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シャルロッテとジェリー

ハイネの魔術師ギルドの受付の前に、美しいが少々豊かすぎる肢体を質素な魔術師のスーツで隠した女魔術師が立っている、いつもの様にギルド本館の中でトレードマークの奇妙な三角帽子を被ったままだ。

彼女は旅の上位魔術師『炎の魔女』テヘペロだ。


ギルドの受付を始めたばかりのジェリーは忙しくテヘペロに気づかない、テヘペロはそんな彼女に声をかけた。

「おはようジェリーさん」

だが彼女の声からいつものどこか作り物めいた陽気さが欠けていた、ジェリーはすぐにシャルロッテの声だと解った。


「あっ、おはようございますシャルロッテ様」

ジェリーはそのまま軽く規定通りの会釈を返した。


「いいのよ様なんて付けなくてさ」

そしてジェリーにすいと顔を寄せる、テヘペロに迫られて彼女は体を少し後ろにそらせた。

「貴女に相談があるのよ、少し時間を貸してちょうだいな、とても重要な話よ?」


「さては例のお話ですね?」

ジェリーはメガネ越しの黒い眼を光らせる、テヘペロはそれにうなずいた。

ハイネに置かれる対グディムカル連合軍の総司令部に、テヘペロがハイネ評議会から魔術顧問として派遣される件だ、もっともそれは表向きの話でそれだけでは無かったが。

「話が早くて助かるわ」


「わかりました、少しお待ちを」

ジェリーはそのままギルド事務所の扉に急ぎ足で入って行く、しばらくすると戻って来た。

「小会議室を借りました、30分だけですがお話を伺います、ここは替わりの者に任せる事になりました」

「ありがとうジェリー」

「ではいそぎましょう、時間が無いのでお茶はだせません」

「そんな事気にしないで」

軽やかな笑い声をテヘペロは立てた、そして二人は会議室に向かう。




会議室は小さな風景画が飾られているだけで何もない、壁際の小さな棚と質素だが年期の入ったテーブルとそれを囲む三本足の椅子が幾つかあるだけだ。

着席するなりテヘペロはさっそく話し始める。

「時間が無いので本題に入るわ、私が魔術師顧問としてセクサドル王国の殿下をサポートする役目を負ったのはご存知ね?」

「はいハイネ評議会の公式の発表にございましたから」

テヘペロはそれ以外の裏の役目がある事を知っていたが、ジェリーがそれを知っているのか迷う。


「評議会が私に人を付けてくれるみたいだけど、魔術師がいないのよ変だわね、あと街には知り合いも居ないし相談できる人が欲しいの、できたら貴女にサポートにまわって欲しいのよ」

ジェリーは微笑む。

「私も受付以外のお仕事をしたいと思っておりました、シャルロッテ様のお仕事に係わる事ができたらいろいろチャンスが廻って来るかもしれませんし、ですが私の一存では」

「私はジェリーを相談役にしてほしいと要求するつもり、でもその前に貴方の了解を得たくて」

「そう言うことでしたら、私はかまいません、むしろお願いいたしますシャルロッテ様」

「話が早くてたすかるわ」

テヘペロは陽気に笑う。


「ところで評議会が付けた人選に魔術師ギルドの者がいないのでしょうか?」

「魔術師ギルドの連絡役の事務員がいるけど、でも魔術師がいないのよ、あとは外交や式典の役人、マナーの煩そうなオバサンがいるわ、まあ安全の為に魔術師を減らしたいのだろうけど、あとは身の周りを世話してくれる女使用人がいるだけよ」

「そんなところでしょうか・・・許可が出ましたらお引き受けいたしますわ」

テヘペロは身を乗り出すとジェリーの手を掴んだ。

「ありがとうジェリー」


ジェリーが壁際の棚に置かれたの告時機を見た。

「シャルロッテ様はギルドマスターと打ち合わせではございませんか?」

テヘペロも釣られるように告時機を見た。


「あらもう行かなきゃ!私は行くわ」

「ここはお任せください」

テヘペロは慌てて立ち上がる、最後に手をふって会議室から出ていってしまった。


それを見送るジェリーは小首を傾ける、そして彼女のメガネの奥の瞳で鋭い眼光が煌めいた。






ハイネの魔術師ギルドはハイネ中心の大広場に面していた、巨大な円形の広場の周囲に大商会の建物が立ち並び、そしてハイネ評議会の行政を司る建物が見える、そして魔術師ギルドの古風な灰色の石造の壁と暗緑色の屋根はひときわ目立っていた。

その広場に最新の建築素材で創られた赤い瀟洒な三階建の建物がある、それは悪名高いコステロ商会の本館だが見ただけでは大商会の洒落た建物にしか見えない。


その三階にコステロ会長のプライベート区画が設けられていた、執務室に隣接したリビングと寝室があった。

その薄暗い寝室は金ピカの悪趣味な調度品で飾られている、分厚いカーテンが閉じられた部屋は黄昏時の様に暗い、小さな魔術道具の灯り一つに部屋の中はオレンジ色に照らし出された。

嫋やかな手が黄金の作り物の鷲の頭をなでた、美しく作り物めいた精緻な指が鷲の頭の手触りを楽しむ。


やがて男の声が聞こえてきた。

「ドロシー気に入ったのなら持ち帰っていいんだぞ?」

その声は楽しそうだがそれは虚無の口が開くような虚しさを感じさせた。

「可愛くない、でもハダざわりがいいのツルツル」

闇の中から壮絶なまでに美しい女性の一糸まとわぬ姿が浮かび上がる、衣擦れの音とともにワンピースのような絹の白い下着を身につけ始めた。


「帰るのか?」

「いちどかえる、今夜はほんていに行くわ、あとはおねがい」

「ああ、発掘品の横流しの件はこっちで調べるさ、しかし神の器があの中にあったとは信じられねえ」

「きたないスクラップが化けた、たぶん」

「お前の言う事が事実なら、大神殿の方にも横流しに噛んでいる奴がいるな」

「せいれいきょうかいに手下がいるの?」


「手下かよ?坊主を手下にした事ねえよ、ビジネスパートナーさ、大神殿の地下遺跡の調査に協力していただいただけさ」

「せいれいきょうかいもくさっているのね」

「何を言っているんだ、お前の為に力を集めているんだぜ?」

「ええアリガト」

真紅の淑女は感謝の気持ちがまったく感じられない謝礼を返す。


「勝手な判断で発掘品を流したとなるとしっかり絞めて置かねえとな、渡り石とやらも神の器も並の人間にはわからねえんだろ?」

「うん」

「だから流れたか」


「ところで新月が近いな?無理をするなよさすがのお前も力が落ちている」

「しんちょうにやるから」

すでにドロシーは修道女の姿に変わっていた、そして黒いサッシュのベールを降ろす。


「じゃあねエルヴィス」

「ああ外は昼だ気をつけろよ」

ドロシーは軽く手を上げて別れを告げると部屋から出ていった、外で警備していた男たちにあからさまに緊張が走る、腕利きの護衛達がドロシーを心の底から怖れていた。

やがて眼の前で扉が閉じられる。


「あの蛇娘のトランペットの出どころがこれかよ、さて責任を取らせねえとな」

コステロは苦笑いをすると呼び鈴を鳴らした、支配人のクレメンスを呼び出す為だ。






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