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神々の戦い

「あれが大精霊なのですね」

背後からアマンダの声が聞こえてくる、彼女の声から当惑と怖れを感じる、神々の戦いは彼女程の傑物でも手にあまる。

そして彼女の言葉はどこか彼女自身に問いかけるようだ。


『あの光の輪は、そうか環状の蛇・・』

ルディの胸のペンダントから大魔術師の幼い声が流れた、偉大なる精霊魔女と呼ばれた大魔術師の声が震えていた。


「環状の蛇とはなんだ愛娘殿?」

『うむ、あのクラスの大精霊が地上に現れる事はありえない、わしもこの目で見たのは初めてじゃよ』


「ではコッキーが環状の蛇なのか?」

『いや己の身に大精霊を降ろしたのじゃろうて、やはり大地母神メンヤの巫女の血脈に連なる娘だったか』

背後の茂みをかき分ける足音が聞こえる。


「戻ったよ」


そこにベルがいた、全身木の葉をこびりつかせ、煙突掃除の少年の様な姿のベルがそこにいた、全身から倒錯的な魅力を醸し出していたが今はそれを賛嘆する余裕は無い。


「奴の足を消し飛ばしたな」

「うん、でもアレに効くか自信がなかった、あとで詳しく話す」

ベルは苦笑しながらこの世の終わりの様な怪物共の戦いに視線を移した。


やがて光の輪となった大蛇が回転を始めた、光の輪は僅かに震えながら回転速度を上げてゆく。

魔界の女神はその回転する光の輪に向かって、続けざまに攻撃魔術を放つ。

巨大な火柱が立ち上がり夜空の雲を明るく照らしだした、そして轟音と爆風が襲ってきた、

三人は瞬時に姿勢を低くしたので吹き飛ばされる事は無かった。

木々が激しくざわめいて枝がへし折れ、へし折れた木が倒れかかる、三人はそれを防ぎ身を護る。


魔界と幽界の力が周囲に満ち溢れ、普段は姿を表す事の無い無力な死霊や小さな魍魎達が力を得て姿を現す、

神々の戦いの余波に翻弄され、獣や人の白い影が逃げ惑った、彼らは死んだ獣やこの地で死んだ人々なのだろうか。

静寂に包まれていた森は、今やこの世の常が破壊された狂気の楽園と化していた。


「いかん、手の出しようが無い少し離れるぞ」


近づいてきた白い人影を反射的に魔剣で切り払って叫ぶ。

白い人影に僅かに触れられた瞬間に感じた冷たい感覚が頭を覚醒させたのだ、非現実的な状況に直面して呆けていたが、これで目を覚ました。


ベルにもアマンダもだまって従うい、彼を先頭に神々の戦いに巻き込まれぬようにその場から離脱する、アマンダがそれに続き最後にベルが続いた。

街道に戻ると破壊された馬車の車列が放棄されていた、ジンバー商会の輸送隊の者たちは逃げたのか姿が見えない。


街道に撒き散らされた荷物の山を乗り越え反対側の森に入る、背後で続けざまに大爆発が発生すると衝撃波が襲ってくる、


「伏せろ!!」

三人は地に伏せて身を守った。

耳をつんざく爆音と爆風が頭の上を通過した。


戦場を確認するが街道の向こう側の森の木々が倒され燃え上がる、だが煙と炎で何が起きているのかまったく見えない、巨大な力が荒れ狂っている。

視覚に頼れないと悟り感覚を広げた、だが分厚い高密度の精霊力と瘴気に阻まれて探知の力が及ばない。


「ダメだ、何が起きているのかわからない!」

ベルが叫ぶ彼女も探っていたのだろう、彼女の優れた探知力でも混沌の壁の向こう側を見通す事ができなかった。


「でも凄い力が集まっている、ここも危険だと思うもっと離れよう」

豪胆なベルの声が震えていた、三人は更に森の奥に向かって走り出した。


背後で白い閃光が輝いて森の木々を白く照らした、すぐに衝撃派と爆風がやって来る。


「まずい、伏せろ!!」

そう叫ぶと地面に身を伏せた、爆風と熱風を覚悟したが何も起きなかった、周囲は薄暗く静になっていた虫の鳴き声が聞こえてくる。


「殿下、ご無事でしたか、アマンダ様もベル嬢もいます」

アゼルの声が聞こえてくる、どうやらホンザの魔術陣地の中に引きずり込まれたようだ、立ち上がると目の前にアゼルとホンザがいた。

ふと目眩がしたように二人の姿が僅かに揺れた。


「大精霊の戦いの余波が魔術陣地におよんでおる、ここは現実界から浅いところに有る」

ホンザが空を見上げた、何かあるのかと釣られて空を見上げた、そこに虹色の光のカーテンが幾重にも重なって淡く輝く。


話に聞く北の極北の世界の光のカーテンの話を思い出す、また二人の姿が陽炎の様に揺らいだ。


「まずいの、力が浸透し魔術陣地の力が消耗しておるぞ」

ホンザが珍しくも動揺しはじめた。


『補強はできぬのか?』

ペンダントからアマリアの声が聞こえて来た、どこかホンザを責めるようなじれた声だ、少女の声なのでだいぶ毒が消えていたが、伝説的な魔術師の彼女にとって何もできない事がはがゆい事なのだ。

「魔力の残りに余裕が」

ホンザは己の無力に表情を歪める、朝から闇妖精と連戦でこの陣地の維持で魔力が底をつこうとしていた。


「いけません、外で何かが起きています!」

アゼルが突然叫ぶと周囲が一際明るく虹色に輝いた、吐き気がする程の目眩を感じて片膝を柔らかい地につける、そして周囲が白一色に塗りつぶされた。


まったく何も聞こえない、ルディガーは音の無い白い世界の中にたった一人でいた。






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