はアゼルが考えをまとめている間にベルが何かを思い出したように話し始めた。


「瘴気が異様に強かった、闇妖精が術を使った時より何倍も強い、あいつ闇妖精より上なのアゼル?」

「そうですね私の考えでは、効率が違うのではないかと」

「効率?」


「ええ、瘴気も精霊力も動力にすぎません、それを運動や熱に変換するのが魔術なんですよ、ベル嬢」

魔術に偏見があったせいで知識が不足しているベルは訝しげな顔をした。


『そうじゃ、残った瘴気が濃いと言うことは、それだけ無駄が多い証拠じゃ』

突然ルディの胸から下げたペンダントが話始めた、その声はベルそっくりだ、その声は精霊魔女アマリアがベルをモデルに作り上げたホムンクルスの声だ。

それを理解したベルは顔を不快げに歪ませた。


「愛娘殿戻られたか」

ルディが嬉しそうにペンダントに話しかける、最近アマリアの反応が無いので心配していたのだ。


『おぬし達が魔道師の塔から持ち帰った書籍を調べていたのじゃ、わしも知らんことが多くての熱中してしまった』

「アマリア、また僕の体を使っているのか?」

『ベルサーレよゆるせ、いろいろ研究するには木偶人形の100倍らくなんじゃ、そして肉体と精神の再融合の手がかりを掴みたいんじゃ』

ベルと同じ声が会話をするのは異様だったが、アマリアの声から多少は申し訳無いと感じている事が伝わってくる。

ベルは疲れた様に肩をすくめてから資料に手をのばした。


「やはり闇妖精姫のほうが魔術に精通しているようですねアマリア様」


ベルと代わったアゼルにいくぶん楽しそうにアマリアが答えた。

『上位の術になるほど難易度が増す、極上位ともなればその難易度は跳ね上がる、闇妖精姫が規格外なだけよ、妖精族は息を吸い吐くように魔術を行使できる、むしろあ奴が極上位を使える事が驚きよ、あれは人の身では不可能じゃ、いや奴は人を捨てていたか』


「アマリアも使えるの?」

ベルの思わぬ言葉にその場にいた者がベルを見つめた。


『あたりまえじゃ!!』

アマリアが怒った、ベルの言葉がアマリアの怒りを買ったらしい。

となりにいたアマンダがベルの耳に口をよせた。

「そんな事を言うとご気分を害されるわ、伝説の精霊魔女と呼ばれたお方よ」


『今もじゃ!!』

アマンダの囁き声を拾ったアマリアがペンダントの向こうから叫んだ、アマンダが大きな体を少しだけ縮めたのでベルはニヤリと嘲笑って舌を出す。


『見えておるわ!!』

ベルは正面にルディがいた事を思い出した、ルディの胸のエメラルドのペンダントに魔術道具の蒼い光が反射する。


「アマリアなにか解った事ある?」

ベルはすかさず会話の流れを変える。


『む、ああ、そうじゃ幾つか解った事があるぞ』

「それは何だ愛娘どの?」

ルディが前のめりになった。


『死霊術の歴史の概要じゃ、すべて興味深い知識の宝庫じゃが、儂らに深く関わりそうな事は死霊術は二千四百年前に一度復活したが滅ぼされ、それを三百年前に再び蘇えられた者がおる。

そやつが遥か東の大海の向こうから来た叡智を授けられた事を匂わせておった。

セザールはわしの最後の弟子の一人よ、死霊術の手の者があやつに接触を計ったのか、あやつは死霊術に魅入られ破門したが追手を逃れ姿をくらました。

死霊術の復活に魔術師ギルドや精霊教会も強い関心を持ち極秘に調査を始めたようじゃが、テレーゼの内戦でウヤムヤになってしまったようだ、それにわしもこのざまよ』


ルディが胸のペンダントに向かって更に話しかける。

「テレーゼの内戦は四十年前ではないか、それまで潜んでいたのだろうか?愛娘殿」

『歴史を紐解くと、北方世界の記述が殆どを占める、奴らは聖霊教や聖域神殿(サンクチュアリ)の手が届かない北の世界で力を蓄えていたに違いあるまい』

「ルディガー様、北のユールの神々の世界は、いくつにも教団が分裂し中心がございませんの、不埒なやからが潜むには適しています」

聖霊教を始め宗教に詳しいアマンダが補足した。

『アマンダの言うとおりじゃ、今グディムカル帝国が南侵してきておる、それにも警戒せよ』


ルディはそれに深くうなずいた。


「だから言ったじゃないですか『奴らを皆殺し』それがメンヤ様のお気持ちなんです!!」

キッチンから鋭いコッキーの声が響いて来た、それにみな胸をつかれた、そして不安が黒い雲の様に胸に広がる。

それはセザールの背後にいる死霊術の影と、大地母神メンヤの眷属コッキーに対する不安だった。


「セザールとグディムカル帝国が繋がっていると?」

ルディの声にアマリアがすかざす答えた。


『その可能性はあるの』


「じゃあ闇妖精は?」

ベルの質問にアマリアはしばらく押し黙った。


『闇妖精姫が人に従うとは思えぬ、じゃが奴らの指導者なのかそれに疑問を感じるのじゃ、動きが説明しがたい、わしのいたころは闇妖精姫の活動の兆候などなかった、この書籍にも書かれておらぬゆえごく最近なのではないか?』


「アマリア様のおっしゃる通り、闇妖精姫の動きは不可解です」

アゼルの声は彼の内心の困惑を伝えていた。


「魔術師ギルド連合ならば何か掴んでいるのかもしれませんね」

そのアゼルのつぶやきにアマンダが続いた。

「聖霊教会総本山も何か知っているのではないでしょうか」


だが彼らの疑問に答える事のできる者はいなかった。







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