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キッティラの死せる姫君

 ハイネ城の地下施設に正面から殴り込んだルディ達の前に、敵の親玉のセザール=バシュレが強大な瘴気と共に姿を現した、かつてセザールとここで戦った事があったがその時もセザールは突然現れたのだ。


セザールはすぐに高密度に圧縮された魔術術式の構築を開始した、それが強烈な魔界の精霊力のノイズを放つ、そして高速詠唱が完結すると二体の針金の戦士『ラーバルの堕落せり真鍮人形』が現れる。

声なきどよめきが魔術師達の間から生まれた、彼らの中にセザールが戦いに臨んだ姿を見た事のある者はほとんどいない。

並の上位魔術師の数倍の速度で魔術構築を彼らの目の前で実演してみせた、驚愕するなと言っても不可能だろう。

そしてそれに続いて魔術術式がいとも簡単に成し遂げられ針金の戦士達は淡い青白い光に包まれる、それは中位の防護魔術が放つ光だ。


『何をしておる?』


セザールの底なしの軽侮を秘めた声が地下室に響き渡る。

呆然とセザールの離れ業を見ていた魔術師達が慌てて召喚精霊を呼び出しはじめた、そしてセザールはルディ達の動きを牽制する為の術式を重ねて行使しはじめた、黒い瘴気の槍や礫が連続して放たれる。


「あれ?お前の腕つながったんだ?」


ベルは攻撃魔術を回避しながら瞳を黄金色に輝かせてあざ嘲笑った。

以前この地下空間で交戦した時にセザールの腕を切り落とした事があった、ベルはどちらの腕だったかよく覚えていなかったが。

セザールは何も語らないただ二つの眼窩の鬼火の青白い炎が強く激しく冷たく燃えあがらせる。


セザールはローブの中から、白い布を取り出して無造作に石畳の上に投げ捨てた、それは優雅に舞いながら地に落ちた。

セザールは再び高密度に圧縮された魔術術式の構築を高速詠唱する、その速度は高密度で高速のはずだが時間がかかる、セザールの膨大な瘴気を食らいつくしながらそれは編まれて行く。


「なんか大きいのが来るヨ」


ベルは召喚精霊達と狂戦士と戦いながら牙をむき出しにして凶暴に笑った、その美しい美貌が凶悪な笑みに歪み可愛らしい唇を残忍な形に歪める。

そしてセザールに向かって前進したが、セザールが呼び出した新たな針金戦士の一体がそれを阻む。

針金戦士に打ち込んだ剣は戦士の盾に防がれたが手応えが悪い、巨大な松脂(マツヤニ)松脂(マツヤニ)の塊に剣を打ち込んだ様な反応に眉をひそめる。

ルディはそんなベルの様子に焦ったが、セザールの強力な針金戦士との戦いに力をそがれた。


狂戦士が前進を阻まれたベルに背後から襲いかかる、そこにアマンダが敵を放り出して横から飛び込むと狂戦士を蹴り上げた、大柄な狂戦士は天井に叩きつけられた。

その場にいた者はみな信じられない光景に目を剥いた、まさしくこの女も非常識な化け物なのだ。


「『キッティラの死して生まれし姫君ソダンキュラ』今ここに!」

だがセザールの詠唱がついに完成した。


白い布が舞い上がると見えない人にまとわりつく様に形作る、そしてやがてそれが正体を顕した。

それは一見すると人の女性に似ていた、豊満な漆黒の肉体を黄金の装飾が飾り、長い黒い髪を黄金の飾りで後ろで縛り背中に流している。

美しく力強い肉体と美貌を誇らしげに見せつける様な姿勢、そして厚めの唇から牙が頭を覗かせている、その容姿はエスタニア大陸の南に浮かぶ大きな島国の民にどこか似ていた。

あれだけの瘴気を消費したにも関わらず、一見すると普通の女性にしか見えない。

そして全身を青白い淡い光の繭で包んでいる。

両手に曲刀を握りしめ踊るかの様な足運びでくるりと回転してみせた。


「こいつは僕の方がいいみたい」

ベルは愛剣グラディウスを一閃させる。


「アゼル今だ!」

複数の召喚精霊を相手どり数を減らしていたルディが叫んだ、その直後に部屋の中に冷気が張り詰めた。


「気を付けろ水魔術だ、退避!!」

これは敵の魔術師のリーダの声だ、ベルは前にこの男と戦った事がある、たしかセザール=バシュレ魔術研究所の所長の男だ、

魔術師達が慌てて奥の部屋に雪崩込んでゆくのが見える、そして最後に召喚精霊が続こうとしたがそれは叶わなかった。


「げっ僕達を巻き込むのか?なんちゃって」

ベルが半分怒りながらも最後に舌を出した、その瞬間ベルの姿が消える、同時にルディとアマンダの姿が部屋から消えた。

そして部屋の中に猛烈な魔氷の嵐が吹き荒れた、部屋は氷と雪により白一色に包まれ、その中で破壊の力が渦巻き何かが砕かれ破壊される耳障りな音が響き渡った。

脱出した魔術師達は入り口から吹き込んでくる冷気の嵐に耐えながらそれを眺める事しかできなかった。






「セザール様はどうなった!?」

オスカーの呟きが聞こえる、それを聞いた魔術師達の間に動揺が走った。


「狼狽えるな、セザール様がこの程度で倒れたりはしない」

彼らの動揺を察したバルタザールが叱咤する。

「護衛を補充せよ、何を呆けている?」

彼らが召喚した魔界の戦士たちは大部分を失っていた、それに気づいた魔術師達は必死に手駒の召喚を始めた。

バルタザールも新たな針金の戦士を呼び出した。


すると大部屋の反対側の部屋の重い金属の扉が開く音が聞こえた、バルタザールが振り返ると針金の戦士が二体部屋に入ってくる、その後から妖艶な魔界の死姫が堂々とした足取りで入ってきた。


『私は無事だ、この程度の事デ狼狽えるな』

そして最後に地の底から響くような声と共に漆黒の黒いローブ姿の大魔術師が宙に浮いたまま大部屋に入ってくる。

そしてセザールは続けざま精霊召喚を連続して行った、針金の戦士が更に四体現れ戦士達は強化された。

それを見た魔術師達の間にどよめきが上がる、上位召喚術式を4回連続行使し、更に上位の防護術を4回連続行使したからだ。

そして自分自身に更に防護魔術を重ねがけをする。


やがて隣の部屋で荒れ狂う氷雪の嵐がやっとおさまった。




するとバルタザールの耳元でセザールの声が聞こえてきた、それはバルタザールの耳の中に仕込んだ小さな魔術道具から聞こえてくる声だ。

『もう一度奴らを押し込メ、私が奴らの魔術陣地を探査し破壊し奴らをあぶり出す、だがホンザは腐っても土の上位魔術士だ力ずくで破壊する故に巨大な力が必要だ』

するとバルタザールはその意を察してうなずいた、時間を稼げとセザールは言っている。


「敵をもう一度部屋の奥に押し込むぞ、魔術陣地を破壊する」

バルタザールは朗々とした大声で命令を下した、彼の声は上に立つもの特有の威厳と気品を感じさせる声だ。

そして最後に魔術陣地を破壊すると言う言葉に力を入れた。


なだれ込む雑兵達の向こう側に再び敵が姿を現した、計算どおりに魔術陣地から出てきた、だが白銀の蛇の少女は今だに姿を顕さない。

そして死姫ソダンキュラが妖艶な後ろ姿を見せながら悠々と部屋に入って行くのが見えた。

バルタザールは極上位死霊術に属する召喚精霊の実物を見たのはこれが初めてだった、今はそんな事を考えている場合ではないと頭の中から雑念を追い払う。


僅かな違和感を感じていたがそれは魔術陣地を破壊すればわかる事だ、意を決して自分も前に踏み出した。






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