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魔神降臨

ルディは頭上に集まる魔界の力が次第に大きくなって行くのを感じていた、だが近くにいる姿の見えない敵に苦戦を強いられた、命の光を感知する異能が通用しないのだ、瘴気の感触を頼りに戦い続けた、剣の手応えがまるで粘り気のある油を切るようだ。

気味の悪い不確かな手応えが剣から伝わってくる、腐った肉を切るような感触に怖気をふるった。


人の形に似ているが掴みどころの無い敵に致命傷を与える事ができなかった、切れない物を切る事ができる無銘の魔剣が敵を補足する事ができなかった。

しだいに焦りだけが強くなる、更に先ほど闘った黒い針金人形が襲いかかってくる。


「くそ!!」

人形の攻撃を魔剣で受け止めて思わず吐き捨てた。


四本腕の魔界の剣士と戦いながら、姿の見えない敵を相手にしなければならなくなった。

アゼル達が気になる、敵のスーツ姿の死霊術師が鉛色のステッキを何度も地面に突き刺している、そこから精霊力の放出を感じた。


『あやつ、ホンザの魔術陣地を攻撃しておるな、さては用意していたか』


胸のペンダントが声を発した。


ルディは前後から挟み撃ちにされながら敵の攻撃を巧みに躱し反撃を加えた、まるで全身に眼があるかのように総てが見えていた、まったく敵に付入るすきを与えない。

魔剣が透明な影を引き裂き、針金の戦士の円形盾(ラウンドシールド)を歪ませる、しだいに速く重く剣の動きが加速して行った。

針金戦士の円形盾(ラウンドシールド)の端がパンケーキの様に切り裂かれ弾けとんだ、ルディは魔剣が僅かに震え熱を帯びる不思議な感覚を手のひらに感じた。


若い魔術師が瘴気の槍を放つ、それをステップを踏みながら砕いて瘴気の霧に変える、素早く動きながらニ体の召喚精霊の位置を挟み撃ちの位置からずらしながら動いた、敵の反応がしだいに遅れ始めた。


魔剣を針金の戦士の盾の一つに叩き込むと盾が歪んで金属の腕が曲がった。

返す剣で瘴気の陽炎の様な敵を連続で切り裂いた、瘴気が僅かに散るのを感じとる敵は不死身ではなかった。

粘り気のある透明な何かが敵の本体を護っていた、その防護の奥に敵の実体が隠れているに違いない、それも極めて小さい。

敵の魔術師達が何か叫んでいた、敵が次の手を繰り出す前に眼の前の敵の数を減らす。


見える物だけに捕らわれるな、そんな言葉がなぜか脳裏に浮かぶ。


それは誰の言葉だったか、昔の剣の師範の言葉だったか、いやもっと遥か昔の出来事だったか、そんな不思議な既視感を感じる。


その奇妙な感覚と共に夜の暗闇に閉ざされていた森の中が明るくなった、その不思議な光に光源は無い、光は総ての物の裏側に回り込み夜の森を隠すこと無く照らし出す。

前にもこんな光を見たことがあった、それはベルと共に異界に落ち冒険の旅をした時の事だ。


光の中に化け物の姿が浮かび上がった、朽ち果てたミイラがそこに立っていた、皮膚も骨も筋肉も萎縮し干からび切り刻まれ砕かれバラバラになっていた、肋骨の残骸に囲まれた中に青白く輝く光の球が浮かんでいる、光の球の大きさは片手で握り締める事ができる程の大きさしかなかった。

この化け物の筋肉も骨も体を支える為に何の役にも立っていなかった、透明な人の形をしたゼリーに包まれそれは動いていた。


そしてルディはその時気づいた、この光は自分から発していると。


無銘の魔剣を一閃させた、巨大な破壊力を帯びた魔剣は正確に導かれ小さな光球を正確に両断する、敵の体が瞬時に崩壊し瘴気の爆発が生まれた、森の下草の上に骨の破片がばら撒かれた。

敵の若い魔術師がまた何か叫んでいた、それはよく知った言葉のはずなのに異国の言葉の様に理解できない。

頭の中は冴えているのに妙な部分が朦朧(モウロウ)としている。


二人の魔術師は頭上の何かに意識を奪われている、今も圧力を高める頭上の脅威を確認したかった、だが針金の戦士が邪魔だ。

敵の腕を円形盾ごと無造作に粉砕し距離を稼ぐと空を確認して自分の体が固まる。



瘴気の輪の中から瘴気、いや魔界の力が洪水の様にあふれ出している、その輪の中に黒曜石よりも黒く滑らかな真の闇に照り映えた巨大な足が現れた。

比較する物が無いのでその大きさはわからない、その足は(タオ)やかで美しい女性の両足を思わせる、足首に白銀のアンクレットが輝く。


針金の戦士の攻撃を体が無意識に反応し受け止めた、今はこの木偶人形の相手をしている暇は無い。

ルディの動きが加速すると体感時間も加速した、敵の動きが鈍く感じられ自分の体も重くなるそれを力任せに駆動させる、精霊力が爆発的に流れ込み始めた、ドロリとした熱を帯びた異界の力が体の奥底から湧き上がり全身が歓喜と快感に満たされて行く。

敵が圧倒されていく、金属の腕がルディの剣の速度と力に対抗できずに魔剣に切りとばされた、そこから無銘の魔剣の連撃が針金の戦士を切り刻み崩壊させて行く。


それは一瞬の出来事にすぎない、ルディは瘴気の爆発を感じながら天空の変異に意識を戻した。


巨大な足は異界の穴からそのまま地に向かって伸びていた、やがて膝が現れ太ももが豊かな尻にくびれた優美な腰が現れた、全身黒曜石でできた巨大な彫像を思わせる、そして何も身に着けてはいない。

やがて豊かな胸が現れついに顔が現れた、神々しいまでの女神の美貌が顕現した。

その容貌は繊細でどこかおぼろげな古代遺跡のレリーフの美しき女神を思わせる。

そして銀色の長い髪を真っ直ぐ背中に流す、その髪の毛の色だけが暗黒では無い、そして彼女の両耳は闇妖精と同じ繊細で長く先が尖った形をしていた。


そしてそのアーモンドの形をした瞳は何も写してはいなかった、その双眸から虚無の深淵が覗いていた。


そして彼女は巨大な四本の腕を持っている、それぞれの腕が得体の知れない武具か道具の様な物を握り締めていた、前に闘った事がある魔界の捕縛人達の武器とどこか通じる物がある。

それぞれの腕に個性豊かな白銀のアームレットが輝く、それに見慣れない文字か装飾なのかわからない文様が刻まれていた。

彼女は魔神の様な凄まじい力と威厳と恐怖を全身に纏わせ、ついにゆっくりと地に降り立った。

背の高さは森の木々を遥かに越えている。


周囲から狂った笑い声が聞こた、わけの分からない叫びを上げて逃げ惑う者達の叫びが聞こえてくる、ジンバー商会の輸送隊の者達の精神が耐えきれずに崩壊しはじめたのだ。


『なんと、あれは魔界の大精霊じゃ!!なぜ現れる事ができる?』


アマリアの声から混乱と動揺を感じた、偉大なる精霊魔女アマリアをして信じられない異常事態が生じたのだ、そして魔神が降り立った場所はコッキーが闘っている場所に近い。


「いかん、コッキーのいる場所に近いぞ」


強大な力を持つコッキーでもあの魔神の相手をして無事で済むのか?

敵の死霊術師も変異に意識を奪われていた、ルディは二人の魔術師を今こそ倒す機会だと一気に間合いを詰めた、だが背後から異様な気配が近づいて来るのを感じ振り返りその攻撃を受け止めた。


再び剣が異界の音色を奏でる。


「なんだ?」


そして喉が渇いた、目の前にいるのは先ほど切り倒した大鉈の戦士だ、切り倒したはずの相手が立ち上がり再び襲いかかってきたのだ。

兜の面用の中から狂気を帯びた爛れた赤い瞳がルディを睨み据える。


「あの女はどこにイるんだ?」

兜の中から虚ろな声が聞こえて来る。



「あア、あそこか?あそこか!!」


その大男は森の奥で人外の戦いを繰り広げるベルのいる方向にその鉄兜を向けつぶやく。

大鉈の男はルディを放り出し奇怪な雄叫びを上げながらその森の奥に向かって突進していく、何が起きたか戸惑いルディの反応が遅れた。


「まて!!」


そう叫ぶとルディもその鉄兜の大男を追った。







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