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魔道士の塔の異変

ベルは殺到してくる死霊術の召喚精霊の群れに飛び込んだ、すでにグラディウスを左手に持ち替え、グリンプフィエルの尾の先を伸ばして鞭の様に回転させて敵を薙ぎ払った。

その鞭は黒光りする黒い金属の棒が絡み合った様な人形の戦士の盾に阻まれた、四本腕の魔界の戦士を二体相手どる事になった。

たちまち苦戦に陥る、そしてベルの体の奥深くに熱いマグマの様な力が湧き上がるのを感じる、幽界の門の向こう側から俺を出せとあの黄金の獣の眼光が覗き込んでいる。

ベルは歯を食いしばった、黒い魔獣に体と心を委ねる快楽を思い出しそれにすべて任せてしまいたい、そんな欲望に心が塗り潰される。


金属のひしゃげる音と共に、針金の戦士の盾がひしゃげてベルの目の前を飛んだ、それは骸骨の戦士を砕いて落ちる、金属の耳障りな音を立てて瘴気と化して消えた。


「ベル!!」


アマンダの透き通ったそれでいて力強い叫び声が戦いの騒音を貫き耳に届く、それがベルの心を呼びもどす、今までも何度もあった様な不思議な感覚だ。

ベルが視線を走らせアマンダを探した、彼女は聖霊拳で針金の戦士を一体破壊したところだった、彼女は拳に金属ナックルをはめていた、精霊変性物質の極めて高価な一品らしいが、それだけでこうなるのか一瞬疑問を感じる。


「ベル平常心よ」

またアマンダがこちらを見もせずに叫んだ、感覚だけでベルの異変を察知したのだろうか?


「ありがと、落ち着いた」


ベルは剛力にまかせて一体の針金戦士の盾を蹴り敵の姿勢を崩して床に倒した、石畳みに金属の盾と剣がぶつかり騒音を立てる。

その反動を利用しもう片方の戦士の盾を剣で叩くと姿勢を崩した、切りかかってきた剣を腕ごとグリンプフィエルの尾で断ち切った。

だが反撃しようとした戦士の姿勢が傾く、ベルは鞭で敵の腕と同時に片足も同時に断ち切っていた。

そこに先程崩して倒した敵が立ち上がり攻撃して来る、それを体を半回転させて首を無意識な動きで愛剣で薙ぎ払った、一瞬後悔したがグラディウスはそのまま敵の金属の首を跳ね飛ばす。

そして鞭で片足で起き上がろうとあがく敵の胴を薙ぎ払うと二つに分かれて崩壊した。


そしてベルは思わず愛剣グラディウスを見つめていた、普通の剣で切れる敵なのだろうかと。


『ハイネス、その女ノ動きを封じてイただきたい』


乱戦の中でもセザールの声はよく通った、だが乱戦と溢れかえる召喚精霊が邪魔で敵の位置はわからない、ルディもアマンダも姿が見えなかった、敵は物量戦に出ていたるしても倒しても部屋に敵が流れ込んでくる。


だがその時間は長くは無かった、目の前の骸骨戦士が粉砕され、踊るように躍動する黒き肉体が目の前に現れた、全身を飾る黄金の装飾が魔術道具の灯りを受けて輝く、魔界の死姫ソダンキュラが牙をむき出しに襲いかかってきた。


死姫は片刃の曲刀を優美に振りかざしベルに乱撃を加える、彼女の乱舞のような攻撃をギリギリで回避する、優美でいてどこか滑稽な仕草と乱れの無い腕の動きは熟達の剣士の動きだった、その動きを裏切る異常な攻撃の重さにベルは押される。

幽界の門から流れ込む力が増大し無意識にそれに対抗した、体が熱くなった砂漠で飢えた旅人が水を求める様に更に力を求める欲望が膨れ上がった。


そこに左側から砕かれた朽木の巨人の残骸が吹き飛んできた、ベルも死姫をその残骸を叩き落とすとふたたび戦いに戻る、そこにアマンダが死姫に横合いから襲いかかる。


アマンダは左手で剣を握り死姫に叩き込んだ、ベルはアマンダが剣を振るうのを久しぶりに見たので思わず戦いの最中なのに驚いた、アマンダは聖霊拳の使い手だが、もともと武術を身につけていたし暗器の使い方にも長けているのだ。

だが死姫はアマンダの攻撃を片手の曲刀で難なく受け止めてしまった、その直後にアマンダの豪拳が死姫の頭に情け容赦無く叩き込まれていた。


死姫は激しく吹き飛ばされた、もし人ならば頭の形は残っていない、ベルは内心ですくみあがった、おかげで熱い欲望が少しだけ静まる。


「ベルこいつを倒して殿下を支援するのよ!」

アマンダの叱咤で出口を見ると、無銘の魔剣でセザールが呼び出した針金の戦士と切り結ぶルディの大きな背中が見える。


「わかった!!でも手強い」

「わかるわ不浄の気の塊ですわね」

すると死姫は起き上がろうともがいていた、見ると彼女の体に緑の棘の生えた太い蔦が絡みついている、魔術陣地に隠れているホンザの魔術攻撃に間違い無かった。

そして死姫の顔は焼け爛れた様に傷ついていたが、それが見る間に再生して行く。


ベルは一気に片付けようとグリンプフェイルの鞭で死姫の胴を上から叩いた、だが死姫は上から来る鞭を両足を曲げ黒いサンダルで受ける、そこにアマンダの剛脚が襲いかかった、だが死姫は力ずくで蔦を引きちぎりながら体を捻りアマンダの破城槌並の威力を秘めた豪脚をかわした。


アマンダの足が凄まじい勢いで石畳を砕く。


『魔術陣地が探られた、長くは持たぬ!』


戦いの喧騒に満たされているのに不思議とホンザの声は良く通る。

その直後に新しい魔術道具の警報音が加わったが、それに気づいたのはセザールただ一人だ。


『バルタザール、何者かが塔に潜入したようだ、お前にここは任せる』


愕然としたバルタザールの目の前から忽然とセザールが姿を消した。


その直後にルディが大声で叫ぶ。

「ベル、壁に大穴を開けてくれ!!堀に出るぞ!!」

その警告はベル達だけでは無い、セザールにも魔術師達全員に良く届いた。


「各自備えよ、入り口を封鎖しろ浸水を止めろ!!」

なかばパニックになりかけた魔術師達の目の前で、大広間の間の入り口が鋼鉄の扉で塞がれた。

「おい、俺たちを見捨てるのか?」

動揺した魔術師が狼狽して叫ぶ。


「馬鹿者、たいした事か浸水に備えよ!」

バルタザールの言葉で冷静になった何人かはローブの中の魔術道具手を伸ばす、ある者は魔術術式を行使し始めた。

召喚精霊達は主人の盾となるべく配置を変える。


その時ベルに異変が起きた、膨大な洪水の様な精霊力が全身を満たしそれが溢れると部屋の中を満たした、魔界の召喚精霊達は不安げに騒ぎ始める。

何か軋む様な音が聞こえてくる、それはベルの骨と肉が無理やり変形し同時に再生される音だ。

アマンダも目を見開きベルを見つめる事しかできなかった、その瞳の中に怖れの気配すら浮かんでいる、魔術師達もそれを恐怖と共に見つめているだけだ。


「これが幽界の神々の眷属共の姿か?」

バルタザールが呆然として呟いた、この距離で目撃したのはこれが初めてだから。


四肢が僅かに変異し、全身が黒い艶やかな毛並みに包まれた、肉食獣のような尖った耳、彼女の黄金色の瞳は怒りに満ちている、だがまだ人らしい姿をとどめていた。


だがベルの変異が突然止まる。


「これダけ変わればデキル、やるよ」

ベルの噛み締めた口から言葉が漏れた。


そして力が溢れた、幽界の門から高密度の精霊力がベルに流れ込む、敵の魔界の精霊達から形を維持できずに崩壊して行く。

それは突然生まれた、世界が歪み虚無が生まれたのだ、石の壁に黒い穴が音も無く口を開けた、すぐに不気味な轟音と共に濁流が地下に流れ込んで来た。

アマンダが慌てて残されたグリプフィエルの鞭とグラディウスを拾う。


バルタザールの叱咤が聞こえて来る、だが部屋が濁流に飲まれその声も聞こえなくなった。


濁流の中に無数の召喚精霊の残骸が踊りしだいに消えてゆく、その中に不気味な哀れなエッべの亡骸もあったがそれを気を止める者はいなかった。


そしてルディとアマンダは暗闇の中でベルが開けた穴から城の外へと泳ぎ出した。






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