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狂気の館

グランドマスターにして拳の聖女のアンネリーゼの脱走で混乱するディケーネ神殿、そこから遥か東の大地テレーゼ王国の王都ハイネの南の森の中に、コステロ商会の白亜のゲストハウスがあった、その二階のリビングで話題の主の闇妖精姫ドロシーは眷属の子供達とのんきにお茶を楽しんでいた。


ドロシーはあいかわらずコステロ商会お仕着せの使用人服を着ていた、残り少ない真紅のドレスを節約しているらしい、子供達はお菓子についての議論に白熱していたが、ドロシーは気だるそうにソファーに腰を深くおろしている。

そんなドロシーが独り言の様につぶやく。


「おおきなあながある、やっぱりれいとうミイラがギルドごと消したみたい」

ドロシーは分身のコウモリの目で新市街の惨状を観察していたらしい。


「そんなところにギルドがあったのね」

エルマはあまり興味がなさそうだ。

「あなたをみつけたのはかれらよ?」

「えっそうなの?忘れていたわ、でも良く思いだせない・・・」

エルマは衝撃を受けたがすぐに頭を振った。


すると何かがカチカチと鳴る音が聞こえて来る、ドロシーと子供達が音が聞こえて来る方向を見るとそこにポーラが立っていた、彼女の顔は死者の様に青ざめ歯を鳴らしていた、彼女の視線は虚ろでその瞳は恐怖で凍てついていた、闇妖精姫と子供達を見る目は絶望と恐怖で濁っている。


「ポーラ!」

慌ててドロシーが立ち上がるとポーラの前に瞬時に移動した、桁外れの身体能力のなせる技なのか魔術なのかは定かではなかった。


「ひょ」


ポーラの肺から息が抜けて奇妙な音を立てた。


「ポーラしっかりして」

ドロシーがポーラの瞳を覗き込んで強張った笑みを浮かべた、するとポーラの震えは収まり顔色もしばらくすると元に戻った。

ポーラは立ち直ると明るく微笑み力強く答える。


「お嬢様お見苦しいところをお見せしました、もうだいじょうぶで御座います」

「よかったわ」

そう呟くとドロシーも肩をなでおろした。


しばらく静かだったがエルマがこの間の悪い沈黙を破る。


「ねえ先生は旅にでたの?」

彼らの身近で先生と呼ばれる人物はアンソニー博士だけだ。

「しっているの?」

「だってコステロさんと道具で話していたでしょ?」

ドロシーは目を瞠った。


「だれかわたしのへやにはいっているとおもったら、ぬすみぎきしていたのね?」

エルマはしまったと言いたげな顔をした、だが反省の色はない。

その場の空気が凍てつく、巨大な瘴気が集まり空気が鋼の様に重くなった、そして魔術道具の照明すら点滅して暗くなる、ドロシーの真紅の瞳だけが灼熱の赤に輝き始める。


エルマが慌てるそして恐怖のあまり悲鳴を上げた。


その直後に皮の防具を鞭で叩くような乾いた音が鳴り響く、同時にエルマの姿が消えた、エルマの座っていた場所にエルマの可愛らしいドレスだけが残されていた。

マフダとヨハンが驚愕し中身の無いドレスを見詰める。


「みっかほどばつとしてカエルになりなさい、マフダせわをおねがい」

「・・・」

マフダは声が無かった、ドレスの真ん中で何かがモコモコと動いている。


「マフダ?」

マフダは初めてドロシーを見上げる、そして灼熱する真紅の瞳を見て息を飲んだ。

「ハイ」

彼女はただそう答える事しかできなかった、こんなにも激怒したドロシーを見たことがなかった、マフダは夢遊病者のように虚ろな瞳でうなずいた。


「しんげつでちからをつかいすぎた、やすみます」

ドロシーはそのままリビングから掻き消えた。




残されたマフダとヨハンが恐る恐るエルマの衣服を取り除くと、そこに大きなガマガエルが姿を現す。

「このカエル、まさかエルマなの?」

マフダはヨハンを見た、だがヨハン少年は震えるだけで何も答えようとしない。

今度は壁際に控えているポーラに助けを求める様に顔を向けた。


「エルマ様はカエルになっても可愛らしいです、さっそく玻璃の器を持ってまいります、水を入れて魚を飼う為の器です、しばらくお待ちを」

ポーラは元気いっぱいに水槽を探しに部屋から出て行ってしまった。

マフダは見てはならない何かを見てしまった様な顔をして、ポーラが消えた入り口を見詰めていた。


ソファーの上のカエルが大きな声で鳴いた。




自分の部屋に帰ったドロシーは小さな椅子に腰掛けた、その部屋は闇妖精姫の部屋とは思えないほど狭く質素だ、コステロの掌中の珠と言われる真紅の淑女の部屋としては地味すぎた。

少し裕福な庶民の若い娘のような平凡な部屋だ、読書をするのに良さげな机も金がかかっているとは思えない、壁際の棚には世界各地のアンソニー博士のお土産の品が並べられている。


そして台座だけのベッドの上に巨大な黒塗りの豪華な棺が鎮座していた。

その棺だけが異彩を放っていた。


ドロシーは棺のに近寄るとその上に優雅に腰掛けた。


そして体を震わせる。


「なんだろうさむけがした、だれかがわたしをいしきしている、せかいのりにかかわるほどのだれか」

ドロシーは深く考え込み始める、だがしばらくすると棺の上から飛び降りた。


「いまかんがえてもいみがない、しんげつのときにかんがえてもむだだわ」


その直後にドロシーの肉体が崩壊しそして緑の霧に変わった、緑の霧は棺の蓋の隙間から中に入り込むと全て中に収まってしまった。







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