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大地母神メンヤと大地のホルン

四人はハイネ有数の華麗な商店街を北に進んだ、やがてハイネ魔術学園の古風な緑の屋根の建物が大きく迫り学園前通りに出るとそこを左折する。


「アマンダ、この先に有名な魔術通りがある、その手前に本屋があるのだ、そこに愛娘殿の魔術道具屋があったそうだ」

「ではルディガー様はそこで怪異に巻き込まれたのですか?」

ルディは隣にいるベルをなぜか見やった。


「俺とアゼルはあの本屋の場所に見慣れぬ魔術道具屋を見つけた、あの時すでに異なる世界に踏み入れていたのかもしれん」


全員の目線が本屋に集まる、そこにあるのは古びた本屋で風情のある看板が下がっていた、街路樹にかこまれた入り口は妖精の国に繋がっていそうなどこか不思議な趣がある。



ベルはその三人に少し遅れて進んでいたが、ふと身体の左側から悪寒を感じたそして左側のほほに鳥肌が立つ。

右手が無意識に剣の柄にかかり姿勢を低めてどんな異変に対応できる様に戦いに備え左を向き直っる、そこで動きが止まったいや動けなかった。


そこにあるのは狭い街路があるだけだ、古びた様式のおとぎ話に出てきそうな店が両脇に軒を連ねている、だがその世界に色が無かった、白と灰色の小路が奥に向かって延々と伸びている、その奥は靄の中に消えて見えなかった。

そして小路の真ん中に誰かが立っている、その姿は白く霞んでいたが、長身で裾が長いドレスをまとい長い髪をした女性の影だ、どこか見覚えがあるが遠くて顔は見えなかった。


そして自分がまた異世界に紛れ込んでしまったのかと想うと身体が強ばる。


『やっとつながったか』


どこからか声が聞こえてきた、その声にも聞き覚えがある、若い女性の張りのある美しい声だ。



「ベルどうした!?」

慣れ親しんだルディの声に緊張が途切れる。


「ルディ!?」

おもわずルディを見た、そこにはいつもの学園前通りと仲間たちがいた、慌てて灰色の小路に向き直るがへんてつのない狭い裏通りがあるだけだった、両脇に連なる店もいつものハイネの裏通りに過ぎない。


ベルは気が落ち着くと今見たことを仲間たちに告げる。




今度はアマンダを『ゼザール=バシュレ記念魔術研究所』に案内する事になった、この施設は『魔導師の塔』とコステロ商会と深い関係のある機関でアマンダと情報を共有する必要があったからだ。


「ベルおまえが聞いた声は愛娘殿の声ではなかったんだな?」

ルディの質問にベルは歩きながら頭を横に振って答えた。

「アマリアの声じゃ無い、少し年上の女性の声だよ」

「カラスやヒヨコの声でも無いんだな?」

「絶対違う!」


ベルがきっぱりと否定したので、ルディは暫く考え込み始めた。

「だが聞いたことがある声だと?」

「ハッキリと言えないけどね」


ルディは軽く頭を振ってから苦笑した。

「まあ、今は考えても答えはでないか」

気持ちを切り替えると歩を早めた、ベルはまた周囲の観察を始める、通りに面した魔術学園は人の気配が絶えていた、いつものこの時間は学園の静かな森の中を生徒たちが散策していたものだ。


「我々の顔は知られている、このあたりまでだ」

ルディは道の脇によると木陰に身を寄せたのでみな街路樹を影にする事になった。


そしてアマンダが懐の魔術道具を起動させると防音障壁に包まれた。

「あの大きな煉瓦造りの建物ですねルディガー様」

アマンダの視線の先にレンガ造りの三階建ての新しい建物があった、屋根は金属の板で葺かれているようだ、錆止めに黒く塗られていた。

そして黒い鉄格子の大きな正門が見える。


「あの研究所は公然と死霊術を扱っている」

「死霊術が堂々と研究されているなんて」

アマンダは呆れるように誰ともなくつぶやいた。


「あそこも攻撃するの?」

ベルの質問にルディは頭を横に振る。

「それも考えた事もあるが、警戒を強めるだけだ、魔導師の塔を叩く」

「わかった・・・」


三人は今度はハイネの大聖霊教会を目指した、学園前通を引き返し東に向かう、魔術学園を通り過ぎるとハイネ城の内壁の前を通りすぎた、高い城の内壁が迫り圧迫感を感じる。

ベルが上を見上げるとハイネ城の四隅を占める巨大な尖塔を真下から見上げる形になった。

「見事なものですわ、東エスタニア有数の高さがあるそうですね」

アマンダも天を見上げて感心している。


「アマンダこの壁上まで昇れる?」

彼女はベルの幾分挑発的な言葉に軽く眉を震わせた。


「そうね行けるわ」

胸を軽くそらした、今のアマンダならば軽々とこなすだろうとベルにも予想がつく。


やがてハイネ城の正門前を横切ると、その反対側の礼拝殿通りと呼ばれる街路に入った、路の右側はハイネの富裕な人々の邸宅が集まる地区になっている。

その反対側は広大なハイネ大聖霊教会の敷地だ、高い石柱の壁で取り囲まれていたが、隙間から豊かな木々や整備された庭園が覗えるので圧迫感は感じない。

やがて聖霊教会の正門前に到着した。


「人が少ないね・・・」

ベルのつぶたきにルディが答える。

「戦が近いからだ、まだ門が開いていて助かった、まず礼拝殿を参拝してから女神メンヤの礼拝所に行こう」

三人はテレーゼ最大の巨大な礼拝殿に向かった、入り口の両側を護る破魔の聖人像が目に入る、壮年の逞しい男性の聖人、優美にして力強き破魔の聖女の立像だ、非常に古い時代の像と言われている。


三人は礼拝殿の入り口をくぐる、内部は薄暗い大空間で、天井近くの高窓から差し込む光が床を数か所照らし出していた。

正面に巨大な台座が見える、その上に巨大な石版に聖霊王の顔を象ったレリーフが置かれていた、数メートル四方もある分厚い巨大な石版だ。

そしてここにも台座を登る幅広の階段の両側に破魔の聖人像が置かれていた。

入り口の石像より小さな石像だがより緻密に作られた像でその姿は艶めかしく今にも動き出しそうだ。


ベルは破魔の聖人が聖霊拳の上達者をモデルにしていると言う説を思い出した、アマンダの背中を見詰めながら頭の中で彼女の服を脱がせていた、この像と似ているのだろうかと。


「ベル?何を見詰めているのかしら?」

いつのまにかニヤニヤとそれでいて怒った様な顔をしたアマンダがベルを見詰めている。

「なんでもないよ、お祈りをしたから行こうよ」

ベルは適当に誤魔化した。




三人は礼拝殿の右側の小さな口から裏庭に出た。


ベルはそこで背伸びをする、やはり礼拝で緊張したのかもしれない、昔からこういった場所が苦手だった、そこからすこし歩くと大地母神のメンヤの小さな礼拝所に着いてしまった。

女神メンヤは聖霊教に取り込まれテレーゼの大精霊となった古代の大地母神だ、今もこうしてひっそりと祀られている。

女神メンヤの礼拝所は円形に石柱が立ち並び、古風な奇妙な滑らかな丸みを帯びた屋根が乗っている、その屋根だけが古代の信仰の片鱗を今に残していた。


礼拝所の奥に大地から生えた豊満な女神の像があった、黒い石材を巧みに加工した美しい像だ、下半身は地面から突き出した小山と融合している、そして何よりも豊かな胸が目を引く。

下半身以外はとても人の姿に似ていた、だが妖艶な美貌の秀でた額に縦に第三の瞳が開き、少し厚めの唇から僅かに牙の先を覗かせている。

そして古風なホルンを抱きかかえていた、これが有名な女神メンヤの『大地のホルン』だ。


「はっきと姿を見ることは出来ませんでいたが、私が感じたお姿によく似ていますわ」

アマンダは感慨深げに呟いた。

「アマンダに見えたの?精霊力と瘴気が濃くて探知力が届かなかった」

「見えたわけじゃあないのよ、感じたお姿に似ていらした、どう説明したら良いかしら?」

アマンダは珍しく困惑している。


「ベルさきほどのホルンを」

ルディが彼女を促す。


ベルは思い出し革製のケースを開きホルンを取り出してアマンダに見せる。

そのホルンは『大地のホルン』によく似ていた、古い原始的な楽器で今も田舎の羊飼い達が使用している楽器に近い姿をしている。


「ルディガー様よく似ておりますわ、では本物が戻るまで彼女に?」

彼女とはコッキーの事だ、アマンダは彼女と語った時に僅かに顔を引き攣らせる、ベルはあの夜に変異したコッキーにアマンダはまだ心を許していないのかも知れないと察した。


「ああそのつもりだ、神の器の事など知られている事の方が少ない、むしろあのトランペットよりらしいぐらいだ」

ベルはその間にホルンを革のケースに収容してしまう。


「次はコステロ会長の邸宅だ、そしてジンバー商会に行くぞ」


三人は大地母神メンヤに礼拝を捧げると小さな礼拝所を後にする。







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