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堕落せし黒き真鍮人形

黒い太い針金を適当に編み上げた様な金属人形の動きが変わった、一撃毎に速く強くなって行くルディの無銘の魔剣の連撃を二枚の円形盾(ラウンドシールド)で巧みに防ぎ切る。

防ぎながらその空きを突いて確実に反撃に出る、これが人ならばどれだけ優れた剣士だろうかと内心賛嘆する。

これほど優れた戦士を異界から召喚できるのか、ルディは壮年の鋭い目つきの魔術師の紳士を戦いながら一瞥した。


突然黒竜が大気を震わせ咆哮を上げた、直感的に危険を感じ瞬時に大きく後ろに跳ねた、自分でも理解できない無意識の動きだ、その直後に瘴気の奔流が針金の戦士ごと飲み込んで目の前を流れる。

周囲の木も草も土も腐るように溶けていった、その激流の中で戦士の姿も消えていく、そして巻き上がる瘴気の嵐の向こう側から巨大な黒い岩を矢じりの形に削った様な何かが飛翔してくる。

体をかわしながら魔剣でそれを砕いた、魔剣でこれが砕けるか試してみたのだ、死霊術の術式ならばこれから何度もお目にかかる事になる。


「これが通じるなら恐れる事は無い」


霧散する瘴気を感じ愛剣の柄を握りしめ思わず言葉がこぼれた、そして黒竜が次の攻撃を放つ前に召喚者を潰さなければならないと気を取り直す、ルディは若い死霊術を睨みつけた。


ふたたび黒竜のいる方向から瘴気の収束を感じその瞬間力を解放し前に出る。

大柄な若い死霊術の足元から青々とした蔦が現れて足に絡みついた、これはホンザの攻撃だった、若い魔術師の目が見開かれた、壮年の男の鋭い怒声が上がった。

更に右側で馴染み深いアゼルの精霊力が爆発し轟音が轟いた、そして黒竜の瘴気が乱れた。


足を踏み込みルディの長大な魔剣が神速で男に振り下ろされる、だが剣は突然現れた巨大な丸太に阻まれその体に深く食い込んだ。


慌てて愛剣を引き抜き後ろに跳ね距離をはかると新たな敵を確認した、それは丸太を組み合わせて造った巨大な木の人形だ、それと前にも闘った事がある。

その召喚者をすばやく探した、三人目の術者ならば面倒な事になる、それは混乱する輸送隊の方からやって来る、二人の黒いローブ姿が骸骨戦士に守られながらこちらにやってきた。


「無様じゃなオスカー」


嘲笑をはらんだ耳障りな老人の声だ、だが巨大な木人形に遮られて大柄な魔術師の顔は見えない。

再び大きな瘴気の収束が始まると同時に精霊力の収束を感じる、アゼルとホンザも闘っているのだ。

その向こうの森の中でアマンダと敵の聖霊拳の拳士が人外の戦いを繰り広げていた、とても近づく気になれない、どうやらアマンダが優勢に闘っているようだ。


目の前の木の人形に連撃を加えようと振りかぶった、だが次の瞬間大きく左上に跳ねた、木の人形を軽々と飛び越えると街道の両側に立ち並ぶ巨木の幹に着地した、大木が揺らぐ程の衝撃が生まれた、そのまま眼下の若い魔術師に頭上から襲いかかった。

若い男はルディを見失い狼狽している、だが忠実な骸骨戦士の護衛達が虚ろな目を上空のルディに向けていた、壮年の魔術師が何かを叫んでいる、そして若い男がついに上を見上げた、そして信じられない物を見たかのように絶望に彼の目は見開かれた。


ルディはその死霊術師を叩き切るべく飛翔する。


だがその瞬間左側から迫る強大な力を感じ瞬間的に全身に力を漲らせ襲撃に備える、金属のナックルの輝きが光の尾を曳きながら迫ってくる。

それを剣の腹で受け止めると金属の音が高らかに鳴り響いた、剣の腹が金属の鈍器を受け止めていた、ルディはそのまま反対側の方向に激しい力で吹き飛ばされていた。

前方に迫る街路樹にぶつかる瞬間に受け身をとって下に着地した、だがまったく身体に損害は無い。


そしてボロボロの執事服姿の初老の男の声が聞こえてくる。


「危ないですねえ、オスカー君私がいなければ」


その瞬間こんどはその男が真横に吹き飛ばされた。


「戦いのさなかに何をしていますのかしら」


アマンダがルディを背にする様に目の前に立っていた、彼女はこちらを振り返り微笑む。

アマンダの旅装はだいぶ傷ついていた、軽く汗をかいているが、頬は紅潮しその表情から彼女の興奮と喜びが伝わってくる。


アマンダは互角に戦える敵に飢えていた。


幽界への門を開き聖霊拳の上達者として究極の域に到達した彼女は、ある時拳士としての喜びは失われてしまったと寂しげに告げた事を思い出した。

新しい自分の道を探したいと言っていた、それはルディガーがまだエルニアのアウデンリート城に半ば幽閉されていた頃の事、アマンダは侍女としてルディガーの身辺に仕えてくれていた、それに申し訳ない気分になったものだ。


「あの男は私が抑えますわ」

ルディは刮目した。


「お嬢様、今のは効きましたよ?」

口元に血を滲ませながら聖霊拳の男がこちらにやってくる。


「無駄話をしているからです、話すとよけいな筋肉を使うからよ」

男の顔が鬼の様に変わった、二人の間に凄まじい力が再び満ち始める。


「アマンダここはたのむ」

アマンダの背中しか見えないが、彼女は微笑んでいる、幼なじみのアマンダの事はなんとなくよく分かるのだ。

ふたたび己の活力がみなぎるそして大柄な魔術師達を睨んだ、どうやらホンザの術から自由を取り戻したようだ、そしてまた見慣れない何かが見えた新たな召喚精霊だろうか。


「私にここはおまかせください」


アマンダの声と共に聖霊拳の空極の戦いが始まった、それを顧みる事もなく戦場に戻るべく状況を素早く把握した。


敵には四人の死霊術師がいたその中でも三人はかなりの手練だ。

アゼルとホンザは魔術陣地を巧みに利用して敵を翻弄している、だが敵の召喚精霊に苦戦させられていた、巨大な黒竜に木の人形そしてあらたに何かが召喚された、骸骨の戦士たちが雑兵として周囲を固めている。


そして離れた森の中で、もう一つの人外の戦いが繰り広げられていた、ベルとあの吟遊詩人が闘っていた、ベルもアマンダも戦力として期待できそうにない。

アゼルとホンザに攻撃の機会を創るために自分が攻撃を仕掛けるしかないと覚悟した。


敵の注意を引き付けるべく前に出た、骸骨と召喚精霊が動きその後方から攻撃魔術が襲いかかる、漆黒の槍や黒い礫が襲いかかってくる、それを神速の速度でかわし魔剣で叩き落とし前進した。


迫りくる骸骨戦士が迫った瞬間総てが消えうせた。




ルディは驚き周囲を見回した、まったく変わらない夜の森の中だ、だが骸骨も召喚精霊共も姿が見えない、アマンダ達の戦いの余波も感じず、混乱する輸送隊の騒音も吹き上がる炎もそこには無かった。

ただ静かな夜の森が広がっていた。


「ここはわしの魔術陣地の中だ」

背後に黒いローブ姿の白い髪と長い髭の老魔術師ホンザがいた。

「殿下ご無事でしたか、敵に召喚精霊がいて手を焼いておりました、想定外の戦力がいました」

それはアゼルの声だ青いローブの長身の魔術師が姿を現す。


「魔術陣地はやはり一人では戦えぬのう」

ホンザの言葉には皮肉な響きがあった、だがのんびりしてはいられない、今度はベルやアマンダに負担がかる。

「のんびりしていられんぞ、なぜ俺を呼び込んだ?」


アゼルは銀色の金属の棒を見せるそれに見覚えがある、それに胸のペンダントがすかざす反応する。


『それは儂がお主に与えたものだ、ミュディガルドの氷の軍勢の魔術道具じゃな』

「アマリア様そうです、再度魔力を補充いたしました」

『それはご苦労じゃな、良く補充できたものよそれを使うのか』

「はい、魔力効率は極めて悪いですが術式構築と詠唱が不要なのが利点です」


「殿下には敵の注意を惹きつけていただければこれを使用します、効果は先程の氷の嵐と同じです」


すると音のない振動を感じた、地震とは異なる世界が揺れるような奇妙な感触。

「ルディガー殿、この陣地は今も執拗に攻撃を受けておる、それだけ現世から浅い処にあるのだ、いそいでくれ」

ホンザは平静を保っているが今日は魔力の消耗が激しかった、彼に魔術陣地の維持は負担が大きいのかも知れなかった。

「俺は出る、機会があれば俺に構わずそれを使え、いいなアゼル」


そう言い残すと愛剣を構え一気に外に飛び出した。







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