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渡り石と地下遺跡

「これがセザールの部屋から持ち出せた書籍です、アマリア様」

アゼルがハイネ城の魔導師の塔で起きた一連の出来事を一通り話し終わった、そしてローブの下から装丁が古びた古書を取り出すと目の前の白いテーブルの上に置いた。


「いろいろ疑問があるがまずはそれからじゃな」


ベッドに腰掛けながら足をぶらぶらさせて話を聞いていたアマリアが立ち上がる、白いテーブルに歩み寄ってくる、ルディは未だにこのアマリアの姿になれることができない。

彼女は本を手に取り目を通しはじめる、そして次第に顔から余裕が失せて真剣な目つきで読み始めた。

そして急に我に還ると本を閉じてルディ達を見渡した。


「まだ軽く目を通しただけじゃが、古代文明が滅びた原因に触れておる、書かれた字体から複数人の手によるものだ、原典の一部を模写したものだろうが、それでもお主達はエライ物を手に入れたな」

「アマリア様それは!!」

アゼルが興奮気味に立ち上がりる、ベルはあまり興味が無いのかどこか冷ややかに氷の魔術師を眺めていた。


「古代文明の最末期、妖精族と堕落した妖精族達との戦が始まり、魔界の知識を得た妖精族達が巨大な汚れた聖域を作り出した、それを踏み台に魔界との間に巨大な通路を拓いたと前章に書いてある。

この字体は前パルテア帝国時代のものじゃよ、わしの生まれ故郷のペンタビアでは研究が盛んじゃった」

アマリアは頭を横に振った。

「物質界に顕現できぬ程の魔界の上位の神々が顕れたようじゃな、それに対抗すべく幽界や更に上位世界の神々が介入し世界が変わるほどの大戦が起きたと書いてある」

コッキーの顔が引き攣ると青ざめた、だが皆アマリアの話に気を取られ彼女の変化に気づかない。


「それ程の機密があの部屋に・・・ならばテレーゼを覆う死の結界の破壊方法もわかるのか?」

ルディが思わず呟いた、アマリアはルディにむきなおった。

「前章をすこし読み流しただけじゃ、死の結界のヒントがあるかも知れぬが調べなければ何も言えぬ、ただ何か役に立つ情報を得られるはずよ」

アマリアは別の本を手にすると開いた。


「この本にも魔術結界の残り香がある、強力な防護結界に守られておったはずじゃ、コッキーの神の器の力らじゃな?」

突然話を振られたコッキーは驚いた、そしてふるふると頭を横にふる。

「ラッパは魔神と戦った時に無くしました、これを使って結界を壊したのです」

コッキーは首からかけた古風なホルンをアマリアに見せる。

「すこし気になっていたが、それはずいぶんと昔のホルンじゃな?」

「お祭りの時に使うラッパなのです」


「ふむ、テレーゼの収穫祭で使う『大地のホルン』じゃの」

「よく知っているのですね?ベルじゃないアマリアさん」


「馬鹿にするでない、100年以上テレーゼにいたのじゃ知らいでか?まあよいもっと良く見せてくれぬか?」

「いいですよ」

コッキーはあっさりと同意するとホルンをはずしてアマリアに手渡した。

アマリアはしばらくホルンを手にして観察していたが首を傾げた。

「これは魔術道具でも精霊変性物質でもないの、それに神の器がいくつもあってもたまるか、うむ、なんの変哲も無いホルンじゃな」

アマリアはコッキーにホルン返した。

「やはりお主の力では無いのか?」


「そうだと思うのですが・・・よく解らないのです」

コッキーも自信なさげに答えたので、仕方ないと言いたげにアマリアは肩をすくめた。

「うむ、今は他の疑問が先じゃな」




アマリアはベッドの方に向き直ると腰を屈めた、ベルの碧緑のドレスに包まれた美しい尻の形があからさまになる、本物のベルの眉毛の端が上がるり口元が引き結ばれた、そして男どもを睨みつける。


「アゼル、白い猿がなぜあの場にいたのじゃ?セザールの魔術道具を狂わせた渡り石を持ち込んだのはこいつでは無いのか?」

アマリアの言葉で場の空気が凍てついた、アマリアはベッドの下を覗いていたのだ。

ルディもこれを疑問に感じていたが、あまりにも優先すべき問題が多くそれを真剣に追求する余裕は無かった。

「俺たちは棲家からかなりの速さでハイネに向かった、エリザが追いかけて追いつけるはずがない」

「そうですわねルディガー様」

アマンダもそれに同意する。


「エリザベスこっちに来なさい!」

アゼルが声をかけるとベッドの下から白い何かが飛び出して、アマリアの両足の間を抜けてアゼルの胸に飛び込んだ、アゼルはエリザを抱いて背中をなでてやる。


「だれかの荷物に紛れ込んでいたんじゃないか?」

ベルの言葉にみな納得するしか無かった。

「しかし私は荷物の確認をしましたが」

しばらく考え込んでいたアゼルが眼鏡を指で直しながら言葉をついだ。


アマリアがアゼルに抱かれているエリザに顔を近づけた、アゼルはベルそっくりな顔が迫って来たので思わず慄いて背を反らす。

「特に変哲のない猿じゃな、昔これに似た猿を見た事があるが・・・」


「エリザはエドナ猿だよ、とても小さいんだ」

ベルは自分そっくりな姿のアマリアに教えてやった、だが顔をそらしてアマリアの顔を見ようとしない。

「ふむエドナ山塊の猿か、なら見たことがあったのかもしれぬのう、まあ良い今は決めねばならぬ事がある、まずは連絡手段を回復するかの、あのペンダントと同じものを後で渡す」

「助かる愛娘どの、俺たちでは判断できぬ事も多い」


「アマリア、精霊変性物質の武器が欲しい、僕を勝手に複製したんだからそれで埋め合わせて!」

ベルが幾分怒りを秘めた声で武器をねだる。

「アマリアさん私も虫の角を無くしてしまったのです!!」

コッキーもそれに便乗するようにおねだりを始めた。


アマリアは肩を竦めて笑った。

「図々しいと言いたい所だが、お前達が強くなる事はわしの利益じゃ、言われんでもそのつもりじゃよ」

アマリアは何かに気づいたがすぐに当惑したように貌を変える。

「うむ、お主らとそっくりな図々しい連中がいたような・・・・思い出せん」


「まあ良い、後で何か見繕ってやろう」

アマリアはまたベッドに戻ると腰をかけた、そして足をプラプラさせ始める。




「さてまた話を戻すぞ、わしはこのサンサーラ号をここから動かさなければならぬ、今は渡り石の回収を進めておる」

そして腕を持ち上げ窓の外を指し示した。

「そして瘴気の竜巻が弱体化した、魔神の召喚で瘴気が大量に浪費されたせいじゃ、以前より動かしやすくなる」


「愛娘殿あとどのくらい時間がかかるのか?俺達で協力できないか?」

「ルディガー、わしはエスタニアの各地に研究所を残した、そこから遺産と共に回収を進めておる、この体を得たお陰で効率的に進める事ができる。

そこは家の様なもので危険はない、だが総て集めても船を動かすには足りぬかもしれぬ、他から集める必要があるのじゃ」

「ではその場所は?」

「ルディガーよ、儂が調べたところからあらかた回収済みじゃよ・・・」


その時アゼルが何かに気づいたように目を見開いた。

「アマリア様!我々がラーゼで見つけたダガーですが、あのダガーはご存知でしたか?」

それはラーゼの中古武器商のガラクタの中からベルが見つけた物だった、それを使用しアマリアは狭間の世界への通路を開き、そしてルディガーとアゼルをここに招いた事があった。

「うかつだった、わしの遺産が盗掘でもされたかと思っていたが、あれは儂の遺産ではない、調べたが目録にあんなダガーは無い」

「アマリア様が把握していない渡り石があると言う事ですね」

「そうなるかのう、あとは聖霊教会総本山、魔術師ギルド連合あたりが秘蔵しておるじゃろうな」


黙って話を聞いていたベルが口を開いた。

「ルディ、コッキーのトランペットの出処を調べていた時、あいつが聖霊教会の地下から出た遺品を自分の物にしていたと言っていた」

「あいつだと?たしか・・・」

ルディもそれで思い出しかけた。

「思い出しました殿下、風の精霊亭のエミルですね、コッキーのトランペットを買った店の店主ですよ」

「そうそうアゼル、そんな名前だったよ」

ベルもあの情けない魔術師の男の名を思い出した。


「なるほどのう」

アマリアは一人で納得している。

ベルはアマリアの様子に僅かに苛ついた、だがアマリアがベルを見ると顔を逸してしまう。

「ハイネの大聖霊教会の地下に古い神殿が見つかって、価値の無いガラクタがそいつに下げ渡されたみたい。

トランペットもエミルに下げ渡された、でもダガーがその中にあったかはわからない」

ベルの態度はいくぶん投げやりだ。


「なるほど、古い神殿ならばありえるぞ、世界(プレイン)間戦争の後から神は地上に現れなくなった、僅かに残された渡り石が神を降ろす場所に安置されている事は多いのじゃ、大昔にわしもそう言った遺跡から集めたたものよ」


「愛娘殿、ではハイネ大聖霊教会の地下の遺跡から出たかもしれぬのだな?」

「可能性はある、だがもう残されてはおるまいセザールめが渡り石を認識しておるならな」

「ならば奴らが渡り石を押さえている可能性があるはずだ」

「まあそうなる」


「我々が調べそれを奪い取ろう、愛娘殿は渡り石の回収とほかの場所を調べてはどうか?」

「いくつか調べたい場所があるが、サンサーラ号を物質界に戻してからになるのう、せめてこれを狭間の世界から動かすだけあれば良い」

アマリアは人差し指で周囲を指ししめす。

「儂は遺産の回収を進めよう、まだまだ価値のある魔術道具や物資が残されておる」

「了解した!」

ルディはそれに応じてから仲間たちを見渡した、とくに異論は出なかった。


「ではペンダントと精霊変性物質の武器をやろう、取ってくる」

アマリアはベッドから元気よく降りた、ルディには彼女がとても楽しげに思えた、だがアマリアは扉に向かって進もうとして立ち止まる。



「だがな、一つ心配事があるのじゃよ」

振り返ったアマリアは眉の両端を少し下げた。


「大きな戦が近い事じゃ」






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