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深夜の小劇

謎の爆発で新市街の一区画が消えたし、この深夜の異変でハイネは混乱状態に陥る。

大規模な火災も騒音もなかったせいで、最初は大災害が起きた事に誰も気づかなかった、しだいに状況が判明するにしたがい、新市街の繁華街の北の外れの小さな通りが消滅し、そこに巨大な竪穴が残されている事が明らかになる。


現場に到着したハイネ警備隊の兵士達が恐る恐る穴の底を覗き込んだ。


「光がとどかない、底が良く見えないぞ」

「なんだこの穴は?また魔術道具の爆発か?」

最近巨大な爆発が相次いで起きている、ハイネ評議会はすべて昔の魔術道具の事故として説明してきたせいでこのような結論になるのだ。

ハイネ警備隊は急いで現場を封鎖すると近くの生存者から事情を調べ始めた。

悪い事に新市街の炭鉱地区の西側にセクサドル軍が野営していた、そこも急に篝火以外の魔術道具の硬質な光が灯ると激しく動き始める。




ハイネ市南側のコステロ商会が占める広大な一角は新市街とは別世界の様に美しく整備されている、その北西の小さな森の中に落ち着いた佇まいの白いゲストハウスがあった。

このゲストハウスに宿泊している客はいない、だがその二階の窓に小さな光が灯っている。


「お嬢様いったいなにが起きたのでしょう?」

お嬢様ことドロシーのお気に入りの美しき使用人ポーラが魔術道具のランプを手にしてドロシーをうかがう、ドロシーは窓から西側の空を見詰めていた。


「わたしじゃない、たぶんれいとうミイラがまちのまんなかでジュツをつかった」

それに応えたのはポーラと同じ使用人服をまとったドロシーだ。


「冷凍ミイラですか?」

ポーラはその言葉の意味が理解できなかった、それにドロシーは気だるそうに答える。

「セーザール=バシュレ」

「ああ・・・評議委員の方ですね」

「そう」


騒がしい子供達の喧騒が急に生まれると部屋に近づいてくる、そこに小さな足音が幾つも混じる。


「なにかおきたの?急にいなくなるんだもの」


ドアを勢いよく開けたのはエルマだ、その後ろにマフダとヨハンの姿が続く。


「おもてにポーラがいたからいそいできたの」

ドロシーはエルマの疑問に答えた。

「はい時々お屋敷の中を見回りしております」

ポーラはエルマに微笑む。


エルマは可愛らしい仕草で辺りの気配を探る。

「騒がしいわねなんとなく力を感じるわ、何が起きたのかしらドロシー?」

「エルマわたしにもよくわからない、だから」

ドロシーの頭のてっぺんがもこもこと動き始める、ドロシーが右手をまっすぐ前に伸ばすと(タオ)やかな人指し指を伸ばす。

頭の上から小さな何かが飛び出してその指にぶら下がる、それは小さなコウモリだった。


エルマはそれを見て不審げな顔をする。

「見にいかないの?」

「きょうわちからがでない」

「あっ?新月ね?」

ドロシーはそれに頷く、窓に手をかけると金属が軋む音を立て僅かに開いた、その隙間から小さなコウモリが飛び去り夜の闇に消えた。


「さあもどりましょう」

ドロシーが催促すると子供達の姿がかき消える、ポーラが消えるのを待ってドロシーは窓を自ら閉じた。

そしてドロシーの姿も消える、後に人気の無いゲストハウスの瀟洒なリビングが残された。




ハイネ城も異変を感知した、火災も轟音も上がらなくても巨大な瘴気が動いたからだ、魔術師達はその力の奔流に飛び跳ね、すでに眠りについていた者は叩き起こされた。


ハイネ城の迎賓区画にハイネ側の一流の魔術師が控えている、セクサドル王国は自国の殿下の司令部に最低限の人材しか配置しなかった、だが王族を迎える側のハイネは最大限の配慮をしていたからだ。


その中でもテヘペロにあてがわれた部屋は最上級で、その床の上で部屋の主はだらしなく横たわっている、それをセクサドル王国の王太子殿下が見下ろしていた、芸術品の様な容姿の殿下だが、その顔はしまりなく彼の熱をおびた瞳は眠れる豊満な美女に注がれていた。

殿下は片膝をつくとしかめっ面をした、テヘペロの手から落ちて砕かれた波瑠の酒盃の破片が床に落ちていたせいだ。


「アウグスライヒ殿下、シャルロッテ様」

そこに使用人長の声が廊下から聞こえてきた、それに数人の足音が混じる。


「なんだ無粋な!?」

殿下は忌々しそうに舌打ちをする、殿下は先程の瘴気の爆発に気づいていない、魔術的感受性が無い者に瘴気の動きを感じる事はできなかった。


「夜分失礼いたします、ご無事を確認しに参りました」

使用人長の声は緊張をはらんでいる。


「お答えがなければ、非礼ながらこちらから中に入らせていただきます!」

殿下はあせった、床にシャルロッテ嬢が伸びているのだ、このままでは何と思われるかわからない。


「予は無事だ、少し待て」

そとから少し安堵した使用人長の声が聞こえてくる。

「かしこまりました」


殿下はテヘペロを抱きかかえようとしたが、殿下は普段から重いものを持った事などなかった、腰が軋むのを感じる、豊満でそれでいて筋肉も豊富な彼女は重い。

殿下はなんとかテヘペロをソファに座らせる事に成功した。


「入るが良い」

そう殿下が呼びかけると使用人長は用意していたマスターキーで鍵を開けて入って来てしまった、背後に警備兵と殿下の従者が続く。

そして彼らは眠りこけたテヘペロと床に散らばる波瑠の酒盃の破片をみとめると目を見開く、そして初老の使用人長は身動き一つしないテヘペロを見下ろしてから殿下に向き直る。


「これはいったい?」


「彼女は飲みすぎて意識を失ってしまった、ところで何事か?」

使用人長は身を正す。


「今はまだ詳しい事は判明しておりませんが、魔術師達が尋常では無い変事が起きたと警告しております、状況が明らかになるまでお部屋にお戻りくださいませ殿下」

使用人長は頭を下げると従者達も頭を下げた。


「ここは安全なのだろうな?」

普通では無い雰囲気に不安を感じたのか殿下は周囲を見回す。


「それに関して私からはお答えいたしかねます、明らかになるまでお部屋にお下がりしていただきたく存じます」

使用人長の口調が僅かな苛立ちを感じさせる、殿下は名残惜しげにテヘペロを見下ろすと従者と共に下がっていく。


「あなた達に話があります」

使用人長は壁際に立っている二人の使用人に声をかけた、だが二人は微動だにしない。

「どうしたのですか?」

その強い声で二人は急に動き出した。

「ここで何が起きたか詳しく説明してもらいます、一度部屋に下がりなさい」

二人はお互いに顔を見合わせた、その仕草が妙に人間くさい、二人は何も話さずに部屋から下がって行った。


ため息をついた使用人長はどうしようかと床に散らばる波瑠の破片とテヘペロを見下ろす、そこに新たな足音が近づいてくる。


「あのシャルロッテ様に何か?使用人長」

入り口にゼリ-が立っていた。


「貴女ですか・・・貴女にシャルロッテ様と部屋の掃除をまかせます、あと何が起きたかはわかりません、それまでは流言飛語の類を禁止します、破ればそれ相応の罰を与えますよ?」


「あの、かしこまりました」

ゼリ-は直立してから頭を下げる。

使用人長はそのまま部屋から下がって行った、最後にゼリーを背後から軽く睨む。


ゼリ-はソファで眠りこけるテヘペロを妖しい微笑みで見下ろしていた。






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