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アマリアのメダル

窓から外を眺めるベルそっくりなアマリアの後ろ姿にルディの心が騒いだ、心のあり方が変わると別の人間の姿に見えるのものだと感じていた。


「おぬしらがここに来たのは偶然か?」

自分の心のざわめきに気づいたか窓の外を眺めていたアマリアがそう小さくつぶやく、その言葉を聞き逃さなかった。

「それはどう言う意味だ愛娘殿」

窓の外を眺めていたアマリアが今度はゆっくりとこちらを振り向いた。


「渡り石で奴の装置が狂ったとして、転送先が偶然ここだったとは話が出来すぎておろう?」

ルディはそこで言葉が詰まった、魔術の知識は大公家の貴公子に相応しい水準を修めていやがが専門的な知識では無い。

「俺には判断できん」


「うむ、この世界は物質界、幽界、霊界、神界、魔界が存在する、それはお主も知っておろう、じゃがこれは人が上位の存在から教えられた知識と、僅かな異界帰りの者達の知識から大まかに分類したに過ぎぬ、実際は僅かにズレた世界が無数に存在するのじゃ、緻密な制御をもってしても決められた座標を結ぶのは困難」

「では偶然ではないと?」

「お主らが現れたときは驚いたが、意図的にここに通路を開いたと思っておった、じゃが話を聞くとそうではないようじゃな」

アマリアはベッドをうかいしながらこちらにやってくるとアゼルの前に立つ、そしてアゼルが抱くエリザをのぞきこんだ。

アゼルも当惑しながらアマリアを見てからエリザを見つめた。

「アマリア様はエリザが何かしたとお考えですか?」


「うーむ、やはり特に変わった気配も魔術の香りも感じぬ」

「アマリア様、彼女は賢いですが人には及びません」

「アゼルよ今まで何か奇妙な事は無かったか?」

「いいえ・・・特に何も」

アゼルが否定してから顔が一瞬こわばるのをルディは見逃さなかった。


「今のところはお主達に不利益はもたらしてはおらぬ、むしろ魔界への転送を防いでくれたようじゃな」

これはこの場にいる全員が認めるしかなかった。

「では彼女にその意思があったのでしょうか?」

「わからぬ」

アマリアは困惑してしばらく白い猿のエリザを見つめていた。


「アマリア、魔界に行ったらどうなるの?」

それをベルの声が破る、声がアマリアと同じなので一瞬混乱させられる。

それに同じ声のアマリアが答える。

「魔界は物質的な存在のまま存在できる特殊な場所じゃ、そして世界境界で囲まれた深い穴の底にあるとイメージしてくれ、行くのは比較的簡単じゃが出る事は不可能に近い、世界の理に対して罪を犯した存在が追放される場所と言われておる。

神々や闇妖精族と人もおとされたとされるが、何をしたか記録も残らず名すら削られるそうじゃ」

「牢屋みたいな場所だね」

「まあそんなところじゃな、セザールの奴でもおぬし達を倒すのは困難、あらかじめ罠を用意しておったのじゃろ」


「サンサーラ号でも魔界に行くのは無理なの?」

アマリアは首を縦に振った。

「ああ二度と戻れぬ、世界(プレイン)境界の敷居が高くそれを越える力が足りぬ、はずじゃった」

ベルはその答えに首を傾げた。

「はずじゃった?」


「アマリア様、それは死霊術の事ですね?」

アゼルはエリザをなでながら会話を継いだ。

「うむ、闇妖精が稀に現れ大きな騒動を起こしてきた、魔術師ギルド連合の中枢にいたワシはそれを知る立場にいた、世界(プレイン)境界に綻びがあると大昔に仮説が立てられたが対処のしようも無かった、それを探るのがこの船を作った目的の一つよ」

「そして死霊術の精霊召喚ですか」

「そうじゃ幽界の精霊を召喚し顕現させるのは膨大な力と危険を伴う、それは知っておろう?だが死霊術はいとも簡単にそれをやってのける」


「思い出したそんな事リズが言ってた」

それはベルが思わず口にした名前だ、リズはハイネの死霊術師ギルドの中位魔術師の女性だった、短い間とは言え共に過ごした、と言うよりルディ達に拉致監禁されていたのだが。


「あの死霊術師の娘じゃな、そういえば姿が見えぬの?」

「もう別れたよ、リズはマティアスと一緒に遠くに行った」

「テレーゼから去ったのか?死霊術師ならばテレーゼの外は生きにくかろう」

「そんな事も言ってた、だから北の世界を目指すって」

アマリアは一人で納得した様にうなずいた。

「北はいろいろ緩いからのう」

ルディはそんなアマリアの仕草を見て以前よりもアマリアの気性が良くわかるようになった気がした。


アマリアはふたたびベッドに腰を降ろすとふたたび茶をすすりはじめる。


「さてお主らもこの世界に長くおらぬほうが良い、向こうと時間の流れにむらがあるでの、これからはペンダントがあれば連絡は簡単になる、弱点はこちらからしか通路を開けることができぬ事じゃ」


「改良が必要なのですかアマリア様?」

アゼルがテーブルの上のペンダントを覗き込んだ。


「通路を開く力はこちら持ちなのじゃ、ペンダントにそれを持たせるのは厳しくての」

アマリアは悔しそうな顔をした、アゼルはその説明に納得した様子だ。


「さあ帰り道に案内するついて参れ」

アマリアは立ち上がると皆を促したそして扉から出ていく、アマンダがベッドに近寄ると手を振ってさよならの挨拶をしているのが視界の片隅に見えた。

ルディはアマリアからもらったペンダントを首から下げる。


螺旋階段の下は研究区画になっていた、上から見るとところ狭しと机と機材が並べられていた、壁際には本棚が幾つも見え小さな小部屋の扉が二つ見える。

その本棚の間にアマリアの木偶人形の姿もある。

機材の間を進んで大きな布で覆われた人の背よりも高い大きな四角い道具の前に導かれた。

ルディはこの道具に見覚えがあった。


アマリアが布を引き剥がすと、そこに鈍い銀色の板が現れえうそれは鏡に似ていた。

「さあこの前に集まれ、これでお主達を戻す」

アマリアが促すと皆それに従い集まった。


「あの、これはなんでしょうか?アマリア様」

初めて鏡を見たアマンダは当惑していた、そんなアマンダの疑問に皆が心の中で賛同した。

「うむ物質界に通路を開く道具じゃ、まだ研究中じゃがな」

「えっ!?」

皆がこの発言に驚いた。

「なんじゃその眼は?古代遺跡の底から引き上げたものよ、未だに総てが解明されたわけではない、この船の航行原理と同じで渡り石を使うのじゃよ、まあそれも研究中だがの、ははは」

アマリアはどこか自慢げに腰に手を当てて胸をそらして笑う。

その仕草がどこか幼くて、ベルの大人の優美な肢体に似つかわしくなかった。

コッキーの貌が少し厳しくなるのにルディは気づいた。


「そうじゃ!少し待て」

アマリアは急ぎ足で真っ直ぐあるテーブルに向かうと小さな道具を掴むとルディの前に戻ってきた、ベルそっくりな姿に気圧される。

「これは渡り石に反応する魔術道具じゃ、お主の様な幽界帰りは石の気配を感じるがそれ以外の者にはできぬからの」

「確かにそうだ、これは助かる愛娘殿」

アマリアが差し出した小さな魔術道具を受け取った。


「渡り石は僅かに世界に干渉する、それを検知する事ができるぞ、その上の出っ張りを押すと近くに渡り石があれば道具が薄く光る仕組みじゃ、ただし触れるほど近づける必要がある」

アマリアが差し出した手の平の上に、小さな硬貨の様な金属片が乗っている。


「それ見たことが有るような気がするです」

コッキーがアマリアの手のひらを覗き込んだ。

「思い出したのです、ゲーラの学校の跡で見ました、穴に落ちた時に拾ったコインに似ています模様が似ていますよ、でも無くしてしまいました・・・良く覚えていないのです」

コッキーは首をかしげる、それを黙って聞いていたホンザの白い長い髭がゆれた。


今度はアマリアがそれに驚いた。

「ゲーラの学校じゃと?ワシの学院じゃぞ?これと似た形式のメダルは稀に古代遺跡から見つかるのじゃが、あそこに残っていたのか?わからぬの」

しばらく悩んでいたがアマリアは我に還る。


「ルディガーよ、その装置をこれに近づけて押してみよ、触れるぐらいによせるのじゃ」

アマリアの手の平のメダルに慎重に道具を近づけると思い切って出っ張りを押した、すると装置が淡い白い光を放った。

「これで判断できる」

「ありがたい愛娘殿」

ルディはその道具をアゼルに預けようと心に決めた。



「さあお主達を物質世界に送るぞ、そこから動かぬようにな」


アマリアは離れると大きな装置に近づいた、それはセザールの部屋にあったあの装置に形が似ている。

ルディがそれを伝えようとした時に総てがゆらぎ世界が回転を始めていた。


そして気づいた時にはなだらかな夜の丘の上に立っていた、そこからハイネ城の夜景を見ることができる、煌々と篝火で照らし出される城と街を囲む旧市街の城壁、それと対称的に市街は闇に沈んでいた。


ルディは仲間の姿をすばやく確認すると、近くに全員の姿が見つかる、アマンダだけが落ち着き無く周囲を見回していた。


「還ってきたな」

ルディはおもわずつぶやく。


『成功したようじゃな』

するとペンダントがベルの声で言葉を発した。






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