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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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テレーゼの光

 夕食を終えてルディ達の部屋に戻ると、カルメラからの精霊通信が入っていた、アゼルはその謎々のような通信文の解読に取り掛かる、そこにベッドの下で寝ていたエリザが目を覚ましアゼルの肩に駆け上った。


ルディは明日の旅に備え荷物の整理と確認をしながらアゼルに話しかける。

「明日はホンザ殿に挨拶をしてからこの街を出たい、彼のお蔭で大きく進展したからな」

「そうですね若旦那様」


「さて精霊通信の内容ですが『アマンダ帰る』ですね、無事に戻られたようです」

「それは良かった、後は皆が俺の方針に納得してくれれば良いのだが」


(アマンダとは誰でしょう?)

コッキーは初めて聞く女性の名前に興味を惹かれた。


「コッキー、僕たちは疲れたから早めに休ませてもらおう、部屋に行かない?」

「はい、私もとても疲れましたです」

「ベルよく休んでくれ」

「じゃあ、おやすみ二人共」

「ルディさんアゼルさんお休みです」



二人は自分たちの部屋に戻った、ベルは武器を外しベッドの枕元に置き、短剣や暗器をテーブルの上に置いた、その後で小間使いの服を脱ぎ壁の服掛けに吊す、そして簡素な寝間着に着替えた。


「そうだ汚れた服や下着はそこの袋に入れてね」

「ベルさん洗濯するのですか?」

「明日起きたら、アゼルに浄化の魔術をかけてもらうんだよ、本当は洗濯してからの方が良いみたいだけどね」

「魔法って便利ですね」

「うん、洗濯や下着を干すのに悩まなくて済むのは有り難いよね」


そしてベルはベッドに飛び込む。

「ベッドも清潔でシーツも白いね」

ベルはベッドの上で寝返りをうち仰向けになった。


「コッキーも寝巻きを買った方が良いよ」

「そうですねー、ベルさんの寝巻きかわいいですよ」

「えっ、ええ、そうかな?」

ベルは自分の寝巻き姿を慌ててチエックしはじめた。


(寝巻きがベルさんに大きすぎて合わないから可愛いのです)


「処でベルさん、アマンダさんって誰です?」

「ああ・・・そうかコッキーはアマンダと会ったこと無かったね」

「はい会ったこと無いですよ」

「僕の親戚で幼馴染なんだ、最近までリネインに来ていたんだ、もう帰ったけどね」

「そうでしたか」


「じゃあ僕は眠るよ、おやすみなさい」

「ではお休みですベルさん」

コッキーがランプの灯りを消すと、部屋が真っ暗になった、階下の酒場がまだ賑わってるようでその喧騒が良く聞こえて来た、だが疲れ切った二人はすぐに深い眠りに落ちて行った。







暗い暗い場所で女性の泣き声が聞こえる。

コッキーにはその声に覚えがあった。


「お母さん・・・どこにいるのですか?」

「貴方・・貴方・・コッキー・・どこにいるの・・・皆んなで逃げるのよ・・」


(お父さんは・・どこだっけ?)


「・・どこにもいけないのよ・・・・・」


(テレーゼから逃げるのです?)


「・・いけないのよ・・・・どこにも・・・・」


ふとコッキーは目を覚ました、すでに階下の喧騒は静まり街の火も消えている、隣のベッドでベルが静かな寝息を立てていた。


(最近つらい夢を見ている様な気がします)








ゲーラの遥か南方のド・ルージュの街の廃虚にて、エッベと不幸な八人の無法者達が焚き火を囲んでいた、すでに日も暮れて辺りは深い闇に包まれている、滅んだ街には灯り一つ無い、この焚火だけが唯一の灯りだった。


エッベは唯でさえ少ない食糧を一人で貪り食っていた、もっともそれすら男達が農家から奪略してきた物だったが、エッベには部下の食事など考える知性など残っておらず、ただ本能的な慾望と盲目的な怒りにエッベは蝕ばまれていた。

それを八人の無法者達は絶望的な表情で見守る事しかできなかった。


その時の事だ、男の一人が不意に立ち上がった。


「なんだあの光は?」

それは街を見下ろす小高い丘の上に建つド・ルージュ要塞の廃虚の一角が薄暗い緑の光に包まれていた。

男達は全員そちらを見上げた。


「なんだ、気味の悪い光だな」

「エ、エッベさんあれを見てくださいよ」

エッベはそれを無視し一人で貪り食っている。

「エッベさん聞いてくださいよ?」



そこに突然、耳慣れない(シガワ)れ声が響く、その声はとても耳障りで(カス)れ聞き取りにくかった。

「こんナところをウろついていたのカ」


焚き火の光の照り返しを浴びながら、黒いローブをまとった長身の人物が闇の中から現れる、ローブを深くかぶっていて顔は全く見えない。

その場に居た全員がその声の主を見た、それはエッベも同様だった。


「丁度良カった、実験素材ガ不足していタところダッタ」


その人物から無数の薬品が混じったような刺激臭が漂ってくる、だが無法者達はその細身の人物から発せられる圧倒的な威圧感にねじ伏せられていた。

ローブの奥底に青く燃える炎の様な二つの輝きを目撃した時、恐怖で体が動かなくなる、そして怖ろしい程の冷気が襲って来た、それは恐怖による冷や汗ではなく、その男が凍てつく冷気を纏っていたからに他ならない。

恐怖で荒れる男達の吐く息が白くなる、だがまだその様な季節ではないはずだ。


だがエッベはこの男達とは別格だった。


「貴様か?貴様かーーー!!殺してやる!!殺してやるぞー」


エッベから凄まじい(オド)が発散され怒号と共に夜の空に向って吠え猛た、これが男達から最後の気力を奪い何人かが再び失禁した。

エッベは自慢の大鉈を振りかぶりその黒いローブの男に襲いかかる。


「止まれ、と命ズル、オロカ者よ何も学ばヌのか?」


エッベの突進は突然止まり、エッベの顔から表情が失われていく、先程まで野盗達を圧倒した威圧感も狂気も消えていた。


「さテ引き上げルか」


その黒いローブの男とエッベは夜の闇に溶けるように消えていった、後には呆然と立ち尽くす野盗達だけが取り残された。




「な、何だ、今のはよ?」

「アイツがエッベを連れて行った、まあエッベが居なくなったんだ感謝しねえと」

「そりゃそうだな」

無法者達はエッベから解放された事を素直に喜ぶばかりだった。


だがある男が周囲の森と仲間たちが、薄っすらと緑の灯りに照らされてる事に気がついたのだ。


「おい、なんだありゃ!?」

一人が要塞の方角を指差す、何か巨大な緑色の光の雲の様なものが向って来る、それはしだいに自分達に向ってくる。


男達の表情は不審から恐怖へ変わりやがて表情を失った、彼らの顔は緑の光に照らされていく。

彼らは迫りくる何かを目撃した、そして理解した、それは彼らに完全なる絶望と破滅をもたらす光だと。









朝の空は快晴で雲ひとつ無かった、朝の爽やかな朝の光を浴びながら、ゲーラの西門にルディ達が集まっていた。

「おはよーおじいさん」

「爺扱いはやめんか!!」

ホンザはまだ眠そうなベルを睨んだ。


「ホンザ殿、貴方のお蔭で大きく前進できた、ありがとう」

「偶然が重なっただけじゃ、むしろあんたらのお蔭で珍しい体験ができた、魔術師冥利(ミョウリ)に尽きるわい」


「我々はアマリア魔術学院の廃虚に寄って行くつもりだ」

「そうじゃな、その方が良いかもしれぬの」


「見送り恐縮ですホンザ殿」

「おおアゼルも無事でな」

「ところで今後の事もあるので精霊通信用の符号を交換しませんか?」

「うむ、それも良いかもしれぬのう、わかった」

アゼルとホンザは精霊通信用の符号を交換しあった、これでお互いに通信が可能になる。


中央広場から西門への大通は屋台の準備で賑わい始めた、車輪付きの屋台が設置され商品が並べられていく、西門はハイネに向かう馬車や旅人で賑わい始め、ルディ達の側を次から次へと通り過ぎていく。


「ではそろそろ我々も行こうか」

「じゃあおじいちゃん、おたっしゃでー」

「人を爺扱いするんじゃないわい!!」

「ではまたおあいしましょうです」

「うむ」


『ウキッ』

石畳みの上で遊んでいたエリザがアゼルの肩の上に駆け上がる。


「お前達の前途に幸あれじゃ!!」

ベルとコッキーが振り返りながら手を振る。


「これからはいくら幸運があっても足らん事になるのう」

去っていく四人の後ろ姿に一人呟いた。


四人はハイネへ向かう道を旅立って行く、快晴の青い空が彼らの前途を祝福するものであればと、ホンザは去っていく者達を何時(イツ)までも見送っていた。






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