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テヘペロついにゼリーを弟子と認める

「可愛い娘じゃないか」

ゼリーが去った後で二人は宿舎に向かって庭を歩き始める、そこでオレクがふとこぼした一言でカメロはげんなりした。

オレクは数え切れない数の娘とすぐ恋に落ちてすぐに忘れてしまう。


「頭が悪いのか話が要領を得ない、味方にするのは危うい、演技ならなお(タチ)が悪い」

カメロは苦笑いを浮かべながら彼女を評した。


「凡庸な娘はあんなものだ、学も教養も無いとあんなものだぞ?」

「忘れたのか?彼女は魔術師であの女の弟子と言っていたんだぞ、まあ自称かもしれないが、お前が粉をかけて来たのはいつも下働きの娘ばかりだ」

オレクの表情が変わった。

「たしかにいろいろおかしな女だな」


「こちらの反応を確かめていた、のかもな」

「カメロお前考えすぎじゃねえのか?」

「そうかも知れない、だが気になったんだ、もう少し付き合えば解るさ」

オレクは意外そうな顔を浮かべた。

「とにかく宿舎に戻るぞカメロ、警備員に目を付けられかけてる」

庭園に配されたハイネ警備隊の兵士達が二人を見ている、二人は逃げるように庭から去った。




「あーあ、つかれたわ」

テヘペロが愚痴を言いながら自室に戻ると、そこに城付きの使用人達が控えていた、テヘペロは僅かに眉をひそめた。

プライベートに他者を立ち入らせるのが苦手だった、高貴な身分になると使用人が物同然で彼らの前では全裸でも気にならない貴婦人がいるらしい、だがテヘペロはそこまで至っていない。

そしてゼリーの姿を無意識に探したが使用人の中に見えなかった。


「あらゼリーは?」

それに責任者の初老の使用人長が応えた。


「今ここを外しておりますがすぐに戻ります、彼女は本来シャルロッテ様をお世話する役割ではございません」

「わかっているわ相談役ですもの」




「まことに失礼ながら申し上げます」

急に使用人長が態度を改めた、テヘペロは何が始まるのかと身構える。


「ゼリーはシャルロッテ様にふさわしくございません、貴方様のお役目の重要さを理解しているとは思えず、邪魔にしかならぬと判断いたします、おそれながら遠ざけていただけませんでしょうか?」

使用人長のあまりにも露骨で辛辣な評に驚かされた、そしてこの使用人長もたんなる使用人では無いとテヘペロは理解した。

そして自分は監視されている、そして籠の鳥なんだなと思い知らされた瞬間だった。

こんな事初めからわかっていたはずなのに。


テヘペロは目の前の景色が薄く赤く染まるのを感じた、頭に血がのぼる、なぜか自分の感情が抑えきれなくなった。


「余計な事いわないで!」

テヘペロは怒鳴るように叫ぶ。


テヘペロがあまりにも感情的に激しく反応したので使用人長は驚いた、テヘペロは顔を赤く染め頬の肉が僅かに震えていた。

そして体内の精霊力が巨大に膨れ上がった、慌ててテヘペロは呼吸を整え気を鎮める。


「・・・・失礼いたしました」

だが使用人長は議論する気がないのかあっさりと引き下がった。


「わたしこそ感情的になったわ、可愛い弟子を否定された様な気がしてつい」

テヘペロはぎこちなく微笑んだ。

ゼリーがテヘペロの弟子を勝手に名乗ったのは先程のパーティが初めてだ、それを言い訳にさっそく利用したが、なぜか昔からゼリーが弟子だった様な気がしてくるのだから不思議だ。


もうテヘペロは落ち着き冷静になっていた。


「そうね弟子のしつけは師匠の責任だわ、私が正します」

すると使用人の責任者は丁寧に頭を下げると他の使用人もそれにならう。

「かしこまりましたシャルロッテ様、ですがゼリーは要注意人物として報告させていただきます」

テヘペロは渋々とうなずく、確かに彼女の態度は第三者から見ても目に余る物があった、テヘペロはそれを密かに楽しんでいたが。


「私がゼリーを監督いたします」


それでこの話しは終わりになった、使用人達はパーティ用のドレスを彼女から外し、ラフなナイトドレスに着せ替えていった。

衣装はセクサドル側から供与されたか指定通りの品を急遽あつらえた一品揃いだ、使用人達は表情を変えずに任務に徹し完璧に仕事を遂行する。

それらの品々が極めて高級な物だとわかった、もともとそれを知る事ができる側にいたのだから。


テヘペロはここまで質の高い使用人達を知らなかった、有能なゼリーすら垢抜けない田舎貴族の使用人に思えてくる程だ。


かつては今の数倍の数の使用人がこの城で働いていたらしい、さすが王城の使用人ね、王家が滅んでも伝統は消えずか・・・テヘペロは心の中で一人言をつぶやいた。

最後に大きな化粧箱を残し、部屋から出る場合の注意事項を伝えると使用人達は部屋から去って行く。


一人になったテヘペロは化粧箱の中身を確認して大きなため息を吐いた。




「シャルロッテ様すみませんでした!」

背後から突然話かけられてテヘペロは電撃に打たれた様に固まる、化粧箱の蓋を閉じながらゆっくりと背後を振り返った。

そこに今にも泣き出しそうなゼリーがいる。


「貴女いたの?」

「はい途中から戻りましたが、その出にくくて・・・」

何をやっているのかとテヘペロは呆れ顔になった。


「もう・・・眼鏡かけているのね」

「アッ、外に出る時するんです、こうすると声をかけられませんから」

ゼリーは黒縁メガネを慌てて外す。

テヘペロはそのセリフに僅かに苛ついた、まるで自分がもてると自慢している様に感じたからだ。


「シャルロッテ様、ご迷惑をおかけしました、顧問団の大切なお仕事があるのにお邪魔でしたね」

「そうねわたしは気にしないけど、セクサドルの王族に接する人間に対する貴女の態度はハイネ評議会から見て邪魔でしょうねぇ、私もそこまで考えてなかったわメンドクサイわね」

「そうですよね!」

ゼリーが笑みを浮かべながら握りこぶしに力を込めた。


「ゼリーそれがいけないの!もう調子に乗らないで、あなた最近変だわ」

ゼリーは急に落ち込んだように静かになった。


「調子に乗っていたのかもしれません、王城で働けるのとシャルロッテ様のお側で働ける事が嬉しくて」

「ええー嬉しいの?」

テヘペロは幾分引き気味になったが、どこか顔がにやけている。


「なんとかシャルロッテ様の弟子にしていただきたいと思っていたんです、でもギルドの職員の立場ですし、それに私は一人なんです、なんとか火精霊術師として身を立てないと後が無いんです」

ゼリーからふざけた態度は影を潜め、テヘペロは彼女が怯える子供の様に感じられた。


「悪い点は改めますからどうかこのままお側に置いてください、ご師匠様」

「しょうがないわね、貴女を弟子にするわ」

なんとなくゼリーがテヘペロの弟子になっていたが、正式にテヘペロが認めたわけではなかった、これでゼリーは正式にテヘペロの弟子となった。


「だから生意気な態度は自重してね」

テヘペロは片目をつむる、その瞬間ゼリーはテヘペロに抱きついた。

「ありがとうございます、師匠」


「もう本当にしょうがない娘ね」

テヘペロは弟子ができて満更でもなさそうだった。






そのハイネ城の遥か北、ハイネの北の護りマルセランの街の更に北方、グディムカル帝国とテレーゼの国境を形成するグリティン山脈の麓に大軍が集結していた、その数は二万を越えている。その篝火の海の様な野営地の真ん中に、巨大な天幕があたりを睥睨していた。

その天幕こそグディムカル帝国皇帝トールヴァルド五世の御座所であり大本営だ。

その入口の両側に巨大な翼竜の大軍旗が二振り立てられていた、黒地は夜の闇に溶け、白き翼竜が篝火の中で舞っている。


その大天幕で開かれていた御前会議で朗々とした強い意思を感じさせる皇帝の声が流れた。

「明朝、大本営を防衛戦まで南進させる」

「御意に」

部隊長達は一斉に唱和した。


トールヴァルドが最前線に駒を進める断を下したのだ。

常識では最前線から半日のここに置くべきだが、命運を決する大会戦で直接指揮をとる事が多いトールヴァルドは時に最前線にその姿を表してきた。

群臣達も予期していたのか異論も無く皆頭を下げた。


そして皇帝に代わり腹心でもある副官のエメリヒ将軍が詳細を説明する。

「南方の防衛線は野戦築城が進み要塞化が進んでいる、陛下がお移りになっても問題ないと判断された、移動部隊は大本営と親衛軍五千を中核とする」

エメリヒ将軍が移動する部隊を読み上げる、それに対する質問や疑問は副官が対応するのだ。

皇帝が宣言した時にはすでに詳細まで決まっていた、どの部隊が移動するかも含めて決定事項だ。


そしてトールヴァルドが応える必要がある場合だけエメリヒが主君を窺う。


壮年の部隊長が畏怖するような目で主君を見上げている。


「そうだ、今回はお前にも機会を与えてやろう」


トールヴァルドは泰然と微笑みながら臣下を見下ろした。







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