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死の結界の謎

「さあ起きるんだベル」

藁の寝床の上で薄い毛布に包まって寝ていたベルは体を揺さぶられた、ベルは慣れ親しんだ声が聞こえたと感じたがすぐに誰だか思い出せなかった、しだいに意識が戻るにつれて自分が古い屋敷にいた事を思い出す。


「なんだよルディ、もう少し寝ていたいんだけど?」

「コッキーはもう起きたぞ?」

ベルは女性に割り当てられた小さな部屋で一緒に寝ていたはずのコッキーとアマンダの姿が無いことに気づく。

突然板壁の向こう側からアマンダの裂帛の叫びが聞こえて来たので跳ね起きた。


「驚いた・・・聖霊拳の稽古かよ」

ベルは呆れて肩をすくめた。


「食事の前に馬の世話するぞ、お前も来るんだ覚えてもらう」

「エエ~わかったよもう」

そうして両手を上げて大きく口を開けてあくびをする。


「そうだ着替えるから外に出て!」

ベルはルディを部屋から押し出すと扉を閉めてしまった、寝衣を思いっきり良く脱ぎ捨て、着替えながら外にいるルディに話しかけた。


「今日は何するの?」


「ああ、ハイネの様子を探るぞ戦が近いからな、あとジンバーの様子を確認したい、そして魔導師の塔だ」

「セザールとか言う骸骨を殺る?」

「可能ならばな、だが『死の結界』について情報を集めたい、仕組みとヤツの真の目的を知らねば」

「どうやって?」

「資料を奪うのだ、アゼルとホンザ殿ならば解析できるだろう、愛娘殿の力を借りられぬのは痛いが」

「リズを攫った理由と同じだね」


「まあな、我々にとって死霊術は未知の世界なのだ」

素早く着替えを終えたベルはドアを押し開いた。


「じゃあ行こう」

ベルはそう急かすとエントランスから狂った朝の光が荒れ狂う屋敷の外に踏み出した、ルディもその後を追う。






リビングにアゼルとホンザの二人の魔術師だけが残された、二人は朝からリズが残した書籍と資料を熟読していたのだ。

少しでも多くの知識を蓄える必要があった、これらの資料もいつ処分しなければならない事になるか知れた物ではなかった。


「アゼルよ、死霊術にもいつか分野があるの」

「ホンザ殿、おっしゃる通り分類可能なようです、われわれが精霊術を便宜上火風水土と分けているだけですが、死霊術も分類可能ですね」

「お主ならどう区分する?」

アゼルは少し考え込む。


「運動の制御、熱の移動、物質の反応の制御、時空への干渉、生命活動の制御でしょうか」

「そうだ、我らはそれらの要素を組み合わせて、理解しやすい型で火風水土としているが、精霊術を分解するとおヌシの述べた要素になる、死霊術も同じだな」

アゼルは賛同するように頷く。


「だが精霊術も完全に理解されたわけではない、生命活動も更に複雑な要素に分解されると主張する者達も多い、召喚術も同じじゃ、精霊宣託は上位精霊の意思なので以上の要素に当てはまらない」

「では死霊術にも火風水土があるとお考えですか?」

「わからぬの、魔界の環境に合った分類がされておるのかもしれぬわ」

「確かにそうですねホンザ殿」

アゼルはホンザの意見に感銘を受けたようだ。


「時空への干渉、これが魔術陣地の本質だ、僅かなゆらぎを作り出し、薄皮一枚隔てた現実から位相がずれた世界に通路を開く」

「やはり『死の結界』は巨大な魔術陣地でしょうかホンザ殿」

「それならば城の地下に奴がいきなり現れた事の説明ができる」

「まさか我々は奴の魔術陣地の中にいるのでしょうか?」

アゼルの言葉にホンザは驚いたがすぐに頭を横に降った。

「その可能性を考えたのか、わしは思いつきもしなかったよ」

ホンザは苦く笑った。


「テレーゼ全体を覆う程の巨大な魔術陣地が存在するのでは無いか?

やつはその中を移動する事ができる、ワシも陣地の中は転移する事ができるぞ、奴が瞬間移動の魔術を発明したとするより現実的だ」

ホンザは薬草茶を口に含み一息ついた。


「テレーゼのズレた世界は世界開闢から無数に存在している、だが本来こちらと繋がりは無いのだ、それが現実世界に干渉し人々の心を乱しているそう仮説を立てた、魔術陣地を築くに魔術術式を構築しそこに力を流す、お主も見たであろう?」

アゼルはホンザが魔術陣地を築く時に何度も見てきた。


「だがテレーゼを囲む魔術術式を築くのは非現実的だ、何か別の方法を使っておるはずじゃ、今の所は見当もつかぬ、だが魔術陣地の心臓とも言える術式ならば城の地下にあった。

あの時は理解できなかった、だがリズの資料を見る事ができたお陰で理解できる様になったよ、あれは間違いなく死霊術の魔術陣地の制御術式だ」

リズが残していった書籍を一冊手にとるとページを捲ってアゼルに見せる。


「たしかに似ていますね、ですが大きさが違います、それ以外にも相違点が有ります」

アゼルは目を輝かせて魅入られた様に見つめている。


「いやむしろ小さいぐらいだ、テレーゼを覆うほどの結界だぞ、複数の場所に同じ様な術式が存在しておるかもしれぬ、わしの仮説だがテレーゼを囲む魔術術式ではなく、点と点を繋いだものでは無いかと考え初めてのう」

「それぞれの場所の制御術式が連携していると?」

「そう言うことじゃ、まだ仮説に過ぎないがな」


「ならば一つでも破壊できればバランスが崩れますね」

「そう言う事だが、ハイネ城の地下の魔術術式いがいどこにあるのかも不明だ、そして破壊したとして何が起きるかはまったく解っておらぬ」

ホンザは疲れた様に肩を竦める。


「ホンザ殿魔術陣地をどう破壊いたしますか?」

「んっ?それはコッキーの神の器で・・・なんと!!」

「そうです行方不明ですホンザ殿・・・」

ホンザは顔をしかめながら豊かな白い髭を蓄えた顔を横に振る。

「そうであったな、あのような大型で強固な魔術術式の破壊は我らの力では不可能じゃ」


「ホンザ様、もしやまだ破壊は早いのかもしれません」

アゼルの呟きにホンザは嫌悪に顔を歪める、相手が神々であっても手駒として扱われるのは不愉快な事なのだ。


そこにルディとベルが戻ってくる、馬の世話が終わった様だ、二人の後から最後にアマンダが汗を拭いながら姿を現した。


「さあ皆さん準備ができました、取りに来てください」

キッチンから元気いっぱいのコッキーの声が響いて来る、その声はまるで耳元で叫ばれたかのように良く聞こえた。







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