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死霊術の歴史書から

ハイネの南の捨てられた小さな廃村に創られたホンザの魔術陣地の中は昼なのになお薄暗かった、外の世界は狂った陽光が乱舞する狭間の世界で窓の鎧戸の隙間から虹色の光が揺らめきながら射し込んでくる。


その部屋の真ん中の小さな机の周りをルディとアゼルとホンザの三人が顔を突き合わせる様に囲んでいた、机の上に大きな緑の宝石をはめ込んだペンダントが置いてある。


『この書は歴史書じゃ死霊術の歴史が綴られておる、これは今から100年ほど前に編纂された物じゃな、いくつかの原典を纏めたものだろう、ここに魔界と物質界との世界境界に生じた傷の話が書いてある』

そのペンダントが発する声は少女じみて甲高くそれでいて老けた老婆のような口調のアマリアの声だ、彼女が創り出したベルのホムンクルスの声では無かった。


「その傷により魔界との行き来が容易になっているのですねアマリア様」

一呼吸おいてからアゼルが質問を返した。


『まあそれ以外考えられぬ、死霊術の精霊召喚が容易ゆえにそんな事だろうと思っておったが、太古の世界間戦争の際に生じた傷を今から2400年前に広げた者がいたと書いてある、奴らは魔界に力の泉源を置く魔界精霊術と表現しておる、死霊術とは欺瞞の為の名称よ、聖霊教会も聖域神殿もその欺瞞(ギマン)に協力してきた』


「愛娘殿、傷を広げたのは何者なのだ?」

『ルディガーよ、大海のかなた暗黒の地より来たと書かれておる』

ホンザが息を深く吐いた。

「また海の彼方の大陸の話か、何度も大陸探査の熱狂が生まれたがそれが見つかった試しはない」


『まあ先を続けるぞ、パルティナ帝国より過去の西エスタニア世界を闇王国が滅ぼしかけた惨禍から死霊術が始まったのじゃ、時期としてほぼ合っておるな』

「しかし死霊術は聖域神殿(サンクチュアリ)に完全に滅ぼされたと聞いておりますアマリア様」


『アゼルよ300年前に再び復活したと書かれておる』

ベンチに横になって話を聞いていたベルが口を挟んだ。

「ふーん、アマリアまた暗黒の地より来たの?」

『ベルサーレのくせに鋭いの、あたりじゃ』

「なんだよ?くせにって?」

ベルの抗議を無視してアマリアは話を続ける。


『死霊術の知識と新しい技が指導者に伝えられたとある、禁忌ゆえに暗黒の地より来たりし者達に関する記録は殆ど残されておらぬ、その中に肉体の滅びを生と死の境界に留める技が伝えられたとある、指導者は永遠の時を得て遠大な計画を持って死霊術を研鑽し発展させる事ができるようになったと』

ホンザが興奮して大声を上げた。

「生と死の境界に留める技だと?まさかセザール=バシュレか?」

『落ち着けホンザよ、セザールめは50年前は人であった、お主も覚えておろう?』

「申し訳ないアマリア様、300年前に生きていた男ではなかった、ならばセザール以上の指導者が存在するのか?」

『そうなるの・・・』

「愛娘殿はその指導者に思い至る事はあるか?」

腕を組みながらルディがペンダントをのぞき込む。

『見当もつかぬ、わしも高位の魔術師を何人か知っておるが、南の死の島か北方世界か、はたまたこちらがわに潜んでいたか』


「ねえ、最近エルニアに難破船が流れ着いたって話聞いた様な気がする」

そこでベルがまた口を出してくる、その話はハイネでも噂になったが戦が迫るこの町で大きな関心を呼び起こす事もなく忘れ去られようとしていた。

「俺も聞いたぞ、いろいろあってそれどころでは無かったが」

ルディもそれに賛同した。

「殿下わたくしもです」

それにアゼルも同意する。


「ルディガーさま、アラセナではそのような噂は届いていませんでしたわ」

アマンダが当惑した様な顔をしている、そして机に歩み寄ると全員の顔をみわたした。

「エルニアの海岸に素性のわからない物が流れ付く事が良くありますの、その度に未知の大陸の噂が流れるのですが、はっきりとした証拠はありませんでした」

「アラセナに噂が届く前にこちらに立ったのだなアマンダ」

アマンダはルディを見つめてうなずいた。

「ええ、だぶんそうだと思います」


「私は海を見た事が無いのです」

それはずっと話を聞いていただけのコッキーの声だ、彼女は部屋の角の暗がりで三本脚の椅子に腰掛けている。

「一度でもいいから見てみたいですよ」


アマリアは咳払いをしてから話を続けた。

『わしも難破船を見てみたいのう、様式で何かしらわかるやもしれん、わしが懸念するのはそれが本物ならば争奪戦が始まるやもしれぬな』

「見れば未知の大陸の船かわかるのか愛娘殿?」

『ルディガーよエスタニア大陸の船かどうかはお主らでもわかろう、じゃが神話が伝える様に東に逃れた妖精族の文明の船ならば古代文明との繋がりがわかるやもしれぬ』

「しかし今ここを離れるべきなのか」

ルディの言葉には深い迷いがある、難破船の噂は祖国のエルニアの問題だ、だがそれがどの程度まで信憑性があるかわからないからだ。


「私はここに残るのです!」

コッキーの声は絶対にテレーゼから離れないと言う強い意志を感じさせる、それにみな当惑しお互い顔をみまわす、長椅子に寝ていたベルが上半身を起こしてコッキーを見つめている。



間の悪い沈黙を破るように、アマンダが立ち上がり台所に向かって歩きだす。

「ルディガー様、お茶でもいかがですか?皆様すこし休みましょう」


「アマンダたのむ」

ルディは感謝するようにアマンダに声をかけた、ベルが長椅子に座り直してルディを見つめてからアマンダの去った台所の方を見る。


「ルディ、大丈夫なのか?」

「何がだ?ああ・・・アマンダは俺が城にいた時に護衛と身の回りの世話をしてくれた、彼女はその時にいろいろ覚えたんだ、彼女の茶はなかなか旨いぞ」

「信用できる?」


「ああ、まあ大丈夫だ」

ルディが吹き出しそうに笑う。


「ベル、貴女はお茶請け無しよ」

台所からアマンダの鋭い声が聞こえてきた。

ベルは肩をすくませ立ち上がると机の近くにやってきた、そしてペンダントを真上から覗き込む。


「アマリアなぜ声が戻っているの?」

『お主の体に栄養を補給し休ませておるのじゃよ』

アマリアの声は自慢げで上機嫌だ、それを聞いたベルは思いっきり嫌そうな顔をした。






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