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死霊のダンスの攻略

深夜のハイネの街の空は低く垂れ込めた雲で覆われて星の光も絶えていた。


戦火の近づく新市街の歓楽街もめっきり人の姿が減り、寂しげな魔術道具の照明が寂しくなった通りをおぼろげに照らしていた。

普段は通りにいくつも屋台が並び仕事帰りの人夫達が喉と腹を満たす、今は小さな屋台が一つポツンと店を開いているだけだ。

だが残された屋台に客が集まりそこだけ賑わっていた、光が当たっている場所から酔っ払いの喚き声が聞こえてくる、通りが寂しいのでやたらと声が良く響く。


「親父これしか酒がないんかよ?」

若い煤けた作業服の男がわめいた。

「すまねえ、きつい蒸留酒しかないんだ、新しい酒が入ってこない、これが終わったら俺も店仕舞だ」

壮年の太った大柄な店主がすまなさそうに答えた。

「くそグディムカルめ!!」

客が口々に喚いた。


その騒ぎの中で店主は客の背後を幾つかの影が一瞬の間に通り過ぎるのを見た、慌ててその行先を見たが誰もいない。


「どうした親父?」


店主の態度に疑念を抱いた先程の客が声をかけてきた。

「いやな、いま誰かが通り過ぎた様な気がしたんだ」

「ん?誰もいねえよ」

他の客が笑いながら店主をはやし立てた、店主は通りの向こうを眺めながら首を傾ける。





そこからそう遠くないインチキ魔術道具屋『精霊王の息吹』の入り口の扉もすでに固く閉じられていた。

店の扉の前にべルがいた、粗末な黒ずくめの少年の様な出で立ちで長髪を焦げ茶色の布で巻いて頭の上に乗せている、そして体をしならせ柔らかな動きで扉に張りつくと扉に耳を当てる。


そしてすぐにアゼルとコッキーが待機している狭い路地に戻る。


「店の中に誰もいない、下から僅かに気配を感じる」

「ベル嬢、殿下達も準備ができた様です」

アゼルの手の平の上で小さな魔術道具が青く輝く、これは対になる道具を光らせるだけの単純で安い魔術道具だが使い方しだいで便利な人気商品だ。


「ベルさん、なんか動きがいろっぱいです・・・」

「はあ?今そんな事言っている場合か」

呆れたベルの言葉はコッキーを詰めるように厳しかった、そして彼女の顔が僅かに赤く染まっている。

「ごめんなのです・・・」

ベルはすぐに気持ちを切り替える、そしてベルを先頭に路地から通りに出るとインチキ道具屋に向かって真っ直ぐに走る。


そして急に立ち止まるとアゼルを振り返った、後ろから続くコッキーがベルにぶつかった。


「ほんとうにけ破っていいんだね?」

「先程説明した通りです」

それに対して冷静にアゼルは簡潔に答えた。

先程の打ち合わせの内容をベルは頭の中で繰り返した、魔術結界を解除する時間的な余裕がなく、あったとしても警報が敵に伝わるだろうと予想されていた事、ならば一気に魔術結界を破壊し内部の資料を奪収し破壊を行い素早く脱出する計画だ。


死霊術師ギルドの『死霊のダンス』はテレーゼ各地で仕事を行っており、魔道師の塔の馬車馬の役割を担っている、魔道師の塔から手に入れた資料は極めて価値が高いが、具体的な死の結界の手がかりは無かった、それをここで得られるかもしれない。


ベルが力を解放する、後ろにいるコッキーの眼に精霊力がベルの背中を這い登るのが見える、背骨を螺旋状に旋回しながら光が上に登り、力が頭に達した瞬間ベルの全身から力が吹き出し彼女の骨と筋肉が軋むのを感じた。

こんな近くで見たのはコッキーも初めてだった。


ベルの足が防護結界で護られた扉に突き刺さった、その力が防護結界の力を一気に削りとる、一撃で力尽きると扉は彼女の力を直接受け止める。

二撃目で扉は粉々に碎けながら店内に吹き込んだ、そのまま彼女は奥のカウンターを飛び越え狭い事務室に突入する。

そのまま隠し扉を蹴破り地下への階段を一気に飛び降りた。

あまりにもの速さに反応できなかったのか、階段の下の鉄扉の前に到達してはじめて内側で騒ぎが起きた。


「なんだ今のは!?」


扉の内側から若い男の声が聞こえた。

ベルは鉄扉に蹴りを叩き込む、鉄扉に展開された防護結界が光を放ち揺らめく、防護結界はニ度三度の打撃で力を失い、鉄の扉が理不尽なまでの力を受け止める、鉄の扉が変形し蝶番が歪みネジが吹き飛んだ。


「こっちからも来たぞ!!」

内部は混乱状態に陥っていた。





その少し前の事だ『精霊王の息吹』から少し離れた通りに大きな倉庫がある、そこは昨日ベルが潜入した倉庫で死霊術ギルド『死霊のダンス』へ通じる隠し通路があった。

その倉庫の前に大剣を背負った大柄な男性の影と長身な女性の影が現れた。

女性は体全身を包むローブを纏っていたが、フードをはらっていたので美しい形をした頭と炎の様な髪形があらわになっている。

そして少し離れたところに鍔広の三角帽子を被った小柄な影があった。


「ルディガー様、やはりわたくしが先陣を仕ります」

アマンダが一歩前に出る。

「いや俺の魔剣の方が適している、ホンザ殿をたのむ」

剣を抜き放つと倉庫の大扉の前に立った、そしてホンザを振り返った。

「ホンザ殿、メトジェフと遭遇した場合だが・・・」


「この手でケリを付けたいと思うが、もし邪魔なら気にせず対処してくれ」

ホンザは含み笑いを漏らした。


「わかったホンザ殿合図を送ってくれ」

「おお」

ホンザの手の中で何かが青白く光った。


それと同時にルディは無銘の魔剣を一閃させる、魔剣が倉庫の扉を防護結界ごと紙の様に切り裂いた、防護結界は虹の光を放ちながら霧散する。

すかざすルディが分厚い扉にケリを入れると内側に碎けながら倒れ込む。

それと同時に内部から叫び声が上がる、倉庫の奥にまだ作業員が残っていた、もう言葉はいらなかった、アマンダが瞬時に内部に突っ込むと数人いた作業員の意識を瞬時に刈り取った。


そしてルディが倉庫の床のハッチを切り裂き踏みやぶると石の階段が現れた、そのままルディを先頭に二人は階段を駆け降りた。


ホンザは慌てず倉庫の床に空いた穴を見詰めながら魔術術式の構築を始めた。




ベルが最後の鉄扉を蹴り破る、鉄扉は反対側に待機していた召喚精霊の骸骨戦士達を巻き込みながら、木製の長机を破壊し石畳みの上に騒音をたてて倒れ落ちる。

そこはかなりの広さのある部屋で、部屋の中はオレンジ色の魔術道具の灯りで照らされて、整然と大きな木の机が幾つも並んでいた。

机の上に奇妙な機材と小さな薬品棚が置かれ、ついさっきまで働いていた跡がある。

玻璃のコップから得体のしれない煙が出ている、そして部屋全体が触媒の臭いで満ちていた。


床に小さな丸椅子が幾つも転がっている、かなり慌てていたに違いない。


そして黒いローブの魔術師達と職員が部屋の隅に集まっていた。

ベルが反対側の壁に眼を向けると、階段の入り口から骸骨戦士の破片が吹きした、それに続いてルディが姿を現す。

魔術師達は逃げ場を失っていた、戦う準備をする時間がなかったこうなると魔術師はもろい。


「ギルドマスターはどこだ?」

ルディが低い声で威圧すると、何人かがお互いに顔を見合わせたが誰も答えようとしなかった。

彼らに構わずいくつか見える扉の中を改める事にした。


「奥の部屋を調べるぞ、奴は上位の死霊術師だ油断するなよ」

ルディの呼びかけにベルがうなずいた、そしてアマンダとコッキーとアゼルの三人が死霊のダンスのメンバーを監視する、ルディとベルが広間の扉を次々と破壊しながら中を改め始めた。


「どこにもいない」

ベルの叫びに部屋の片隅に集まっていた死霊術師達の中からどよめきが生まれた。


「いないだって?」

ルディ達の聴力はその中の小さな呟きを聞き逃さない。


「隠し通路から逃げたか?」

ルディがギルドマスター室に飛び込むと隠し部屋や隠し通路の入り口を探し始めた。




魔術街の北側は鍛冶屋が集まる鍛冶屋の街だ、南北に走る大通りの脇道に平凡な鍛冶屋があった、その倉庫の扉が軋みながら開く。

そこからほこりまみれの黒い魔術師のローブ姿が現れた。


「おのれ、アヤツラはセザール様が異界に放り出したはずではなかったのか?」


その声は苛立つ老人の声だ、そこに怒りと恐怖とそこから逃れる事ができた安堵が秘められていた。

「すぐに報告せねば、奴らが戻っている事を!」


「メトジェフ慌てるで無い、久ぶりよのゲーラ以来かの?」

魔術師はその場を離れようとして足を止めた、その直後に背後に忽然と魔術師の黒いローブ姿が現れる。

「貴様ホンザか?」


「逃げられるわけがなかろう、わしが土精霊術師だと忘れたか?お前が地下通路を逃げるのがまる見えだったぞ、ほほほ」

ホンザは穏やかに笑う。


「おのれ」

メトジェフの顔が真っ赤に染まった。






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